災害弱者
別名:災害時要援護者
災害が発生して身に危険が迫った場合の情報収集や避難行動に対して、ハンディキャップを持つ人。自力での避難が困難な人。
災害弱者の定義は、国土庁が1992年に公表した「平成3年度防災白書」が主に参照される。同書では4つの項目が挙げられており、そのうちひとつでも実施不可能または実施困難な項目がある場合は、災害弱者に該当するとしている。
災害弱者か否かを判定する4つの項目とは、簡単に言えば、(1)危険を察知する能力、(2)危険に対して適切に行動を取る能力、(3)危険を知らせる情報を受け取る能力、(4)危険を知らせる情報に対して適切に対応する能力、である。
主な災害弱者として、高齢者や乳幼児、病人・怪我人、などが挙げられる。他に、危険を知らせる情報を理解できない外国人や、避難経路に疎い観光客なども、災害弱者に当てはまる。
さいがい‐じゃくしゃ【災害弱者】
読み方:さいがいじゃくしゃ
災害弱者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/28 19:40 UTC 版)
災害弱者(さいがいじゃくしゃ)とは、災害の際に支援や配慮が必要な人々を指す用語で、災害時要援護者、要配慮者などの用語も似た意味で用いられる。特に災害前・後の避難の場面では、自力での避難が通常の者より難しく、避難行動に支援を要する人々を指し、災害対策基本法による避難支援の枠組では避難行動要支援者と定義されている。より広範には、避難生活の場面などを含めて相対的に支援や配慮が必要とされる人々を指す[1][2][3]。
避難における要配慮者
平成3年度版防災白書では、次の条件に一つでも当てはまる人を「災害弱者」とした。
- 自分の身に危険が差し迫った時、それを察知する能力がない、または困難な者。
- 自分の身に危険が差し迫った時、それを察知しても適切な行動をとることができない、または困難な者。
- 危険を知らせる情報を受け取ることができない、または困難な者。
- 危険をしらせる情報を受け取ることができても、それに対して適切な行動をとることができない、または困難な者。
具体例として、以下のような人が想定される。
- 障害者(肢体不自由者、知的障害者、内部障害者、視覚障害者、聴覚障害者)[4]
- 傷病者[4]
- 体力の衰えた、あるいは認知症の高齢者(自分自身で避難が出来る高齢者は災害弱者として扱わない場合が多い)[4]
- 妊婦(健常者に比べて重い保護を必要とする)[4]
- 乳幼児・子供(健康でも理解力・判断力が乏しい)[4]
- 短期滞在の外国人(日本語が分からない)[4]
- 旅行者(その場所の地理に疎い。短期滞在の外国人も含まれる)[4]
災害弱者は、その特性から避難所に着くのが、災害弱者ではない人より遅い。よって、避難所で災害弱者がスペースをとることができず、避難所で受けられる“情報”などの支援を受けることができないことが、過去に幾度もあった。そのため、災害弱者ではない人は、「無闇に避難所に避難せず野宿する」「避難所側があらかじめ、災害弱者の人のスペースを確保したうえで、避難所を開設する」の2点が、主な対策として、認知されるようになった。
内閣府や総務省などの指導の下、全国の市町村で災害弱者の避難支援計画や「避難行動要支援者名簿」の整備が進められている。避難支援計画には、災害弱者の避難支援について基本的な取組方針を定める「全体計画」、個々の災害弱者の避難計画である「個別避難計画」の2種がある。「避難行動要支援者名簿」は民生委員や地域自治組織が災害弱者の安否確認、避難支援に活用するもので、この名簿の登録者に「個別避難計画」が作成される。
個別避難計画は、市町村の地域防災計画に規定された地区防災計画とも連携する。
2009年3月31日現在、「全体計画」を策定した市町村は576団体(32.0%)、策定中の市町村を加えると1,125団体(62.5%)となっている。一方で、「個別避難計画」の策定を進めている市町村は726団体(40.3%)で、未着手のほうが多い。一方で「災害時要援護者名簿」は既に1,196団体(66.4%)が進めている[5]。
避難生活における要配慮者
日本赤十字社の「災害時要援護者対策ガイドライン」では、避難における要配慮者に加えて、避難生活における要配慮者についても明記している。主な例は以下の通り[4]。
- 病気や障害などにより薬や医療器具を要する者[4]
- 手すりや洋式トイレなどバリアフリー化されていない避難所などで介助を要する者。こうした要配慮者向けの「福祉避難所」が普及しつつあるが、未だ不十分とされる[4]。
- 感染症への抵抗力が弱く、避難所で病気にかかりやすい者[4]
- 被災により精神的障害が増幅される者[4]
関連項目
- 災害対策基本法 - 防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧および防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定める法律
- 災害救助法 - 被災者の保護と社会の秩序の保全に関する法律
- 要介護認定 - 介護を要する状態であることを保険者が認定するもの
- 福祉避難所 - 避難所等での生活が困難な人々(要配慮者)を対象に滞在させることを想定した避難所。災害対策基本法の改正により直接避難も可能となった。
- 個別避難計画 - 避難行動要支援者ごとに当該避難行動要支援者について避難支援等を実施するための計画
- 地区防災計画 - 個別避難計画と連携する地域住民の共助による計画
- 自主防災組織 - 防災活動を行う共助の中核となる住民組織
- タイムライン (防災) - 災害に備えてとるべき防災行動をあらかじめ時系列的に整理した防災行動計画
参考文献
- 後藤真澄・高橋美岐子編 『災害時の要介護者へのケア いのちとくらしの尊厳を守るために』、中央法規出版、2014年。ISBN 978-4-8058-3964-5
- 岡田広行著『被災弱者』岩波新書(2015) ISBN 4004315301
- 津久井進著『大災害と法』岩波新書(2012) ISBN 4004313759
脚注
注釈
出典
- ^ 山崎栄一「災害時要援護者とは 用語法の複雑性と支援のあり方」『復興』第6巻第1号、日本災害復興学会誌、2014年6月、3-8頁、CRID 1010282257223576972。
- ^ 飯塚智規「ユートピアから省かれる災害弱者」『城西現代政策研究』第15巻第1号、城西大学、2021年12月、3-18頁、doi:10.20566/18819001_15(1)_3。
- ^ 李永子「災害における要援護者概念の再考 : 「災害弱者」から「災害時要援護者」へのアプローチ」『福祉のまちづくり研究』第8巻第1号、2006年7月、38-48頁、doi:10.18975/jais.8.1_38。
- ^ a b c d e f g h i j k l 後藤・高橋、2014年、64 - 65頁
- ^ 消防庁 『消防白書:消防と医療の連携の推進 消防と医療の連携による救急搬送の円滑化:平成21年版』 日経印刷、2009年11月。「第1章 第5節 [風水害対策の課題] 2 (1)災害時要援護者の避難誘導体制の整備」より。
災害弱者と同じ種類の言葉
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