ストーカー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/28 00:21 UTC 版)
分類
病による分類
1989年のメロイによる分類
- 妄想型
- 誤った自身の恋愛の世界観を構築する型。
- 境界型
- 被害者と接点がなく、加害者が自身の価値を示すことで被害者と親密になろうとする型。
1993年のゾーナによる分類
ゾーナは[注 1]、ストーキングを脅迫的ハラスメントと定義して、3つに分類した[51]。
1995年のカートによる分類
以下の2つに分類した[52]。
1996年の町沢による分類
- ボーダーライン型
- 自身に向けられる嫌悪に敏感で、憤怒をすぐ攻撃に転換する。
- 妄想障害型
- 自分が嫌われていないと盲信し、いつまでも被害者を追いかけ続ける。
1997年のレスラーによる分類
ロバート・K・レスラーは、以下の形でストーカーを分類した[54]。
動機
上智大学教授の福島章は、ストーカーの心理が多様であると述べている[56]。しかし、共通点として精神的に未熟なまま大人になった人間の性質が見られるとも述べている[56]。ストーカーは被害者との関係を母親に対する乳児のように絶対的に依存するものを望み、自身の要求が満たされない場合、被害者を攻撃する[57]。この関係は、ギブアンドテイクを前提とする大人同士の関係において成立しない[58]。これらは幼い時に十分に甘えられなかったことや、現代人の欲求不満への耐性の減少が影響していると福島は考えている[59]。その一方で、福島はストーカーは被害者への想像力が欠落しているとも述べている[60]。併せて、2者間の関係では強く出るが、第三者や権威に弱い人間も多いと指摘している[61]。心理カウンセラーの荒木創造はストーカーの性格について、他責の傾向が強い他、自身の不全感から逃避し続けていると述べている[62]。ミューレンたちによると、ストーカーはストーキングについて「目的達成のための手段」と言い逃れをしている[63]。元ストーカーで任意団体「ストーカー・リカバリー・サポート」代表の守屋秀勝は、ストーカーをしていた時の体験について、すべて被害者に責任をなすりつけていたと語っている[64]。
NPO法人ヒューマニティ理事長の小早川明子は、カウンセリングの経験を通して、「ストーカーは何も考えていない」と断言している[65]。これは被害者への接近欲求が理性を上回り、ストーカーの発言内容にかかわらず、無意識の欲求に隷属している状態だと説明している[66]。また、テレビプロデューサーの田淵俊彦によるストーカーへのインタビューにて、小早川は法的には揉め事の中で最初に名乗りを上げた方が被害者になれると述べている[67]。しかし、心理的には離れることを望んだ方が被害者で[67]、仮にストーキングをしなくとも相手が自身の監視下でもがき苦しむ様を眺望するのはストーカー的な心理と変わらないと述べている[68]。
犯行
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暴力
身体的暴力を振るうストーカーは、ストーカー全体の4分の1程度を占めるが、被害者からすれば自身を追うストーカーが該当するか判別することは困難である[69]。暴力を振るうストーカーに性差はなく、また被害者も性別を問わない[70]。科学警察研究所犯罪行動科学部の研究では、20代や無職の暴力犯罪前歴を持つ人間はストーキングの再発リスクが高いとされている[71]。また、社会的に孤立したストーカーは暴力的な行為に至る可能性が高いものの、精神保健機関、社会奉仕団体、宗教団体、家族、友人などの交流によってそのリスクを低減することが可能とされている[72]。
性暴力
ストーカーが被害者に恋愛感情を抱いている場合、性暴力のリスクも存在する[69]。具体的にはデートDV、リベンジポルノやそれを用いた脅迫、強姦、被害者が女性の場合、被害による妊娠などが当てはまる[73]。2013年10月に発生した三鷹ストーカー殺人事件では、被害者のリベンジポルノが拡散し、リベンジポルノ防止法が制定されることとなった[74]。男性被害者が女性ストーカーから強姦されたり[75]、同性愛などの関係でストーキングが発生することもある[76]。しかし、男性被害者が女性ストーカーの被害に遭う場合、本人では対処できないほど事態が悪化するまで取り上げられないことが多い[70]。被害者が同性愛者の場合、警察の無理解に遭遇する可能性の他、不本意なカミングアウトの必要に迫られることもある[76]。
ストーカー以外からの加害行動
ストーカーが第三者を通じて被害者への連絡を試みたり、追跡したりするケースがある[77]。ストーカーが事情を正しく説明しているケースと、虚言によって第三者を騙しているケースが混在する[78]。逆に被害者が無関係の第三者をストーカーの仲間と誤解するケースも存在する[77]。
加害者の中で最も多いのは私立探偵だが、これはストーカーに金銭的な余裕がないと依頼できない[79]。中には私立探偵の免許を取得し、法に則ってストーキングに勤しんだ人物も存在する[79]。成人後の交際で、ストーカーから依頼を受けた復讐屋が関与するケースも存在する[80]。家族や友人がストーカーの代理でストーキングさせられることもある[78]。イギリスでの全国調査によると、ストーカーの4割が家族や友人の協力を得てストーキングを行っている[81]。不本意な第三者による加害行動では、司法機関や警察[82]、医療関係者[83]、教会、不動産関係者、心霊研究家、自動車[84]、インターネットなどが挙げられる[85]。特にインターネットは被害者が自身の情報を公開するケースに留意する[86]。
殺人
ストーカー全体の内殺人に至るのは1.9パーセントと限られている[87]。ただし、この割合は現実の殺人発生率を低く見積もったものであることがたびたび指摘されている[88]。また、この割合であればアメリカやイギリス、オーストラリアでの殺人発生率を上回ることから、ストーカー殺人の発生率については検討の余地が残る[89]。
ストーカー殺人では、ストーカーの自殺が頻発する[90]。これは目標達成による充実感と、目標を失ったことによる喪失感によるものと言われている[90]。秋岡は自殺した殺人犯について、日本の警察は寛容だが、被害者遺族のためにも真実を明らかにして欲しいと述べている[90]。
日本では、ストーカー殺人によって企業が労働災害の保証を求められた判例が存在する[91]。この場合、業務起因性が認められることや、労働者の業務との関連性が重視される[92]。弁護士の小西華子は、珍しいケースであることに留意するよう述べている[92]。
小早川は、恋愛感情に基づくストーカーの一部について、被害者との接触の中で自身の正当性を盲信していると述べている[93]。そして被害者に迷惑を掛けていることを認識しながらも、自身に好意を持ってくれる期待を持ち続けており、希望が断たれると殺人や自殺を引き起こすとしている[94]。そして加害者はそうした「こだわり」への回答を求め、苦しみ続けているとしている[95]。こうしたこだわりの中に、ストーキングの解決への糸口が存在すると述べている[94]。
代表的な殺人事件
年齢は事件当時のものを記す。死者はストーキングの中での死者のみとし、別件や後遺症による死者は本項では掲載しない。
日本
事件 | 発生日 | 発生場所 | ストーカー | 被害者 | 死者 |
---|---|---|---|---|---|
元祖ストーカー殺人事件[96] | 1988年3月5日 | 東京都品川区 | 男性(50) | 中里綴 | 被害者と同一 |
群馬一家3人殺害事件[97] | 1998年1月14日 | 群馬県高崎市 | 男性(28) | 女性 |
|
西尾市女子高生ストーカー殺人事件[98] | 1999年8月9日 | 愛知県西尾市 | 男性(17) | 女性(16) | 被害者と同一 |
桶川ストーカー殺人事件 | 1999年10月26日 | 埼玉県桶川市 | 27-34歳の男性5人 | 女性(21) | 被害者と同一 |
沼津女子高生ストーカー殺人事件[99] | 2000年4月19日 | 静岡県沼津市 | 男性(27) | 女性(17) | 被害者と同一 |
神奈川県警女性隊員殺害事件 | 2000年12月4日 | 神奈川県横浜市 | 男性(42) | 女性(28) |
|
警視庁立川警察署警察官女性射殺事件[100] | 2007年8月20日 | 東京都国分寺市 | 男性(40) | 女性(32) | 被害者と同一 |
函館ストーカー殺人事件[101] | 2007年11月26日 | 北海道函館市 | 男性(22) | 女性(23) | 被害者と同一 |
ルネサンス佐世保散弾銃乱射事件[102] | 2007年12月14日 | 長崎県佐世保市 | 男性(37) | 女性(27) |
|
新橋ストーカー殺人事件 | 2009年8月3日 | 東京都港区 | 男性(41) | 女性(21) |
|
太子町ストーカー事件[103] | 2011年5月 | 兵庫県太子町 | 男性(27) | 女性(20) | 被害者と同一 |
平野区母娘殺害事件 | 2011年6月24日 | 大阪府大阪市 | 男性(35) | 女性(27) |
|
長崎ストーカー殺人事件 | 2011年12月16日 | 長崎県西海市 | 男性(27) | 女性 |
|
逗子ストーカー殺人事件 | 2012年11月6日 | 神奈川県逗子市 | 男性(40) | 女性(33) | 被害者と同一 |
伊勢原ストーカー殺人未遂事件[104] | 2013年5月21日 | 神奈川県伊勢原市 | 男性(32) | 女性(31) | なし |
三鷹ストーカー殺人事件 | 2013年10月8日 | 東京都三鷹市 | 男性(21) | 女性(18) | 被害者と同一 |
市川ストーカー殺人事件[105] | 2013年11月27日 | 千葉県市川市 | 男性(23) | 女性(22) | 被害者と同一 |
館林ストーカー殺人事件 | 2014年2月19日 | 群馬県館林市 | 男性(39) | 女性(26) | 被害者と同一 |
平野区ストーカー殺人事件[106] | 2014年5月2日 | 大阪府大阪市 | 男性(57) | 女性(38) | 被害者と同一 |
日野市ストーカー死体遺棄殺人事件[107] | 2014年6月18日 | 東京都日野市 | 男性(24) | 女性(24) | 被害者と同一 |
平塚ホステス死体遺棄事件[108] | 2014年10月26日 | 神奈川県平塚市 | 男性(34) | 女性(26) | 被害者と同一 |
愛媛僧侶ストーカー殺人事件[109] | 2014年12月16日 | 愛媛県松山市 | 男性(29) | 女性(37) | 被害者と同一 |
小金井ストーカー殺人未遂事件 | 2016年5月21日 | 東京都小金井市 | 男性(27) | 女性(21) | なし |
目黒ストーカーバラバラ殺人事件[110] | 2016年9月20日 | 東京都目黒区 | 男性(50) | 女性(24) | 被害者と同一 |
静岡ストーカー殺人事件[111] | 2016年10月4日 | 静岡県牧之原市 | 男性(41) | 女性(32) | 被害者と同一 |
浜松ストーカー殺人事件[112] | 2018年11月1日 | 静岡県浜松市 | 男性(45) | 女性(48) | 被害者と同一 |
大宮女性刺殺事件[113][114] | 2019年1月23日 | 埼玉県さいたま市 | 男性(25) | 女性(22) | 被害者と同一 |
沼津女子大生ストーカー殺人事件[115][116] | 2020年6月27日 | 静岡県沼津市 | 男性(20) | 女性(19) | 被害者と同一 |
北九州ストーカー殺人事件[117][118] | 2021年11月1日 | 福岡県北九州市 | 男性(52) | 女性(49) | 被害者と同一 |
博多駅前女性刺殺事件[117] | 2023年1月16日 | 福岡県福岡市 | 男性(31) | 女性(38) | 被害者と同一 |
日本以外
事件 | 発生日 | 発生場所 | ストーカー | 被害者 | 死者 |
---|---|---|---|---|---|
ジョン・レノンの殺害 | 1980年12月8日 | ニューヨーク市 | マーク・チャップマン | ジョン・レノン | 被害者と同一 |
レーガン大統領暗殺未遂事件 | 1981年3月30日 | ワシントンD.C. | ジョン・ヒンクリー | ジョディ・フォスター | なし |
ローラ・ブラック事件 | 1988年2月16日 | カリフォルニア州 | リチャード・ファーレー | ローラ・ブラック | ESL社社員7名 |
レベッカ・シェイファーの殺害 | 1989年7月18日 | ロサンゼルス | ロバート・ジョン・バルド | レベッカ・シェイファー | 被害者と同一 |
O・J・シンプソン事件[119] | 1994年6月13日 | ロサンゼルス | |||
セレーナの殺害[120] | 1995年3月31日 | テキサス州 | ヨランダ・サルディバル | セレーナ | 被害者と同一 |
ジル・ダンドーの殺害[121] | 1999年4月26日 | フラム | 男性 | ジル・ダンドー | 被害者と同一 |
アンドリュー・バッグビィの殺害[122] | 2001年11月5日 | ニューヨーク市 | シャーリー・ターナー | アンドリュー・バッグビィ | 被害者と同一 |
メアリー・リン・ウィザースプーンの殺害[123] | 2003年11月14日 | サウスカロライナ州 | 男性(23) | メアリー・リン・ウィザースプーン | 被害者と同一 |
コロンバス・ナイトクラブ銃乱射事件[120] | 2004年12月8日 | オハイオ州 | ネイサン・ゲイル | ダイムバッグ・ダレル |
|
シャナ・グリスの殺害[124] | 2016年8月25日 | イースト・サセックス | 男性(27) | シャナ・グリス | 被害者と同一 |
注釈
- ^ 参考文献ではゾーマ(Zoma)だが、The British Journal of Psychiatryと[48]、A MULTIVARIATE MODEL OF STALKING BEHAVIOURS[49]、Journal of Forensic Sciencesでタイプミスと見られるため[50]、元文献に照らし合わせてゾーナと記す。
- ^ 被害者が大学生の場合[169]。
- ^ 夫婦間の派生によるストーキングの場合[170]。
- ^ 夫婦間の派生によるストーキングの場合[170]。
- ^ 警察・検察の調書や判決文など、裁判で用いられたすべての資料[196]。
- ^ 活動名[208]。
- ^ 一方で、NPO法人ヒューマニティへの相談の割合では半々となっている[244]。
出典
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