減食と運動は無意味
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1990年代初期、アメリカ国立衛生研究所(The National Institutes of Health)は、『The Women's Health Initiative』(『女性の健康構想』)と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。このとき、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、そのうち19541人を無作為に選んだ。研究は1993年に開始し、8年間続けられた。研究者たちは、参加した女性たちに対し、果物・野菜・全粒穀物・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続けるにあたり、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。脂肪の摂取量については、摂取カロリーのうちの38%から20%に減らすことを目標とし、参加した女性たちについて、体重の増減、コレステロールの数値、脳卒中、心臓発作、乳癌、直腸癌、その他の心血管疾患を発症するかどうかについても調べた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。参加した女性たちは「少なく食べるように」「脂肪が少ないものを食べるように」「運動するように」という指示も与えられ、減食と運動を忠実にこなし続けた。 この生活を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者たちは「脂肪分の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。脂肪の摂取量が少ない食事には、乳癌、心臓病、脳卒中の発症リスクを下げる効果も、閉経後の女性の結腸直腸癌のリスクを下げる効果も一切無かった。彼女らが受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった。研究者たちは、「低脂肪食は乳癌を患うリスクを下げるだろう」と考え、栄養士たちは「脂肪の摂取量について、目標の数値である20%まで下げれば、低脂肪食の効果が明白になった可能性がある」と述べた。8年間かけて行われたこの研究結果はアメリカ医師会雑誌(『Journal of the American Medical Association』)に掲載された。『女性の健康構想』の研究結果が示しているのは、「癌や心血管疾患を防ぐという目的において、低脂肪食には何の効果も無い」ということである。 ハーバード大学の研究者ブルース・ビストリアン(Bruce Bistrian)は、「減食(食べる量を減らす)は、肥満に対する処置にも治療法にもならない。最も目立つ症状を一時的に緩和する方法でしかない。もしも減食が肥満に対する処置にも治療にもならないとするなら、これは『過食は肥満の原因ではない』ことを示す」と述べている。「過食が肥満の原因である」という考えに疑問を投げかけるあらゆる理由の中で最も明確なものは、「肥満は、食べる量を減らしても治せない」という事実である。 1977年、アメリカ合衆国において、運動熱の高まりが強まっていたころ、アメリカ国立衛生研究所は、肥満および体重制御についての2度目の会議を主催した。この会議に集まった専門家たちは、「体重を制御するという点において、運動の重要性は、想像している以上に低い。ヒトは運動量を増やせば、同時に食べる量も増えがちになり、運動による消費エネルギーの増加が食べる量の増加に勝るのかどうか、それを予測するのは不可能である」という結論に達した。 カリフォルニア州ローレンスバークリー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory)の統計学者、ポール・ウィリアムズ(Paul Williams)と、スタンフォード大学の研究者ピーター・ウッド(Peter Wood)は、普段からよく走る習慣のある13000人を集め、これらのランナーたちの1週間の累計走行距離と、年ごとの体重の変化を比較する研究を行った。ピーター・ウッドは、運動が健康にどのような影響を及ぼすのかについて、1970年代から研究を行っていた人物でもある。この13000人のランナーについての研究では、最もたくさん走った人ほど最も体重が少ない傾向こそあったが、これらのランナー全員、「年を追うごとに太っていく(身体に脂肪が蓄積していく)」傾向にあった。 1970年代までに、「運動には肥満を解消する効果は無い」という証拠は多数あったが、研究者たちを「運動すれば体重を維持あるいは減少できる」という信念に駆り立てたのは、それが「真実である」と信じたがっていた彼らの願望と、公に「そうではない」と認めることに対する彼らのためらいがあった。研究者たちは、実際の証拠が何を示そうとも、「運動とエネルギー消費が肥満の程度を決めるという考えを後押しする結果だけ」を論議した。一方で、この見解を反証する証拠に対しては、その数がどれほど多かったとしても、無視した。 2007年、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー(Jeffrey Flier)とその妻テリー・マラトス・フライアー(Terry Maratos-Flier)は、雑誌『Scientific American』に論文を寄稿し、その中で「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている。 2007年8月、アメリカ心臓協会(The American Heart Association)とアメリカスポーツ医学会(The American College of Sports Medicine)は、身体活動と健康に関するガイドラインを共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。 「1日あたりのエネルギー消費の多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、『説得力がある』とは呼べない」 1970年代までの一般のアメリカ人の多くは、避けられるのであれば、空いた時間に汗を流すべきであるとは考えていなかった。1977年、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は当時のアメリカについて、「運動熱の高まりの真っ只中にある」と報じた。1960年代のアメリカでは「Exercise is bad for you」(「運動は身体に毒である」)というのが広く行き渡った考え方であったが、それがいつしか、「Strenuous exercise is good for you」(「苦痛を覚えるほどの運動は身体に良いのだ」)と変遷していった。 2007年、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー(Jeffrey Flier)とその妻テリー・マラトス・フライアー(Terry Maratos-Flier)は、雑誌『Scientific American』に論文を寄稿し、その中で「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている。 2007年8月、アメリカ心臓協会(The American Heart Association)とアメリカスポーツ医学会(The American College of Sports Medicine)は、身体活動と健康に関する指針を共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。 「1日あたりのエネルギーの消費量が多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。今のところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、説得力は無い」。 1960年、疫学者のアルヴァン・ファインシュタイン(Alvan Feinstein)は、医学雑誌『The Journal of Chronic Diseases』に掲載された批評で様々な肥満治療の有効性について分析し、その中で、「エネルギーの消費量を増やすという点において、運動は何の役にも立たない」とし、肥満を治す手段として「運動」を却下した。ファインシュタインは、「体重を減らす目的で十分なカロリーを消費するには、『やり過ぎ』と呼べるぐらいの身体活動が必要になる。 さらに、身体運動は食べ物に対する欲求を惹起し、その後のカロリーの摂取量が、運動中に失われたものを超えてしまう可能性が出てくる」と指摘した。 1973年10月、アメリカ国立衛生研究所(The National Institutes of Health)は肥満についての会議を主催した。この会議の参加者の1人でスウェーデン人の研究者、パル・ビヨントルプ(Per Björntorp)は、肥満と運動に関する自身の臨床試験の結果について報告した。ビヨントルプは肥満体の被験者7人に対して週3回の運動計画を実施し、半年間続けた。結果は、半年間の運動を経て被験者たちの身体は相変わらず重く、太ったままであった。1977年、アメリカ国立衛生研究所は2度目の肥満会議を主催した。この会議に集まった専門家たちは最終的に以下の結論に達した。 「体重の管理における運動の重要性は信じがたいほどに低い。ヒトは運動量を増やせば、同時に食べる量も増えがちになり、運動による消費エネルギーの増加が食べる量の増加に勝るのかどうか、それを予測するのは不可能である」。 1989年、デンマーク人の研究者が、身体活動が体重減少に及ぼす影響についての研究結果を公表している。普段から座りがちな被験者を、マラソン(26.2マイル)を走れるよう訓練させた。18か月間の訓練を経て、被験者らは実際にマラソンに参加した。この研究に参加した18人の男性の体脂肪は平均で5ポンド(約2.3㎏)減っていたが、女性の被験者9人については、「体組成の変化は一切見られなかった」と書いている。この年、ニューヨークにあるセントルーク・V・ルーズヴェルト病院肥満研究センター長、ハビエール・ピサニイェール(Xavier Pi-Sunyer)は、「運動量を増やせば体重を減らせる」という考えを分析している現存する試験について再調査を行った。彼の結論は以下のとおりであった。「体重と体組成における減少、増加について、変化は一切見られなかった」。 1950年代半ば、ハーバード大学の栄養学者ジョン・マイヤー(Jean Mayer)は、ラットを使ったある実験を行った。毎日数時間、強制的に運動をさせられたラットと、運動を強制されなかったラットとで、ラットの食事量と体重の変化について研究した。運動プログラムに沿って運動を行ったラットは、運動をしなかった日にはより多く餌を食べ、運動をしていない時には身体を動かさないようにすることで消費エネルギーを減らした。一方、運動を強制されたラットの体重は、運動を強制されなかったラットと「全く同じまま」であった。そして、実験用のラットがこの運動プログラムから解放されると、かつてなかったほどの量の餌を食べるようになり、運動を強制されなかったラットよりも、歳とともに急速に体重が増えた。また、ハムスターとアレチネズミを使った研究では、運動させると「体重と体脂肪が増加する」結果に終わった。 このように、運動は、動物を肥満にさせることはあっても痩せさせることは無かった。 1970年代までの一般のアメリカ人の多くは、避けられるのであれば、空いた時間に汗を流すべきであるとは考えていなかった。1977年、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は当時のアメリカについて、「運動熱の高まりの真っ只中にある」と報じた。1960年代のアメリカでは「Exercise is bad for you」(「運動は身体に毒である」)というのが広く行き渡った考え方であったが、それがいつしか、「Strenuous exercise is good for you」(「苦痛を覚えるほどの運動は身体に良いのだ」)と変遷していった。 2019年に発表された研究で、24週間、毎日ウォーキングを続けることで身体に及ぼす影響について調べる実験が行われた。歩数はそれぞれ10000歩、12500歩、15000歩であった。結果は、除脂肪体重は増えたが脂肪も増加し、体重は全く減らなかった。研究者らは、「ウォーキングには、体重の増加・脂肪の増加を防ぐ効果は見られなかった」と結論付けている。 ジョギングを普及させたことで知られるジム・フィックス(Jim Fixx)は、自身がジョギングに励んでいる最中に心臓発作を起こして倒れ、そのまま死亡しており、運動は身体や臓器に負担をかける。 ジョギングの最中およびジョギングを終えた直後に冠状動脈性心臓病(Coronary Heart Disease)で死亡する例は決して珍しいものではない。精良な運動能力が運動中の死亡事故から身体を保護することを示す証拠は無い。 走っている最中に死亡した40歳以上の人間の死因の多くは冠状動脈性心臓病である。10年間で22 - 176km、週に平均で53kmの距離を走っていた40 - 53歳(平均年齢46歳)の5人の白人ランナーが走行中に突然死し、その剖検によれば、ランナーとして走るようになる前に心臓病を患っていた者は1人もいなかった。 体育館にてトレッドミルを使って走っていた57歳の男性が、その最中に突然死亡した。彼の死因は「虚血性心疾患」(Ischemic Heart Disease)であった。研究者らは「身体活動を不定期に行う人は、そうでない人に比べて突然死の危険が高い」「極端な身体活動は、たとえ以前にその症状が無かったとしても、心臓に致命的な結果をもたらす可能性がある」と報告している。 ケープタウン大学の教授で運動生理学とスポーツ医学の専門家、ティム・ノークス(Tim Noakes)は、運動中の突然死について、「50歳以上の人は、あらゆる種類の運動を開始する前に、心血管の診断を受ける必要がある。50歳未満の人でも、突然死した人物の家族歴について面談を行い、心血管疾患の症状とその臨床徴候についての診断を受ける必要がある」「肥大型心筋症を患っている場合、運動中に死亡する危険が高くなる」「アスリートたちは運動中の心臓病の発症を予防できるとは限らない」と書いている。 運動していても、炭水化物を食べている限り高血糖は防げず(高血糖を惹き起こす最も一般的な原因は炭水化物の摂取にある)、インスリン感受性は運動を終えた途端に低下する(インスリン抵抗性が高くなる)。インスリン抵抗性は運動では防げない。 「インスリン感受性が低い」ということは、「インスリン抵抗性が高い」(インスリンの効き目が悪い)状態を意味する。 度が過ぎる運動はミトコンドリア(Mitochondria)の機能障害を惹き起こし、耐糖能(Glucose Tolerance, 上昇した血糖値を下げる、血糖値を正常に保つ能力)も低下させてしまう。 ゲアリー・タウブスは、「『体重を減らす目的で、食べる量を減らして運動量を増やす』という考え方は一見筋が通っているように見えるが、実際には間違っているだけでなく、何の役にも立たない」、「We don't get fat because we overeat; we overeat because we're getting fat.」(「ヒトは過食するから太るのではなく、身体が今まさに太りつつあるから過食に走るのである」)と明言している。また、「肥満は、エネルギーバランス、カロリー理論、過食、熱力学、物理法則とは、何の関係も無い」「過食や運動不足は肥満の原因ではなく、あくまで『結果』でしかない」「『肥満』とは『栄養過剰』ではなく、『栄養失調』の一種である」と断じている。また、「もしも座りがちな生活が我々を肥満にさせ、運動がそれを防いでくれるというなら、肥満ではなく『痩せ』が流行するはずである。しかし実際には、運動熱の始まりと同時に肥満の流行が起こった」と指摘している。また、「減量が目標であり、あなたの健康と生活がそれに左右されるとしても、『1年半の間毎日努力を続ければ、脂肪を5ポンド(約2.3㎏)減らせるかもしれない』と言われたら、あなたは26マイル(42km)を走れるようになるための訓練をするだろうか?」と問いかけている。
※この「減食と運動は無意味」の解説は、「痩身」の解説の一部です。
「減食と運動は無意味」を含む「痩身」の記事については、「痩身」の概要を参照ください。
減食と運動は無意味
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1990年代初期、アメリカ国立衛生研究所(The National Institutes of Health)は、『The Women's Health Initiative』(『女性の健康構想』)と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。このとき、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、そのうち19541人を無作為に選んだ。研究は1993年に開始し、8年間続けられた。研究者たちは、参加した女性たちに対し、果物・野菜・全粒穀物・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続けるにあたり、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。脂肪の摂取量については、摂取カロリーのうちの38%から20%に減らすことを目標とし、参加した女性たちについて、体重の増減、コレステロールの数値、脳卒中、心臓発作、乳癌、直腸癌、その他の心血管疾患を発症するかどうかについても調べた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。参加した女性たちは「少なく食べるように」「脂肪が少ないものを食べるように」「運動するように」という指示も与えられ、減食と運動を忠実にこなし続けた。 この生活を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者たちは「脂肪分の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。脂肪の摂取量が少ない食事には、乳癌、心臓病、脳卒中の発症リスクを下げる効果も、閉経後の女性の結腸直腸癌のリスクを下げる効果も一切無かった。彼女らが受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった。研究者たちは、「低脂肪食は乳癌を患うリスクを下げるだろう」と考え、栄養士たちは「脂肪の摂取量について、目標の数値である20%まで下げれば、低脂肪食の効果が明白になった可能性がある」と述べた。8年間かけて行われたこの研究結果はアメリカ医師会雑誌(『Journal of the American Medical Association』)に掲載された。『女性の健康構想』の研究結果が示しているのは、「癌や心血管疾患を防ぐという目的において、低脂肪食には何の効果も無い」ということである。 ハーバード大学の研究者ブルース・ビストリアン(Bruce Bistrian)は、「減食(食べる量を減らす)は、肥満に対する処置にも治療法にもならない。最も目立つ症状を一時的に緩和する方法でしかない。もしも減食が肥満に対する処置にも治療にもならないとするなら、これは『過食は肥満の原因ではない』ことを示す」と述べている。「過食が肥満の原因である」という考えに疑問を投げかけるあらゆる理由の中で最も明確なものは、「肥満は、食べる量を減らしても治せない」という事実である。 カリフォルニア州ローレンス・バークリー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory)の統計学者、ポール・ウィリアムス(Paul Williams)と、スタンフォード大学の研究者ピーター・ウッド(Peter Wood)は、普段からよく走る習慣のある13000人を集め、これらのランナーたちの1週間の累計走行距離と、年ごとの体重の変化を比較する研究を行った。ピーター・ウッドは、運動が健康にどのような影響を及ぼすのかについて、1970年代から研究を行っていた人物でもある。この13,000人のランナーについての研究では、最もたくさん走った人ほど最も体重が少ない傾向こそあったが、これらのランナー全員、「年を追うごとに太っていく(身体に脂肪が蓄積していく)」傾向にあった。 1970年代までに、「運動には肥満を解消する効果は無い」という証拠は多数あったが、研究者たちを「運動すれば体重を維持あるいは減少できる」という信念に駆り立てたのは、それが「真実である」と信じたがっていた彼らの願望と、公に「そうではない」と認めることに対する彼らのためらいがあった。研究者たちは、実際の証拠が何を示そうとも、「運動とエネルギー消費が肥満の程度を決めるという考えを後押しする結果だけ」を論議した。一方で、この見解を反証する証拠に対しては、その数がどれほど多かったとしても、無視した。 2007年、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー(Jeffrey Flier)とその妻テリー・マラトス・フライアー(Terry Maratos-Flier)は、雑誌『Scientific American』に論文を寄稿し、その中で「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている。 2007年8月、アメリカ心臓協会(The American Heart Association)とアメリカスポーツ医学会(The American College of Sports Medicine)は、身体活動と健康に関する指針を共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。 「1日あたりのエネルギー消費の多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、『説得力がある』とは呼べない」 1960年、疫学者のアルヴァン・ファインシュタイン(Alvan Feinstein)は、医学雑誌『The Journal of Chronic Diseases』に掲載された批評で様々な肥満治療の有効性について分析し、その中で、「エネルギーの消費量を増やすという点において、運動は何の役にも立たない」とし、肥満を治す手段として「運動」を却下した。ファインシュタインは、「体重を減らす目的で十分なカロリーを消費するには、『やり過ぎ』と呼べるぐらいの身体活動が必要になる。 さらに、身体運動は食べ物に対する欲求を惹起し、その後のカロリーの摂取量が、運動中に失われたものを超えてしまう可能性が出てくる」と指摘した。 1973年10月、アメリカ国立衛生研究所は肥満についての会議を主催した。この会議の参加者の1人でスウェーデン人の研究者、パル・ビヨントルプ(Per Björntorp)は、肥満と運動に関する自身の臨床試験の結果について報告した。ビヨントルプは肥満体の被験者7人に対して週3回の運動計画を実施し、半年間続けた。結果は、半年間の運動を経て被験者たちの身体は相変わらず重く、太ったままであった。1977年、アメリカ国立衛生研究所は2度目の肥満会議を主催した。この会議に集まった専門家たちは最終的に以下の結論に達した。 「体重の管理における運動の重要性は信じがたいほどに低い。ヒトは運動量を増やせば、同時に食べる量も増えがちになり、運動による消費エネルギーの増加が食べる量の増加に勝るのかどうか、それを予測するのは不可能である」。 1989年、デンマーク人の研究者が、身体活動が体重減少に及ぼす影響についての研究結果を公表している。普段から座りがちな被験者を、マラソン(26.2マイル)を走れるよう訓練させた。18か月間の訓練を経て、被験者らは実際にマラソンに参加した。この研究に参加した18人の男性の体脂肪は平均で5ポンド(約2.3㎏)減っていたが、女性の被験者9人については、「体組成の変化は一切見られなかった」と書いている。この年、ニューヨークにあるセントルーク・V・ルーズヴェルト病院肥満研究センター長、ハビエール・ピサニイェール(Xavier Pi-Sunyer)は、「運動量を増やせば体重を減らせる」という考えを分析している現存する試験について再調査を行った。彼の結論は以下のとおりであった。「体重と体組成における減少、増加について、変化は一切見られなかった」。 1950年代半ば、ハーバード大学の栄養学者ジョン・マイヤー(Jean Mayer)は、ラットを使ったある実験を行った。毎日数時間、強制的に運動をさせられたラットと、運動を強制されなかったラットとで、ラットの食事量と体重の変化について研究した。運動プログラムに沿って運動を行ったラットは、運動をしなかった日にはより多く餌を食べ、運動をしていない時には身体を動かさないようにすることで消費エネルギーを減らした。一方、運動を強制されたラットの体重は、運動を強制されなかったラットと「全く同じまま」であった。そして、実験用のラットがこの運動プログラムから解放されると、かつてなかったほどの量の餌を食べるようになり、運動を強制されなかったラットよりも、歳とともに急速に体重が増えた。また、ハムスターとアレチネズミを使った研究では、運動させると「体重と体脂肪が増加する」結果に終わった。 このように、運動は、動物を肥満にさせることはあっても痩せさせることは無かった。 1970年代までの一般のアメリカ人の多くは、避けられるのであれば、空いた時間に汗を流すべきであるとは考えていなかった。1977年、ニューヨーク・タイムズは当時のアメリカについて、「運動熱の高まりの真っ只中にある」と報じた。1960年代のアメリカでは「Exercise is bad for you」(「運動は身体に毒である」)というのが広く行き渡った考え方であったが、それがいつしか、「Strenuous exercise is good for you」(「苦痛を覚えるほどの運動は身体に良いのだ」)と変遷していった。 2019年に発表された研究で、24週間、毎日ウォーキングを続けることで身体に及ぼす影響について調べる実験が行われた。歩数はそれぞれ10000歩、12500歩、15000歩であった。結果は、除脂肪体重は増えたが脂肪も増加し、体重は全く減らなかった。研究者らは、「ウォーキングには、体重の増加・脂肪の増加を防ぐ効果は見られなかった」と結論付けている。 ジョギングを普及させたことで知られるジム・フィックス(Jim Fixx)は、自身がジョギングに励んでいる最中に心臓発作を起こして倒れ、そのまま死亡しており、運動は身体や臓器に負担をかける。 ジョギングの最中およびジョギングを終えた直後に冠状動脈性心臓病(Coronary Heart Disease)で死亡する例は決して珍しいものではない。精良な運動能力が運動中の死亡事故から身体を保護することを示す証拠は無い。 走っている最中に死亡した40歳以上の人間の死因の多くは冠状動脈性心臓病である。10年間で22 - 176km、週に平均で53kmの距離を走っていた40 - 53歳(平均年齢46歳)の5人の白人ランナーが走行中に突然死し、その剖検によれば、ランナーとして走るようになる前に心臓病を患っていた者は1人もいなかった。 体育館にてトレッドミルを使って走っていた57歳の男性が、その最中に突然死亡した。彼の死因は「虚血性心疾患」(Ischemic Heart Disease)であった。研究者らは「身体活動を不定期に行う人は、そうでない人に比べて突然死の危険が高い」「極端な身体活動は、たとえ以前にその症状が無かったとしても、心臓に致命的な結果をもたらす可能性がある」と報告している。 ケープタウン大学の教授で運動生理学とスポーツ医学の専門家、ティム・ノークス(Tim Noakes)は、運動中の突然死について、「50歳以上の人は、あらゆる種類の運動を開始する前に、心血管の診断を受ける必要がある。50歳未満の人でも、突然死した人物の家族歴について面談を行い、心血管疾患の症状とその臨床徴候についての診断を受ける必要がある」「肥大型心筋症を患っている場合、運動中に死亡する危険が高くなる」「アスリートたちは運動中の心臓病の発症を予防できるとは限らない」と書いている。 運動していても、炭水化物を食べている限り高血糖は防げず(高血糖を惹き起こす最も一般的な原因は炭水化物の摂取にある)、インスリン感受性は運動を終えた途端に低下する(インスリン抵抗性が高くなる)。インスリン抵抗性は運動では防げない。 「インスリン感受性が低い」ということは、「インスリン抵抗性が高い」(インスリンの効き目が悪い)状態を意味する。 度が過ぎる運動はミトコンドリア(Mitochondria)の機能障害を惹き起こし、耐糖能(Glucose Tolerance, 上昇した血糖値を下げる、血糖値を正常に保つ能力)も低下させてしまう。 ゲアリー・タウブスは、「『体重を減らす目的で、食べる量を減らして運動量を増やす』という考え方は一見筋が通っているように見えるが、実際には間違っているだけでなく、何の役にも立たない」、「We don't get fat because we overeat; we overeat because we're getting fat.」(「ヒトは過食するから太るのではなく、身体が今まさに太りつつあるから過食に走るのである」)と明言している。また、「肥満は、エネルギーバランス、カロリー理論、過食、熱力学、物理法則とは、何の関係も無い」「過食や運動不足は肥満の原因ではなく、あくまで『結果』でしかない」「『肥満』とは『栄養過剰』ではなく、『栄養失調』の一種である」と断じている。また、「もしも座りがちな生活が我々を肥満にさせ、運動がそれを防いでくれるというなら、肥満ではなく『痩せ』が流行するはずである。しかし実際には、運動熱の始まりと同時に肥満の流行が起こった」と指摘している。また、「減量が目標であり、あなたの健康と生活がそれに左右されるとしても、『1年半の間毎日努力を続ければ、脂肪を5ポンド(約2.3㎏)減らせるかもしれない』と言われたら、あなたは26マイル(42km)を走れるようになるための訓練をするだろうか?」と問いかけている。
※この「減食と運動は無意味」の解説は、「肥満」の解説の一部です。
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減食と運動は無意味
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/30 13:56 UTC 版)
1990年代初期、アメリカ国立衛生研究所(The National Institutes of Health)は、『The Women's Health Initiative』(『女性の健康構想』)と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。このとき、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、そのうち19,541人を無作為に選んだ。研究は1993年に開始し、8年間続けられた。研究者たちは、参加した女性たちに対し、果物・野菜・全粒穀物・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続けるにあたり、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。脂肪の摂取量については、摂取カロリーのうちの38%から20%に減らすことを目標とし、参加した女性たちについて、体重の増減、コレステロールの数値、脳卒中、心臓発作、乳癌、直腸癌、その他の心血管疾患を発症するかどうかについても調べた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。参加した女性たちは「少なく食べるように」「脂肪が少ないものを食べるように」「運動するように」という指示も与えられ、「食べる量を減らして運動量を増やす」を忠実にこなし続けた。 この生活を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者たちは「脂肪分の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。脂肪の摂取量が少ない食事には、乳癌、心臓病、脳卒中の発症リスクを下げる効果も、閉経後の女性の結腸直腸癌のリスクを下げる効果も一切無かった。彼女らが受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7,000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった。研究者たちは、「低脂肪食は乳癌を患うリスクを下げるだろう」と考え、栄養士たちは「脂肪の摂取量について、目標の数値である20%まで下げれば、低脂肪食の効果が明白になった可能性がある」と述べた。8年間かけて行われたこの研究結果はアメリカ医師会雑誌(『Journal of the American Medical Association』)に掲載された。『女性の健康構想』の研究結果が示しているのは、「癌や心血管疾患を防ぐという目的において、低脂肪食には何の効果も無い」ということである。 ハーバード大学の研究者ブルース・ビストリアン(Bruce Bistrian)は、「減食(食べる量を減らす)は、肥満に対する処置にも治療法にもならない。最も目立つ症状を一時的に緩和する方法でしかない。もしも減食が肥満に対する処置にも治療にもならないとするなら、これは『過食は肥満の原因ではない』ことを示す」と述べている。「過食が肥満の原因である」という考えに疑問を投げかけるあらゆる理由の中で最も明確なものは、「肥満は、食べる量を減らしても治せない」という事実である。 カリフォルニア州ローレンス・バークリー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory)の統計学者、ポール・ウィリアムス(Paul Williams)と、スタンフォード大学の研究者ピーター・ウッド(Peter Wood)は、普段からよく走る習慣のある13000人を集め、これらのランナーたちの1週間の累計走行距離と、年ごとの体重の変化を比較する研究を行った。ピーター・ウッドは、運動が健康にどのような影響を及ぼすのかについて、1970年代から研究を行っていた人物でもある。この13,000人のランナーについての研究では、最もたくさん走った人ほど最も体重が少ない傾向こそあったが、これらのランナー全員、「年を追うごとに太っていく(身体に脂肪が蓄積していく)」傾向にあった。 1970年代までに、「運動には肥満を解消する効果は無い」という証拠は多数あったが、研究者たちを「運動すれば体重を維持あるいは減少できる」という信念に駆り立てたのは、それが「真実である」と信じたがっていた彼らの願望と、公に「そうではない」と認めることに対する彼らのためらいがあった。研究者たちは、実際の証拠が何を示そうとも、「運動とエネルギー消費が肥満の程度を決めるという考えを後押しする結果だけ」を論議した。一方で、この見解を反証する証拠に対しては、その数がどれほど多かったとしても、無視した。 2007年、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー(Jeffrey Flier)とその妻テリー・マラトス・フライアー(Terry Maratos-Flier)は、雑誌『Scientific American』に論文を寄稿し、その中で「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている。 2007年8月、アメリカ心臓協会(The American Heart Association)とアメリカ・スポーツ医学会(The American College of Sports Medicine)は、身体活動と健康に関する要綱を共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。 「1日あたりのエネルギー消費の多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、『説得力がある』とは呼べない」 1960年、疫学者のアルヴァン・ファインシュタイン(Alvan Feinstein)は、医学雑誌『The Journal of Chronic Diseases』に掲載された批評で様々な肥満治療の有効性について分析し、その中で、「エネルギーの消費量を増やすという点において、運動は何の役にも立たない」とし、肥満を治す手段として「運動」を却下した。ファインシュタインは、「体重を減らす目的で十分なカロリーを消費するには、『やり過ぎ』と呼べるぐらいの身体活動が必要になる。 さらに、身体運動は食べ物に対する欲求を惹起し、その後のカロリーの摂取量が、運動中に失われたものを超えてしまう可能性が出てくる」と指摘した。 1973年10月、アメリカ国立衛生研究所は肥満についての会議を主催した。この会議の参加者の1人でスウェーデン人の研究者、パル・ビヨントルプ(Per Björntorp)は、肥満と運動に関する自身の臨床試験の結果について報告した。ビヨントルプは肥満体の被験者7人に対して週3回の運動計画を実施し、半年間続けた。結果は、半年間の運動を経て被験者たちの身体は相変わらず重く、太ったままであった。1977年、アメリカ国立衛生研究所は2度目の肥満会議を主催した。この会議に集まった専門家たちは最終的に以下の結論に達した。 「体重の管理における運動の重要性は信じがたいほどに低い。ヒトは運動量を増やせば、同時に食べる量も増えがちになり、運動による消費エネルギーの増加が食べる量の増加に勝るのかどうか、それを予測するのは不可能である」。 1989年、デンマーク人の研究者が、身体活動が体重減少に及ぼす影響についての研究結果を公表している。普段から座りがちな被験者を、マラソン(26.2マイル)を走れるよう訓練させた。18か月間の訓練を経て、被験者らは実際にマラソンに参加した。この研究に参加した18人の男性の体脂肪は平均で5ポンド(約2.3㎏)減っていたが、女性の被験者9人については、「体組成の変化は一切見られなかった」と書いている。この年、ニューヨークにあるセントルーク・V・ルーズヴェルト病院肥満研究センター長、ハビエール・ピサニイェール(Xavier Pi-Sunyer)は、「運動量を増やせば体重を減らせる」という考えを分析している現存する試験について再調査を行った。彼の結論は以下のとおりであった。「体重と体組成における減少、増加について、変化は一切見られなかった」。 1950年代半ば、ハーバード大学の栄養学者ジョン・マイヤー(Jean Mayer)は、ラットを使ったある実験を行った。毎日数時間、強制的に運動をさせられたラットと、運動を強制されなかったラットとで、ラットの食事量と体重の変化について研究した。運動プログラムに沿って運動を行ったラットは、運動をしなかった日にはより多く餌を食べ、運動をしていない時には身体を動かさないようにすることで消費エネルギーを減らした。一方、運動を強制されたラットの体重は、運動を強制されなかったラットと「全く同じまま」であった。そして、実験用のラットがこの運動プログラムから解放されると、かつてなかったほどの量の餌を食べるようになり、運動を強制されなかったラットよりも、歳とともに急速に体重が増えた。また、ハムスターとアレチネズミを使った研究では、運動させると「体重と体脂肪が増加する」結果に終わった。 このように、運動は、動物を肥満にさせることはあっても痩せさせることは無かった。 1970年代までの一般のアメリカ人の多くは、避けられるのであれば、空いた時間に汗を流すべきであるとは考えていなかった。1977年、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は当時のアメリカについて、「運動熱の高まりの真っ只中にある」と報じた。1960年代のアメリカでは「Exercise is bad for you」(「運動は身体に毒である」)というのが広く行き渡った考え方であったが、それがいつしか、「Strenuous exercise is good for you」(「苦痛を覚えるほどの運動は身体に良いのだ」)と変遷していった。 2019年に発表された研究で、24週間、毎日ウォーキングを続けることで身体に及ぼす影響について調べる実験が行われた。歩数はそれぞれ10000歩、12500歩、15000歩であった。結果は、除脂肪体重は増えたが脂肪も増加し、体重は全く減らなかった。研究者らは、「ウォーキングには、体重の増加・脂肪の増加を防ぐ効果は見られなかった」と結論付けている。 ジョギングを普及させたことで知られるジム・フィックス(Jim Fixx)は、自身がジョギングに励んでいる最中に心臓発作を起こして倒れ、そのまま死亡しており、運動は身体や臓器に負担をかける。東イリノイ大学の教授で運動生理学とマラソン生理学の専門家、ジェイク・エメット(Jake Emmett)はジム・フィックスの死について、「彼の死は、走る行為は冠状動脈性心疾患(Coronary Artery Disease)を防げないだけでなく、突然死を招く可能性が出てくることを世界中に確信させた」と書いている。 ジョギングの最中およびジョギングを終えた直後に冠状動脈性心臓病(Coronary Heart Disease)で死亡する例は決して珍しいものではない。精良な運動能力が運動中の死亡事故から身体を保護することを示す証拠は無い。度が過ぎる運動はミトコンドリア(Mitochondria)の機能障害を惹き起こし、耐糖能(Glucose Tolerance, 上昇した血糖値を下げる、血糖値を正常に保つ能力)も低下させてしまう。 ゲアリー・タウブスは、「『体重を減らす目的で、食べる量を減らして運動量を増やす』という考え方は一見筋が通っているように見えるが、実際には間違っているだけでなく、何の役にも立たない」、「We don't get fat because we overeat; we overeat because we're getting fat.」(「ヒトは過食するから太るのではなく、身体が今まさに太りつつあるから過食に走るのである」)と明言している。また、「肥満は、エネルギーバランス、カロリー理論、過食、熱力学、物理法則とは、何の関係も無い」「過食や運動不足は肥満の原因ではなく、あくまで『結果』でしかない」「『肥満』とは『栄養過剰』ではなく、『栄養失調』の一種である」と断じている。また、「もしも座りがちな生活が我々を肥満にさせ、運動がそれを防いでくれるというのなら、肥満ではなく『痩せ』が流行するはずである。しかし実際には、運動熱の始まりと同時に肥満の流行が起こった」と指摘している。また、「減量が目標であり、あなたの健康と生活がそれに左右されるとしても、『1年半の間毎日努力を続ければ、脂肪を5ポンド(約2.3㎏)減らせるかもしれない』と言われたら、あなたは26マイル(42km)を走れるようになるための訓練をするだろうか?」と問いかけている。
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減食と運動は無意味
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「フィジカルトレーニング」の記事における「減食と運動は無意味」の解説
1990年代初期、アメリカ国立衛生研究所は、『The Women's Health Initiative』(『女性の健康構想』)と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。このとき、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、そのうち19541人を無作為に選んだ。研究は1993年に開始し、8年間続けられた。研究者たちは、参加した女性たちに対し、果物・野菜・全粒穀物・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続けるにあたり、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。脂肪の摂取量については、摂取カロリーのうちの38%から20%に減らすことを目標とし、参加した女性たちについて、体重の増減、コレステロールの数値、脳卒中、心臓発作、乳癌、直腸癌、その他の心血管疾患を発症するかどうかについても調べた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。参加した女性たちは「少なく食べるように」「脂肪が少ないものを食べるように」「運動するように」という指示も与えられ、「食べる量を減らして運動量を増やす」を忠実にこなし続けた。 この生活を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者たちは「脂肪分の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。脂肪の摂取量が少ない食事には、乳癌、心臓病、脳卒中の発症リスクを下げる効果も、閉経後の女性の結腸直腸癌のリスクを下げる効果も一切無かった。彼女らが受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった。研究者たちは、「低脂肪食は乳癌を患うリスクを下げるだろう」と考え、栄養士たちは「脂肪の摂取量について、目標の数値である20%まで下げれば、低脂肪食の効果が明白になった可能性がある」と述べた。8年間かけて行われたこの研究結果はアメリカ医師会雑誌(『Journal of the American Medical Association』)に掲載された。『女性の健康構想』の研究結果が示しているのは、「癌や心血管疾患を防ぐという目的において、低脂肪食には何の効果も無い」ということである。
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