同音の漢字による書きかえ 概要

同音の漢字による書きかえ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/24 13:47 UTC 版)

概要

当用漢字表の告示(1946年)により、当用漢字表にない漢字を含む熟語は、別の言葉に言い換えるか、仮名書き[注釈 1]することとされた。別の言葉を使うと意味合いが異なる場合があり、また、面倒であることからあまり行われなかった。交ぜ書きも行われていたが、意味が取りにくく、不自然な感じが伴った。そこで、当用漢字でない漢字を同音の漢字で書き換えるということが行われるようになった。当初は出版・新聞各社が独自に書き換え方を定めていたが、書き換え方がまちまちであったため、混乱が生じていた。そこで、国語審議会で書き換えの指針を示すことになり、1956年に「同音の漢字による書きかえ」として報告された。

国語審議会の「同音の漢字による書きかえ」では、「代用字」と「代用語」を定めている。代用字とは使われている熟語にかかわらず、ある漢字を無条件で当用漢字に書き換えるものである。例えば、従来「稀少」「稀薄」のように表記していたとすれば、「稀」が当用漢字でないため、「希少」「希薄」のように表記する。また、「稀」という字を使う熟語すべてに適用される。代用語とは、特定の熟語に限って書き換えるものである。したがって、以下のようになる。

  • 「訣」:(許容)「訣別」→「決別」 (不可)「秘訣」→「秘決」
  • 「澱」:(許容)「沈澱」→「沈殿」 (不可)「澱粉」→「殿粉」
  • 「撥」:(許容)「反撥」→「反発」 (不可)「撥音便」→「発音便」
  • 「顚(顛)」:(許容)「顚倒」「動顚」→「転倒」「動転」など (不可)「顚末」→「転末」
  • 「綜」:(許容)「綜合」→「総合」 (不可)「錯綜」→「錯総」
など

また、「甚」「磨」「妄」の3字は書き換え(「蝕甚」→「食尽」、「研磨」→「研摩」、「妄動」→「盲動」など)が示されているが、後に常用漢字表で追加されたため書き換えないのが普通である。

なお、国語審議会の「同音の漢字による書きかえ」のほか、これに入らなかった熟語について日本新聞協会が定めた書き換えや、学術用語集で用いられているものなどがあり、一般に浸透しているものもある。

「同音の漢字による書きかえ」に代用字が示されていても、人名など固有名詞に含まれる場合は書き換えない。ただし、「満洲」は「満州」と表記することがある。

「同音の漢字による書きかえ」の中には「叮嚀」「意嚮」「蹶起」「媾和」「銓衡」「繃帯」のように明らかに今日用いなくなったものがある。それに対し、「下剋上」「古稀」「玉石混淆」のような故事成語、「車輛」「漁撈」「鈑金」のような専門用語、「臆測」「奇蹟」「頽廃」「沈澱」「叛乱」のように小説、文学などで今も広く用いられるもの、「燻製」のように書き換えがあまり行われないものなどがあり、書き換えの定着には差がある。そのほか、俗に書き換え語のように使用されてはいるものの、国語審議会をはじめ公的機関や教育機関、報道機関において正式な書き換え語としては認められていない例(「凋落」→「彫落」、「憤懣」→「憤満」など)もある。また「障害」の「害」を嫌って近年、地方自治体を中心に「障がい」という交ぜ書きを用いることがあるが、交ぜ書きは好ましくないとの観点より「碍」を常用漢字に採用して「障碍」と表記すべきであるとの意見(佐賀県知事古川康など)もある[1]。これに対し、文化審議会は「碍」の追加要望において挙げられている理由の多くは事実誤認であると断定して追加を拒否する方針を決定したが[2]2009年12月に設置された内閣府障がい者制度改革推進本部で進められている公文書における「障害」の表記見直しが検討課題に挙げられていることを考慮し、同本部より文化審議会に対して特に「碍」の常用漢字追加を求められた場合は改めて議論するものとされている[3]


注釈

  1. ^ 語全体を仮名書きするほかに、表外漢字だけを仮名書きにする「交ぜ書き」をすることもある。
    (例)斡旋→あっせん・あっ旋、明瞭→めいりょう・明りょう
  2. ^ 「闇」は改定常用漢字表で追加された漢字だが、音「アン」は掲げられなかった。
  3. ^ 「伎」は改定常用漢字表で追加された漢字だが、音「ギ」は掲げられなかった。
  4. ^ 本来の読みは「さっすい」で、「さんすい」は慣用読み。
  5. ^ 本来の読みは「せんでき」で、「せんじょう」は慣用読み。
  6. ^ 「箇」は当用漢字で、常用漢字表・改定常用漢字表にも含まれている。「当用漢字補正資料」(1954年)では「箇」が当用漢字表から削る字とされた上で「個」に音「カ」を加えるとしており、新聞では同年4月から「箇所→個所」「箇条書き→個条書き」のように書き換えた表記を用いていた。しかし、結局「個」の音「カ」は表外読みのままであり、書き換えた結果、表外音訓になってしまう。なお、常用漢字の改定の時期から新聞でも「箇所」「箇条書き」と「個」に書き換えた表記は用いないように見直された。
  7. ^ 「斉」は当用漢字には含まれておらず、1981年の常用漢字表制定時に追加された漢字。
  8. ^ 「坪」は当用漢字にも含まれているが、音「ヘイ」は改定常用漢字においても表外読みであり、書き換えた結果、表外音訓になってしまう。
  9. ^ a b 「弁」は「辨」「辧」「瓣」「辯」(辛二つ「(ベン)」の間に刂(刀)、瓜、言)の新字体である。
  10. ^ 「種」は当用漢字にも含まれているが、訓「くさ」は改定常用漢字においても表外読みである。
  11. ^ a b 「遵」は当用漢字で、常用漢字表・改定常用漢字表にも含まれている。「当用漢字補正資料」(1954年)では「遵」が当用漢字表から削る字とされており、新聞では同年4月から「遵守→順守」「遵法→順法」のように書き換えた表記を用いている。
  12. ^ 一般的には、書き換えのない「高嶺の花」が多く用いられる。
  13. ^ 「脹」は当用漢字で、常用漢字表にも含まれていたが、改定常用漢字表で削除された。「当用漢字補正資料」(1954年)では「脹」が当用漢字表から削る字とされており、新聞では同年4月から「膨脹→膨張」のように書き換えた表記を用いている。
  14. ^ 「悠」は当用漢字には含まれておらず、1981年の常用漢字表制定時に追加された漢字。
  15. ^ 「槽」は当用漢字には含まれておらず、1981年の常用漢字表制定時に追加された漢字。
  16. ^ a b c d e f g h i 「濫」は当用漢字で、常用漢字表・改定常用漢字表にも含まれている。「当用漢字補正資料」(1954年)では「濫」が当用漢字表から削る字とされており、新聞では同年4月から「濫用→乱用」のように書き換えた表記を用いている。
  17. ^ 「簡」は当用漢字にも含まれているが、音「ケン」は改定常用漢字においても表外読みである。
  18. ^ 国語審議会の報告には「旱害→干害」「旱天→干天」の2語のみが示されている。「旱→干」は示されていないので、「旱魃→干魃」は国語審議会の報告に従ったものではない。
  19. ^ 「滌」の読みは「てき(「滌除」)」、反切は「徒歴」であり「的」、「敵」に一致、「でき」と濁るのは一種の連濁
  20. ^ a b 中国語では、この2つの単語は明瞭に区別されている。デイリーコンサイス中日辞典(三省堂)の「妨碍」と「妨害」の項を参照。

出典

  1. ^ 佐賀県:こちら知事室です-記者会見(発表項目):「障害」の表記見直しを要望します
  2. ^ 要望の多かった「玻・碍・鷹」の扱いについて (PDF) 。この結果に対しては、2010年4月21日衆議院文部科学委員会議事録)で馳浩自民党)より「漢字の語源にさかのぼっての議論は残念ながら見ることができませんでして、ちょっと残念だなと私は思いました」との指摘が為されている。
  3. ^ a b 改定常用漢字表(答申) (PDF) 文化審議会、2010年6月7日。
  4. ^ 2010年「改定常用漢字表」対応 新聞用語集 追補版 新聞用語懇談会編” (PDF). 日本新聞協会. 2018年1月1日閲覧。
  5. ^ 熊谷明泰 (2014). “朝鮮語の近代化と日本語語彙”. 関西大学人権問題研究室紀要 67: 1-122. 
  6. ^ 朱京偉 (2001). “日本語の漢語の書き換えと中国語”. 或問 2: 1-12. http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~shkky/wakumon/no-02/no-02-zhu.pdf. 





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