炭素税
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/25 19:19 UTC 版)
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炭素税は、化石燃料の価格を引き上げることによって環境負荷を抑え、さらにはその税収を環境対策に利用することにより、地球温暖化の原因である二酸化炭素 (CO2) などの温室効果ガスの排出量を抑えることを目的としている。 対象となる化石燃料は、石炭・石油・天然ガス及びそれから由来するガソリン(揮発油)、軽油、灯油及び重油などの燃料である。二酸化炭素 (CO2) 排出削減に努力した企業や個人が得をし、努力を怠った企業や個人はそれなりの負担をすることになるという、低炭素社会実現への努力が報われるという仕組みでもある。特に税制中立型環境税の場合、CO2削減コストは企業や個人に課されるものの、税収はそのまま国民に還付されるため、脱炭素に取り組めている企業や個人は新たな税負担が生じないことが、従来のエネルギー税制との大きな違いとなっている。
経済原理
炭素税の発想は、そもそもは新古典派経済学の経済原理に基づいている。二つの方式がある。
第一に、ピグー税式の炭素税では削減の経済効率性が実現される。というのも、限界被害額と同額の税金を課税するため限界均等化原理が満たされるためである。外部不経済(社会的費用)から1人あたりが負担する課税額が決まる。つまり、私的限界費用と社会的限界費用の差が課税されることで、この乖離分を市場で考慮される費用に含めることによって、後は市場の効率的資源配分のメカニズムに任せようという考え方に基づいて提案された経済的手法が炭素税の起源である。しかし、ピグー税式では一度も導入されたことはない。なぜなら、社会全体の限界排出削減費用の曲線を求めることが困難だからである。そのため理想論とされるに留まる。
第二に、ボーモル=オーツ税式の炭素税が一部の国で実際には導入された。この場合、設定した温室効果ガス削減目標を最小費用で達成することが可能になる。
どちらの場合も、税収を温暖化対策に回さずに、課税効果だけで適正水準ないし目標水準まで削減が起こる。
課税効果
炭素税を課すことにより、次のような効果が期待できる。
- 二酸化炭素排出量の減少
- 省エネルギー技術開発の誘引
課税金額が大きいほど化石燃料需要の抑制につながり、削減量は大きくなる。また省エネルギー技術への投資や開発意欲も向上すると考えられる。
税収効果と税制中立をめぐる議論
- 税収効果派
- 炭素税を環境対策の目的税化する考え方である。
- 目的税化すれば、再生可能エネルギー利用施設の設置推進や省エネ機器の普及に補助金を出すことができる。そのため、化石燃料の単なる消費抑制以上の温室効果ガス効果が期待できる。また、環境対策としての原資が炭素税により確保されるため、他の税収からの環境対策費を抑えることもできる。ただし、政府が削減効果を期待する特定の施設や機器に対して偏向的になる危険性があるため、リバース・オークションといった補助金の配分方法工夫が必要となる。
- 日本においてエネルギー消費量の6%削減を目標とする場合、課税効果のみで目標を達成するのであれば、炭素1トンあたり45,000円の炭素税が必要となるが、税収を効率よく環境対策に投資すると、炭素1トンあたり3,400円ですむという試算もある[1]。
- 課税効果・税制中立派
- 課税行為そのもので削減が果たされるので、炭素税で得られた税収は、減税に充てて国民に返すという考え方である。
- 炭素税による増額分を、他の税金の減税とする。それにより、国の租税全体ではプラマイゼロで新たな国民負担は生じない(ゼロネットロス・税制中立)。
- この場合でも、炭素税による化石燃料の抑制は推進され、市場原理により経済効率よく二酸化炭素削減が達成される(課税効果)。
- 炭素税の導入が進んでいる欧州では、まず炭素税一般財源とし、それを原資に減税するのが主流である[2]。ただし、欧州に多い高福祉国では、国民1人あたりの年間税負担額がすでに大きく、これ以上の増税が困難だという事情もある。
- ^ エネルギー需要の価格弾力性と炭素税の効果について
- ^ 諸外国のCO2削減のための税制度
- ^ a b c d e f g h i j k l m “諸外国における炭素税等の導入状況”. 環境省. 2018年8月9日閲覧。
- ^ “フランス暴動デモ、マクロン大統領の失敗とは? 温暖化対策と格差をめぐる問題”. newsphere (2018年12月27日). 2019年1月10日閲覧。
- ^ Siegenthaler, Peter. “ガソリンも炭素税の対象に?” (日本語). SWI swissinfo.ch. 2019年11月16日閲覧。
- ^ 経済産業省『長期地球温暖化対策プラットフォーム「国内投資拡大タスクフォース」最終整理(案)』
- ^ 環境省HP
- ^ https://sustainablejapan.jp/2017/03/02/singapore-carbon-tax/25890
- ^ “炭素税と排出量取引を活用 経済構造転換が不可欠” (日本語). 日本経済新聞 電子版. 2020年1月22日閲覧。
- ^ a b “温暖化対策税を完全実施 排出削減効果「わずか」 環境省”. (2016年4月2日)
- ^ “実は消費税の代わり?「炭素税」という名の大増税プランが急浮上(THE PAGE)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2020年2月2日閲覧。
- ^ “炭素税に国民は怒った 「黄色いベスト」デモ、反発ぶりに他国も震撼:朝日新聞GLOBE+” (日本語). 朝日新聞GLOBE+. 2020年1月27日閲覧。
- ^ “炭素税導入 産業界は反発 エネルギー関連税乱立見直しや新たな財源としての期待も” (日本語). 毎日新聞. 2020年1月27日閲覧。
- ^ “石油連盟=都内で賀詞交歓会を開催|国内|マーケットニュース|マーケットニュース” (日本語). リム情報開発. 2020年1月27日閲覧。
- ^ a b “税金地獄 小泉進次郎環境相「炭素税」大増税プラン|ニフティニュース” (日本語). ニフティニュース. 2020年1月22日閲覧。
- ^ “小泉進次郎環境相で、カーボンプライシングは進むか(土居丈朗) - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース 個人. 2020年1月27日閲覧。
- ^ “環境省_中央環境審議会 地球環境部会 カーボンプライシングの活用に関する小委員会”. www.env.go.jp. 2021年8月10日閲覧。
- ^ “世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会 (METI/経済産業省)”. www.meti.go.jp. 2021年8月10日閲覧。
- ^ “カーボン・クレジット市場整備へ 炭素税は結論先送り:朝日新聞デジタル” (日本語). 朝日新聞デジタル. 2021年8月10日閲覧。
固有名詞の分類
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