粉ミルク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/15 14:04 UTC 版)
哺乳期
ヒトの哺乳期は出生後18か月頃までであり、粉ミルクは離乳期までの乳児の栄養確保のために利用される[1]。このうち生後5~6か月頃からは離乳食との併用となる[1]。「母子保健マニュアル」(改訂7版)では、乳児の1日の哺乳量を、0~2か月で780ml/日、3~5か月で780ml/日、6~8か月で600ml/日、9~11か月で450ml/日としている[1]。
なお、哺乳期に飲ませる調製粉乳ではなく、離乳期後半に牛乳の代わりに用いる鉄分やビタミンなどの栄養素も加味してつくられた調製粉乳をフォローアップミルクという[1]。
規格
乳児用調製粉乳は特別用途食品のひとつで、主に出生から離乳期までの赤ちゃんの育児用として適するように乳の成分を調整したもの(現在、各メーカーはインファント・フォミュラーの授乳目安期間を0 - 9ヶ月としている)。単に「粉ミルク」というと、この育児用の粉ミルクのイメージが強い。規格の制改定は厚生労働省が管轄しており、食品衛生法の付則である乳等省令にて決定されている。また特別用途食品であることから、その表示項目、内容などは健康増進法の規制を受け、消費者庁の管理下にある。母乳の成分を研究して概ね以下のような改良がなされている。
- タンパク質のカゼイン/アルブミン比並びに含有量を母乳に近似させている。
- 母乳と比較してラウリル酸など低鎖の飽和脂肪酸が多い乳脂肪をリノール酸など不飽和脂肪酸を含む油脂(ラード、パーム油など)に置換し、ω3/ω6比を母乳に近似させている。
- 厚生労働省発行のガイドライン「日本人の食事摂取基準」に従いビタミン、ミネラル類の含有量を調整している。
- β-カロチン、ヌクレオチド、タウリン、EPA、DHAなど、乳児の発育に有益であるとされる成分を添加している。
- 生後9ヶ月以降の離乳期に与えるのに適した成分にしたフォローアップミルクも乳幼児用調製粉乳の一種。フォローアップミルクには、従来の離乳食や一般的に与えられる牛乳では不足しがちなビタミン、ミネラルを強化してある。基本的には乳児用調製粉乳とほぼ同じ製法であるが、脂質:タンパク質:炭水化物の比は成人の食事によるものに近づけてある。前者を専門的にはレーベンスミルク、インファントフォーミュラーと呼ぶ。
- 上記の他にアレルギーに配慮し、乳タンパクを大豆タンパクに置き換えた物、乳タンパクをペプチドに酵素分解してアレルギー性を抑えた物も販売されている。
- また一般に市販はされないが、産婦人科で用いられる低出生体重児用ミルクも存在する。
なお、妊産婦・授乳婦用粉乳もあり、これも特別用途食品のひとつで、出産前や授乳期間中の母親の栄養摂取を目的に成分を調整したものである。カルシウムや鉄分を増強し、母体および胎児の栄養補給に役立つように考えられている。
母乳との比較
製造法
原料
乳児用調製粉乳の原料としては、牛乳から乳脂肪を取り除いた脱脂粉乳、乳より分離された乳糖、乳精パウダー、乳脂肪よりも母乳に脂肪酸組成を近づけた調整油脂などを主原料に、ビタミン、カルシウム、マグネシウム、カリウム、銅、亜鉛、鉄などのミネラル、母乳オリゴ糖、タウリン、シアル酸、β-カロテン、γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、ヌクレオチドまたはRNA等の核酸関連物質、ポリアミンなど、赤ちゃんの発育や免疫調整に必要な各種栄養素が配合されている。また、欧米など諸外国ではアラキドン酸が添加されている。
加工
乳はタンパク質、ミネラルなどの栄養価に富む食品であるが、生乳の状態では腐敗が早く、また体積が大きいため移送、保管は非常に困難である。粉ミルクは水分活性が低く細菌が繁殖できない状態であるため保存性は生乳に比べて格段に良い。また、生乳と比較して体積も減少するため、保管、移送にも利便性が高い。
主に乳牛から取った生乳を、ろ過、脱脂、加熱殺菌、成分調整、濃縮、噴霧乾燥、包装、検査などの工程を経て作る。
工業的に粉乳を製造する場合には噴霧乾燥機を用いるのが一般的である[2]。原料乳を加熱殺菌した後、濃縮して50~70℃まで加温し、それを乾燥室内に微粒化して噴霧することで加熱空気(180~200℃)により乾燥する[2]。
なお、噴霧乾燥工程で出来上がった粉乳は粒子径が小さく、水和性が低いため溶けにくい。この欠点を補い消費者の利便性を高めるため、噴霧乾燥の後、粉乳に僅かな水分を与え粉末同士を顆粒状に結合させることで溶け易くするための造粒(アグロメレーション)という工程が付加される場合も多い。
注釈
- ^ 1970年後半には、発展途上国で、粉ミルクのメーカーが、販売員に白衣を着せるなど、粉ミルクが母乳より優れているかのようなイメージを与える広告を行っていた。これによって粉ミルクを販売することで乳児の死亡率が高まっていることに批判が集まり、粉ミルクの国際的なシェアが49%あったネスレ社の製品の不買運動へと発展した[6]
- ^ International Code of Marketing of Breast-milk Substitutes. 「母乳代替品の販売促進に関する国際基準」「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」などとも。
- ^ 2017年にアサヒグループ食品に吸収され解散、ブランド名として存続。
- ^ 森永乳業サイトの別ページでは「森永ドライミルク」製造開始を1920年としている。[10]
- ^ 東京菓子はのちに明治製菓。その乳業部門がのちに明治乳業となる。
- ^ 日本ワイスはワイスの日本法人。2000年に商号を変更し、2001年に江崎グリコ傘下となる
- ^ 「SMAミルク」はワイス社で1913年に開発された商品名[15]。現在のアイクレオ公式サイトでも「原点」として触れられているが[15]、沿革(年表)ページでは日本ワイス時代の商品名を出さず「日本で初めて母乳と同様乳糖100%にして、乳児にとって消化吸収の悪い牛乳脂肪を除去した製品」と説明している[16]。2001年以後のアイクレオ社の商品は「アイクレオのバランスミルク」などの名で販売されている[16]。
出典
- ^ a b c d e f g h i j “妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン”. 東京都福祉保健局. 2019年6月8日閲覧。
- ^ a b “食料・農業・農村政策審議会 第32回家畜衛生部会 参考資料1 最近の家畜衛生をめぐる情勢について 分割版2”. 農林水産省. 2019年6月8日閲覧。
- ^ 「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」 世界保健機関・国連食糧農業機関、2007年[1]
- ^ a b c “人工ミルク”. 知恵蔵mini(コトバンク所収). 2018年3月28日閲覧。
- ^ マリオン・ネスル 『フード・ポリティクス-肥満社会と食品産業』 2005年。ISBN 978-4-7885-0931-3。179頁。
- ^ マリオン・ネスル 『フード・ポリティクス-肥満社会と食品産業』 2005年。ISBN 978-4-7885-0931-3。181 - 183頁。
- ^ a b マリオン・ネスル 『フード・ポリティクス - 肥満社会と食品産業』 2005年。ISBN 978-4-7885-0931-3。188頁。
- ^ a b “和光堂ミルクの歴史”. アサヒグループ食品. 2018年3月28日閲覧。
- ^ “沿革”. 森永乳業. 2018年3月28日閲覧。
- ^ “森永のミルクの歴史”. 森永乳業. 2018年3月28日閲覧。
- ^ a b “糧食研究会の歴史 III.鈴木梅太郎時代”. 一般財団法人 糧食研究会. 2018年3月28日閲覧。
- ^ a b c “明治 粉ミルクの歴史”. 株式会社明治. 2018年3月28日閲覧。
- ^ a b “沿革”. 株式会社明治. 2018年3月28日閲覧。
- ^ “会社の歴史”. 中央製乳. 2018年3月28日閲覧。
- ^ a b “アイクレオの粉ミルクとは”. アイクレオ株式会社. 2018年3月28日閲覧。
- ^ a b “会社の歴史”. アイクレオ株式会社. 2018年3月28日閲覧。
粉ミルクと同じ種類の言葉
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