同音の漢字による書きかえ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/24 13:47 UTC 版)
漢字の意味に齟齬を生じている例
漢字を置き換えたにもかかわらず熟語の意味は維持しようとする以上、漢字としての意味が本来とは大なり小なり異なるのは仕方ないことであるが、中には齟齬や矛盾に近いものがある(ただし、置き換えの前後で同じ旁(つくり)を共有している場合、大意は共有していることが多い)。
- 稀→希(稀釈→希釈、古稀→古希 等) - 「稀(まれ)」と「希う(こいねがう)」の違い。稀釈や古稀は「願う」意味合いではない。
- 蝕→食(侵蝕→侵食、日蝕→日食 等) - 「蝕む(むしばむ)」と「食う(くう)」の違い。
- 臀、澱→殿(臀部→殿部、沈澱→沈殿 等) - 「臀(しり)」「澱(おり)」と「殿(との)」の違い。なお、「殿」は「しんがり」から一番最後の部分を指す意味が派生している。
- 臆→憶(臆測→憶測、臆説→憶説、臆病→憶病 等) - 「臆る(おしはかる)」と「憶える(おぼえる)」の違い。
など
元々異なる意味の熟語が書き換えなどにより、混同している例
- 「掩護」と「援護」
- 掩護とは、敵の攻撃から、味方の行動を守ること。「―射撃」
- 援護とは、困っている人を助け守ること。「被災者を―する」
- 「徽章」と「記章」
- 徽章とは、身分・資格・所属団体などを表すために、衣服・帽子などにつけるしるしのこと。バッジ。「制帽の―」
- 記章とは、記念として参加者・関係者に与えるしるしのこと。「従軍―」
- 「綺談」と「奇談」
- 綺談とは、巧みに作られた、面白い話のこと。
- 奇談とは、変わった、珍しい話のこと。不思議な話。「珍談―」
- 「教誨」と「教戒」
- 教誨とは、(受刑者などに)教え諭すこと。「―師」
- 教戒(教誡)とは、教え戒めること。ただ、実際にはこの語はほとんど使われない。
- 「昏迷」と「混迷」
- 昏迷とは、道理に暗くて、分別の定まらないこと。また、医学用語で、意識はあるが、外部からの刺激に反応しない状態のことを指す。実際にはこの語は「道理に暗い」意ではほとんど使われず、専ら医学用語として用いられる。
- 混迷とは、複雑に入り交じって、見通しがつかないこと。「―する政局」
- 「蒐集」と「収集」
- 蒐集とは、趣味や研究などのために、ある種の物や資料をたくさん集めること。コレクション。「切手の―」
- 収集とは、寄せ集めること。「ごみの―」
- 「情誼」と「情義」
- 情誼とは、人とつきあう上での人情や誠意のこと。「―に厚い」
- 情義とは、人情と義理のこと。「―を欠く」
- 「牆壁」と「障壁」
- 牆壁とは、垣根と壁のこと。「防火―」
- 障壁とは、妨げとなるもののこと。「関税―」
- 「棲息」と「生息」
- 棲息とは、ある場所に棲むこと。生物学では動物についていう。「猿の―地」
- 生息とは、生きて生活すること。生存すること。生物学では植物についていう。「都会に―する」「高山に―する植物」
- 「洗滌」と「洗浄」
- 洗滌とは、洗って綺麗にすること。水・薬剤などでそそぎ洗うこと。「洗滌」は本来は「せんでき」で[注釈 19]、「せんじょう」は慣用読み。「胃を―する」
- 洗浄とは、仏教で、心身を洗い清めること。ただ、実際にはこの語はほとんど使われない。
- 「尖端」と「先端」
- 尖端とは、尖った物の先の部分。また、時代や流行の先頭のこと。「錐(きり)の―」「岬の―」「時代の―」「流行の―」「―技術」
- 先端とは、長い物の一番端の部分。「棒の―」
- 「破毀」と「破棄」
- 破毀とは、法律用語で、上級裁判所が、上訴を理由ありと認め原判決を取り消すこと。「原判決を―する」
- 破棄とは、破り捨てること。また、契約・取り決めなどを一方的に取り消すこと。「書類を―する」「契約を―する」
- 「哺育」と「保育」
- 哺育とは、動物の親が、乳や食べ物を与えて子を育てること。
- 保育とは、乳幼児を保護し育てること。「―園」「―器」「―所」
- 「妨碍」と「妨害」
- 「厖大」と「膨大」
- 厖大とは、形容動詞で、量や規模が大きいさま。「―な計画」「―な予算」
- 膨大とは、サ変動詞で、膨れて大きくなること。「予算が―する」
- 「椿事」と「珍事」
- 椿事とは思いがけない大変な出来事。「春先の―」
- 珍事とはめずらしい出来事。「前代未聞の―」
など
書き換え前から2通りの表記が行われていたもの
もともと当用漢字のみを用いた表記と表外漢字を含む表記の2通りが行われていたものも、書き換えの対象となり、当用漢字のみを用いた表記に統一された。
- 饑餓→飢餓:「饑」も「飢」も「飢える、ひもじい」という意味。
- 障碍→障害:前述。なお「障害」という表記は日本に特有であり、他の漢字文化圏では「碍(礙)」と「害」の発音が異なるため「障害」という表記は一般に用いられない。
- 歎願→嘆願:「歎」は「嘆」と通用する。
- 磨滅→摩滅:戦前から共に同じ意味で用いられていた。
など
注釈
- ^ 語全体を仮名書きするほかに、表外漢字だけを仮名書きにする「交ぜ書き」をすることもある。
(例)斡旋→あっせん・あっ旋、明瞭→めいりょう・明りょう - ^ 「闇」は改定常用漢字表で追加された漢字だが、音「アン」は掲げられなかった。
- ^ 「伎」は改定常用漢字表で追加された漢字だが、音「ギ」は掲げられなかった。
- ^ 本来の読みは「さっすい」で、「さんすい」は慣用読み。
- ^ 本来の読みは「せんでき」で、「せんじょう」は慣用読み。
- ^ 「箇」は当用漢字で、常用漢字表・改定常用漢字表にも含まれている。「当用漢字補正資料」(1954年)では「箇」が当用漢字表から削る字とされた上で「個」に音「カ」を加えるとしており、新聞では同年4月から「箇所→個所」「箇条書き→個条書き」のように書き換えた表記を用いていた。しかし、結局「個」の音「カ」は表外読みのままであり、書き換えた結果、表外音訓になってしまう。なお、常用漢字の改定の時期から新聞でも「箇所」「箇条書き」と「個」に書き換えた表記は用いないように見直された。
- ^ 「斉」は当用漢字には含まれておらず、1981年の常用漢字表制定時に追加された漢字。
- ^ 「坪」は当用漢字にも含まれているが、音「ヘイ」は改定常用漢字においても表外読みであり、書き換えた結果、表外音訓になってしまう。
- ^ a b 「弁」は「辨」「辧」「瓣」「辯」(辛二つ「辡(ベン)」の間に刂(刀)、瓜、言)の新字体である。
- ^ 「種」は当用漢字にも含まれているが、訓「くさ」は改定常用漢字においても表外読みである。
- ^ a b 「遵」は当用漢字で、常用漢字表・改定常用漢字表にも含まれている。「当用漢字補正資料」(1954年)では「遵」が当用漢字表から削る字とされており、新聞では同年4月から「遵守→順守」「遵法→順法」のように書き換えた表記を用いている。
- ^ 一般的には、書き換えのない「高嶺の花」が多く用いられる。
- ^ 「脹」は当用漢字で、常用漢字表にも含まれていたが、改定常用漢字表で削除された。「当用漢字補正資料」(1954年)では「脹」が当用漢字表から削る字とされており、新聞では同年4月から「膨脹→膨張」のように書き換えた表記を用いている。
- ^ 「悠」は当用漢字には含まれておらず、1981年の常用漢字表制定時に追加された漢字。
- ^ 「槽」は当用漢字には含まれておらず、1981年の常用漢字表制定時に追加された漢字。
- ^ a b c d e f g h i 「濫」は当用漢字で、常用漢字表・改定常用漢字表にも含まれている。「当用漢字補正資料」(1954年)では「濫」が当用漢字表から削る字とされており、新聞では同年4月から「濫用→乱用」のように書き換えた表記を用いている。
- ^ 「簡」は当用漢字にも含まれているが、音「ケン」は改定常用漢字においても表外読みである。
- ^ 国語審議会の報告には「旱害→干害」「旱天→干天」の2語のみが示されている。「旱→干」は示されていないので、「旱魃→干魃」は国語審議会の報告に従ったものではない。
- ^ 「滌」の読みは「てき(「滌除」)」、反切は「徒歴」であり「的」、「敵」に一致、「でき」と濁るのは一種の連濁。
- ^ a b 中国語では、この2つの単語は明瞭に区別されている。デイリーコンサイス中日辞典(三省堂)の「妨碍」と「妨害」の項を参照。
出典
- ^ 佐賀県:こちら知事室です-記者会見(発表項目):「障害」の表記見直しを要望します
- ^ 要望の多かった「玻・碍・鷹」の扱いについて (PDF) 。この結果に対しては、2010年4月21日の衆議院文部科学委員会(議事録)で馳浩(自民党)より「漢字の語源にさかのぼっての議論は残念ながら見ることができませんでして、ちょっと残念だなと私は思いました」との指摘が為されている。
- ^ a b 改定常用漢字表(答申) (PDF) 文化審議会、2010年6月7日。
- ^ “2010年「改定常用漢字表」対応 新聞用語集 追補版 新聞用語懇談会編” (PDF). 日本新聞協会. 2018年1月1日閲覧。
- ^ 熊谷明泰 (2014). “朝鮮語の近代化と日本語語彙”. 関西大学人権問題研究室紀要 67: 1-122.
- ^ 朱京偉 (2001). “日本語の漢語の書き換えと中国語”. 或問 2: 1-12 .
- 1 同音の漢字による書きかえとは
- 2 同音の漢字による書きかえの概要
- 3 概要
- 4 主な書き換えの例
- 5 漢字の意味に齟齬を生じている例
- 6 新語への影響
- 7 脚注
- 8 外部リンク
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