ボツワナ
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国名
正式名称は英語で Republic of Botswana(リパブリック・オブ・ボツワーナ)[3]。通称、Botswana。ツワナ語で Lefatshe la Botswana。日本語の表記はボツワナ共和国[3]。通称、ボツワナ。
国名は「ツワナ人の国」を意味している[4]。なおツワナ人はこの国のみにいる民族ではなく、隣国の南アフリカ共和国にはボツワナの総人口の数倍に及ぶツワナ人が存在している。
歴史
植民地化以前のボツワナに相当する地域には、セントラル地区のマジョジョ遺跡、チョベ川南岸のニュングエ遺跡、ノースウェスト地区のツォディロ・ヒルズの岩絵遺跡などの遺跡が残っている[5]。
18世紀前半に現在の南アフリカ共和国のトランスバール地方からツワナ系の人々が現在のボツワナに相当する地域に移住し、クウェナ支族のセチェレ1世(在位1831年-1892年)によるバクウェナ首長国やタワナ支族によるバタワナ首長国などのツワナ系の首長国が、先住のサン人、イェイ人、カラハリ人などを包括しながら成立したが、これらの各首長国は1885年にイギリスによってベチュアナランド保護領とされ、イギリスの保護領の一部となった[6]。また、1840年代以降にはグレート・トレックによってトランスバール地方に移住したボーア人が現在のナミビアやボツワナに相当する地域に再移住を行い、現在のボツワナ西部のハンツィ地域とボツワナ東部のトゥリーブロック地域に定着した[7]。
1885年にイギリスの保護領化が宣言された時点で、カトラ、クウェナ、レテ、ングワケツェ、ングワト、チディ-ロロング、ツワナ、トロクワの8つのツワナ系首長国が存在したが、19世紀後半のヨーロッパ列強によるアフリカ分割の文脈の中で、トランスヴァール共和国から西進を狙うボーア人(アフリカーナー)と、南ナミビアを保護領化したドイツ帝国の間に挟まれたツワナ系首長国が、ボーア人の進出とドイツ帝国主義の標的になったことをイギリスが憂慮したため、1885年にイギリスはチャールズ・ウォーレン将軍率いる遠征隊を派遣してボーア人を追放し、東はリンポポ川、西はドイツ保護領のモロポ川の北にまで領域を広げてベチュアナランド保護領を建設した。1890年にはドイツと協定を結んでチョベ川まで北に保護領を拡大し、現在のボツワナ共和国の前身となる領域を確立した[8]。ベチュアナランド保護領の成立後、現在の南アフリカ共和国のウィットウォーターズランドで発見されていた金鉱脈が北にも存在すると信じた冒険家達はベチュアナランド保護領にも金を求め、イギリス南アフリカ会社のセシル・ローズはベチュアナランド保護領をイギリス南アフリカ会社に移管するように要求したが、カーマ、セベレ、バトエンの3人のツワナ系首長がこのセシル・ローズの目論みに反発してイギリス本国に抗議に訪れたため、1895年11月にベチュアナランド東部の一部を割譲することを条件に、イギリス帝国内でのベチュアナランド保護領の自立性は保持された[9]。1893年に設立されたベチュアナランド鉄道会社によってベチュアナランド保護領のフライバーグから現南アフリカ共和国のマフェキングにまで鉄道が建設され、1899年にローデシア鉄道会社に運営が移管されたこの鉄道路線は1897年には現ジンバブエのブラワヨ、1902年にはハラレ(当時の名称はソールズベリ)と結ばれた[10]。ベチュアナランド保護領の成立当初、8つのツワナ系首長国への内政干渉は行われない予定だったが、1899年にイギリスの総督は8つのツワナ系首長国に居留地を強制指定し、囲い込みが行われた[11]。
20世紀に入り、1910年にイギリス人とボーア人の共同で南アフリカ連邦が発足するとベチュアナランドはスワジランド、レソトと共に南アフリカ駐在のイギリスの高等弁務官の管轄下に置かれ、1920年にはヨーロッパ人諮問評議会が、1921年にはアフリカ人諮問評議会が設立され、1939年の第二次世界大戦勃発後にはベチュアナランド保護領からも1万人以上が兵士として動員されたことを経て、第二次世界大戦後の1950年に両評議会は合併して合同諮問評議会が設立された[12][13]。
1960年に憲法が制定された後、1962年にセレツェ・カーマによってベチュアナランド民主党(BDP)が創設され、セレツェ・カーマ率いるBDPは1965年3月の総選挙に勝利した後、首長会議の同意と1966年2月のロンドンでの制憲会議を経て1966年9月30日にボツワナ共和国として独立を達成した[14]。
独立当時のボツワナは最貧国のひとつであり、国内インフラストラクチャーも無いに等しい状態にあった。初代大統領のセレツェ・カーマは、白人主導のアパルトヘイト政策を採用する南アフリカ共和国や南アフリカ共和国の占領するナミビア、イアン・スミス白人政権のローデシアに囲まれた地勢の中、人種間の融和を重んじ、周辺国との関係悪化を避ける慎重な政策を取った。幸運なことに、独立直後の1967年に国内で世界最大規模のダイヤモンド鉱山たるオラパ鉱山がデビアス社によって発見され、この収益が初等教育・医療・インフラ整備といった分野に回されたことが、ボツワナの経済発展の礎となった[15]。また、独立後、セレツェ・カーマ大統領は1969年の国際連合総会で反人種主義を宣言した後、1970年にソ連と、1974年3月に中華人民共和国と国交を結び、1977年にはローデシアとの国境を封鎖した[16]。セレツェ・カーマ大統領は1980年に死去する。
後を継いだ第2代大統領クェット・マシーレもセレツェ・カーマの政策を継承し、その後も1999年までボツワナ経済は非常に高い1人当たり経済成長率を記録し続けた。1990年代以降、ボツワナは深刻なエイズ禍に見舞われている一方、国民一人当たりの総所得は2012年時点で6,994ドルまで成長している。
1966年の独立以来、一貫してボツワナ民主党(BDP)が執政党となっており、1998年にフェスタス・モハエが第3代大統領に就任し、2008年にイアン・カーマが第4代大統領に就任、2018年にはモクウィツィ・マシシが第5代大統領に就任した[3]。
地方行政区分
ボツワナは10つの地区と7つの都市地区に区分され、さらにサブ・ディストリクトに分けられる。
- セントラル地区
- チョベ地区
- ハンツィ地区
- カラハリ地区
- カトレン地区
- クウェネン地区
- ノースイースト地区
- ノースウェスト地区
- サウスイースト地区
- サザン地区
- フランシスタウン
- ハボローネ
- ジュワネン
- ロバツェ
- セレビ・ピクウェ
- ソワ
主要都市
- ハボローネ (Gaborone)
- 首都であり国内最大の都市であるハボローネの大半は住宅地によって構成されている。住宅地は中、上流階層が住む高級住宅地と、低所得者層が住む住宅地にわかれる。市内には多数のショッピングモールやスーパーマーケットがある。国土が広いこともあり経済規模の割には高層ビルは少ないが、国内企業の本社や外国企業のオフィスが集中しており、ITや交通インフラが整備されている。
- フランシスタウン (Francistown)
- ノースイースト地区にある国内第2の都市。鉄道をはじめとする交通の要衝でもある。
- マウン (Maun)
- ノースウェスト地区最大の都市。チョベ国立公園やオカヴァンゴ・デルタに最も近い都市であり、国際線も就航するなど観光の拠点となっている。
- セロウェ (Serowe)
- セントラル地区の州都。ボツワナの交通の要所となっている都市。最大部族ングワトの首都である。
- カサネ (Kasane)
- ノースウェスト地区とジンバブエとの国境にある都市。
- ^ a b “UNdata”. 国連. 2022年8月19日閲覧。
- ^ a b c d e “World Economic Outlook Database, October 2021” (英語). IMF (2021年10月). 2021年11月2日閲覧。
- ^ a b c d e f g h ボツワナ基礎データ | 外務省
- ^ “ボツワナ共和国|東京都立図書館”. 東京都立図書館. 2023年9月30日閲覧。
- ^ 浦野義人「考古遺跡――今を生きる文化遺産」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、192-197頁。
- ^ 池谷和信「首長国の誕生と変貌――19世紀のツワナ人」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、202-206頁。
- ^ 池谷和信「アフリカーナーの移住とハンシーの牧場――カラハリ砂漠の白人マイノリティ」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、213-216頁。
- ^ 北川勝彦「植民地化と鉄道建設――植民地分割に翻弄される内陸国」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、207-208頁。
- ^ 北川勝彦「植民地化と鉄道建設――植民地分割に翻弄される内陸国」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、208-209頁。
- ^ 北川勝彦「植民地化と鉄道建設――植民地分割に翻弄される内陸国」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、209頁。
- ^ 北川勝彦「植民地化と鉄道建設――植民地分割に翻弄される内陸国」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、210頁。
- ^ 北川勝彦「植民地化と鉄道建設――植民地分割に翻弄される内陸国」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、210-211頁。
- ^ 星昭、林晃史『アフリカ現代史I──総説・南部アフリカ』 山川出版社〈世界現代史13〉、東京、1988年8月20日、初版第三刷、238頁。
- ^ 星昭、林晃史『アフリカ現代史I──総説・南部アフリカ』 山川出版社〈世界現代史13〉、東京、1988年8月20日、初版第三刷、238-239頁。
- ^ 鈴木哲夫/沼田安功「ボツワナにダイヤモンドあり――世界に誇るダイヤモンド生産国」『ボツワナを知るための52章』池谷和信編著、明石書店〈エリア・スタディーズ99〉、東京、2012年5月31日、初版第1刷、244-248頁。
- ^ 星昭、林晃史『アフリカ現代史I──総説・南部アフリカ』 山川出版社〈世界現代史13〉、東京、1988年8月20日、初版第三刷、239頁。
- ^ 門村浩「暑くて寒い気候」/ 池谷和信編著『ボツワナを知るための52章』 明石書店 2012年 28–29ページ
- ^ 「民主主義対民主主義 多数決型とコンセンサス型の36カ国比較研究(原著第2版)」p93 アレンド・レイプハルト著 粕谷祐子・菊池啓一訳 勁草書房 2014年6月20日原著第2版第1刷発行
- ^ 「民主主義対民主主義 多数決型とコンセンサス型の36カ国比較研究(原著第2版)」p113 アレンド・レイプハルト著 粕谷祐子・菊池啓一訳 勁草書房 2014年6月20日原著第2版第1刷発行
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- ^ ボツワナ発言を撤回、陳謝/平沼経産相四国新聞ニュース(2002年6月18日配信)2019年3月30日閲覧。
- ^ 『朝日新聞』2012年11月7日朝刊24面
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- ^ Yonhap News Agency (2002). North Korea Handbook. Seoul: M. E. Sharpe. p. 967. ISBN 076-563-523-2 (英語)
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- ^ 「各国別 世界の現勢Ⅰ」(岩波講座 現代 別巻Ⅰ)p395 1964年9月14日第1刷 岩波書店
- ^ 『アフリカを知る事典』、平凡社、ISBN 4-582-12623-5 1989年2月6日 初版第1刷 p.379
- ^ 「データブック オブ・ザ・ワールド 2018年版 世界各国要覧と最新統計」p285 二宮書店 平成30年1月10日発行
- ^ a b c Botswana, The World Factbook, CIA, last updated on March 4, 2010. ISSN 1553-8133
- ^ http://www.avert.org/professionals/hiv-around-world/sub-saharan-africa/botswana
- ^ What’s in a Female Doctor’s last name?, Weekend POST, 22 Jan, 2018.
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