PIPA
英語:Protect Intellectual Property Act、PROTECT IP Act、Pro-IP Act
米国議会の上院で立案され、2012年1月現在審議されている、著作権保護に関する法案。下院で審議されているSOPA(オンライン海賊行為阻止法案)と共に検討が進められている。
米国のウィキペディアは、PIPAとSOPAの法案に対して抗議の姿勢を表明しており、「Wikipedia」の英語版ウェブサイトを1月18日0時から24時間にわたって運用を停止した。ウィキメディア財団はこれをSOPAおよびPIPAの法案に抗議するため(in protest against proposed legislation in the United States — the Stop Online Piracy Act (SOPA) in the U.S. House of Representatives, and PROTECTIP (PIPA) )と説明している。
関連サイト:
English Wikipedia to go dark January 18 in opposition to SOPA/PIPA - ウィキメディア財団プレスリリース 2012年1月16日(英語)
PROTECT IP Act
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正式題名 | Preventing Real Online Threats to Economic Creativity and Theft of Intellectual Property Act of 2011 |
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頭字語(口語) | PIPA |
通称 | Senate Bill 968 |
立法経緯 | |
アメリカ合衆国における知的財産保護法案 (英: The PROTECT IP Act; PIPA) は、「権利侵害または模倣した物品に特化した不正なウェブサイト」へのアクセスを抑制するための追加手段を、米国政府と著作権者へ正式に与えることを目的とした法案であり、とりわけ米国国外のサイトを対象にしていたが[1]、廃案となった。正式名称を「Preventing Real Online Threats to Economic Creativity and Theft of Intellectual Property Act of 2011 (経済創造性に対するリアルオンライン脅威と知的財産の盗難を防止する2011年度の法律)」といい、上院法案968 (S. 968) としても知られる。 法案はパトリック・リーヒ上院議員 (民主党、バーモント州選出)[2]と11人からなる超党派議員により2011年5月12日に共同提案された。米国議会予算局は、連邦政府が負担することになる、法律の執行に必要な22人の専任係官と26人の事務職員を雇用および教育するための費用等を、2016年までの間に4,700 万ドル掛かると見積もった[3]。上院司法委員会は法案を可決したものの、ロン・ワイデン上院議員 (民主党、オレゴン州選出) はホールド (米国連邦議会)を掛けた[4]。
知的財産保護法案は、2010年の議会で通過しなかったCombating Online Infringement and Counterfeits Act (COICA) の改正案となっている[5]。また、この法案と同様の下院法案である Stop Online Piracy Act (SOPA) は2011年10月26日に提出されている[6]。
民主党上院院内総務のハリー・リードはこの法案に関する票決を2012年1月24日に予定したが[7]、2012年1月18日におけるインターネットでの抗議を受け、無期限に延期することを表明した[8][9]。
内容
法案は侵害の定義を、違法コピーや偽造品、またはデジタル著作権保護技術を無効にする技術の配布と規定した。侵害は、事実や状況がその「サイト」の使用を示唆する場合、とりわけ、説明した方法によって使用可能にしたり、機能解除したり、自動的に解除になるような仕組みを導入することによって発生する[10]。法案は、それが既存の実質的な商標または著作権法を変更しないという[11]。
法案は、"運営と海外の登録された不正なWebサイトに対する強化執行"のために提供し、侵害行為に特化したウェブサイトに対して裁判所の命令を求める権限を米国司法省に与える。所有者または運用者が特定できない場合には、適正評価を通じて実施する[12]。法案は被告に通知するための一般弁護士を必要とする[13]。裁判所が命令を発効した場合、金融取引提供者、インターネット広告サービス、インターネットサービスプロバイダ、および情報検索ツール (英: information location tool) に不正なサイトとの金融取引を停止し、リンクを削除することで執行する[14]。ここでいう「情報検索ツール」という用語は1998年制定のデジタルミレニアム著作権法からの借用で、検索エンジンを意味するだけでなく、検索内容にリンクする他のサイトも含む[15]。
知的財産保護法案は、「情報検索ツールは、指定されたドメイン名に関連付けられたインターネットサイトへのアクセスを削除または無効にする技術的に可能かつ合理的な措置を、可能な限り迅速に講じなければならない」と述べている。なお、問題のある「インターネットサイト」へのすべてのハイパーリンクを削除する必要がある[16]。
権限のないドメインのネームサーバは、ドメイン名から裁判所から侵害活動に従事していると認定されたウェブサイトへのIPアドレスを復元することを防ぐ、技術的に可能かつ合理的な措置をとるように命令される[17]。ウェブサイトはまだそのIPアドレスによってアクセスすることができるが、リンクやウェブサイトのドメイン名を使用するユーザーはアクセスできなくなる。 たとえば、グーグルのような検索エンジンは、「(i) 裁判所から指定されたドメイン名に関連したインターネットサイトへのアクセスを削除または無効にすること、(ii) そのインターネットサイトへのハイパーリンクを提供しないこと」、を命じられる[18]。
侵害行為に特化したウェブサイトの活動によって損なわれている商標や著作権の保有者は、ドメインに対して金融取引供給者やインターネット広告サービスに送金停止と広告削除を行使する裁判所の仮処分を申請することはできるであろうが、司法長官にドメイン名の法的救済を求めることはできないと思われる[19]。
支持者
議員

知的財産保護法案(PROTECT IP Act)はパトリック・リーヒ上院議員の下で超党派議員の支持を得ており、2011年12月17日時点で40人の上院議員が賛成の意見を表明している。[20]
支持企業・団体
PIPA法案は著作権や商標に強く関わる企業・労働団体の広範な支持を受けており、既に全米有線テレビ事業者連盟、独立映画・TV同盟、全米劇場経営者協会、アメリカ映画協会(MPAA)、全米監督協会(DGA)、米国音楽家連盟、米国テレビラジオ放送芸術家連盟、国際映画劇場労働組合、映画俳優組合(SAG)、全米トラック運転組合、国際ナッシュビル作曲家協会、アメリカ作曲家組合、バイアコム、政策刷新機関(Institute for Policy Innovation)、マクミラン出版社、アクシュネット・カンパニー、アメリカレコード協会(RIAA)、著作権同盟(Copyright Alliance)、NBCユニバーサルが賛同の意を表明している。[21][22]
アメリカ商工会議所とアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)は一体となってこの法案を支持している。2011年5月と9月には"ならず者" 不正サイトを閉鎖し米国の知的財産を保護するため、それぞれ170と359の企業・団体が法案への支持を表明する書簡に署名し、議会に送付された。署名した企業・団体のうち、主なものに全米製造業者協会、中小企業・起業家評議会(Small Business & Entrepreneurship Council)、ナイキ、1-800 Pet Meds(ペット用品通販)、ロレアル、ロゼッタストーン、ファイザー、フォード・モーター、レブロン、NBA、SONYなどがある[23][24][25]。米商工会議所のデビッド・ハーシュマンは、2012年1月の政治議論に不快感を示し、自由が失われるとかネット検閲だとかの主張は「この法案の本質とはまったく関係が無い」と反論した[26]。
その他
憲法学専門でMPAAおよび関連商業団体の代理人である弁護士フロイド・エイブラムスは、米連邦議会に宛てて「知的財産保護法案(PIPA)は憲法上問題が無い」とした書簡を送っている[27]。
2009年に、後にSOPA・PIPA 両法案の理論的根拠となった報告書「Steal These Policies」を刊行した[28]情報技術・イノベーション財団(略称: ITIF。米国情報技術工業協議会の一部出資によって設立されたシンクタンク)のダニエル・カストロは、2011年3月に「オンラインにおける権利侵害および偽造防止法(COICA法)」を擁護して、「誰も『意図せず著作権を有する写真を掲載した個人サイトも削除する』なんて言っていない」と述べている[29]。2012年1月、ITIFのシニア・リサーチ・フェロー(上級研究員)リチャード・ベネットは、同法案への批判はその内容を誤解しまた誇張しているとして次の様に述べた。「(同法案への)批判は、法案によって何が為されるか理解していないか、誤って伝えているかのどちらかだ。批判の論調はややヒステリックなもので、法案でやろうとしていないことに対して異議を唱え、言論の自由とか民主主義といった高尚な理念を掲げているが、実際のところその異議の内容と法案に書かれていることの間にはあまり関係がない[30]。」
反対者

議員
オレゴン州選出ロン・ワイデン上院議員(民主党)は、法案に反対する姿勢を明確にしており、2011年3月の審議では言論の自由、イノベーション、ネットの統合性を損なう可能性があるとの懸念を表明して同法案をホールドした[31]。マサチューセッツ州選出のスコット・ブラウン上院議員(共和党)もPIPA法案に反対し、また姉妹法案であるSOPAにも反対を表明している[32]。 PIPA法案反対議員らは、代案としてOPEN法案(Online Protection and Enforcement of Digital Trade Act)を提出した[33][34]。
企業・団体
Mozilla Corporation[35]、Facebook[35]、電子フロンティア財団[36]、Yahoo!、eBay、アメリカン・エキスプレス、reddit、Google[37]、国境なき記者団、ヒューマン・ライツ・ウォッチ[38]、英語版ウィキペディア[39]、アンサイクロペディア[要出典]、など多数の企業・団体が法案に反対している。LinkedInの設立者リード・ホフマン、Twitterの共同設立者エヴァン・ウィリアムズ、foursquareの共同設立者デニス・クローリーらは法案に反対を表明した書簡に署名した[40]。ティーパーティー・パトリオッツは、「消費者の不利益になる」として法案に異を唱えた[41]。また連邦議会宛には、130ものIT起業家・幹部らが署名し、現行の法案の内容では「経済成長を阻害し、ネットでの創作・コミュニケーションやお金儲けを可能にしてきた合法的サービスにおけるイノベーションの活力を削ぐ」と訴えた法案反対の書簡が送られた[42]。英語版ウィキペディアは2012年1月18日他のインターネットサイトと共同でPIPAおよびSOPA法案に抗議して24時間のサービス停止(ブラックアウト)を行った。この抗議運動に参加したサイトにはウィキペディアの他、Cnet、Cheezburgerサイトなどがある。
その他
スタンフォード大学法学教授マーク・レムリー(Mark Lemley)、エロン大学助教デイヴィッド・レヴィン(David S. Levine)、テンプル大学法学教授デイヴィッドポスト(David G. Post)らはPIPAおよびSOPA法案を批判している[43]。
問題点
2012年1月14日、ホワイトハウスは「オンライン海賊行為対策が合法的行為に対するネット検閲であってはならず、また大小さまざまなビジネスの活力を削ぐようなことはあってはならない」、また「サイバーセキュリティーを脅かしたり、インターネットの基盤を台無しにするような事態は避けねばならない」とする声明を発表した[44][45][46][47]。
DNSブロッキング・リダイレクトに対する批判
当初この法案には、不正サイトをインターネットの仮想”電話帳”(=DNS)から除去する手法が含まれていた。これはDNSリダイレクトと呼ばれ、ユーザーが不正サイトにアクセスしようとすると、DNSが同サイトの代りに政府の警告画面へとリダイレクトするという仕組みである。
NPO団体パブリック・ナレッジのシャーウィン・シー(Sherwin Siy)によると、かつてドメインをブロックすることでオンライン著作権侵害を防ごうとした際、DNSの破壊行為でありインターネットのグローバルな機能性を脅かすとして批判を招いた件があるが、この法案はそれと大差ないという。世界中のドメインネームサーバは同一リストをもつことになっているが、PIPA法案に従えば米国内のサーバだけが世界中のサーバとは異なるデータを持つことになり、URLの普遍性が損なわれることになる[48][49]。
スティーブ・クロッカー(Steve Crocker)、デイヴィッド・ダゴン(David Dagon)、ダン・カミンスキー(Dan Kaminsky)、ダニー・マクファーソン(Danny McPherson)、ポール・ヴィクシーの5人のインターネット・エンジニアによるホワイトペーパーでは[50]、この法案のDNSリダイレクト条項は「技術面およびセキュリティ面での重大な懸念を引き起こし」、「インターネットを破壊」しかねないと言及されたが、一方で他のエンジニアや法案支持者らはこうした懸念は根拠に欠け評価に値しないとしている[51][52][53][54][55][56]。
ある法学教授のグループは、クロッカーらのホワイトペーパーを引用し、知的財産保護法案(PIPA)とオンライン海賊行為防止法案(SOPA)は意図していたのと逆の効果をもたらすもので、法案が施行されればインターネット・ユーザーは規制されていない代理DNSを利用するようになり、結果として政府によるインターネット規制実施が困難になるとしている[43]。また両法案の合憲性にも疑問を投げかけ、法案によって技術面で破滅的な事態となる可能性があり、また米国のインターネット関連法体制がより抑圧的なものになることを懸念した[43]。さらに両法案によって引き起こされるのは「一方的な訴訟以外の何物でもない。つまり一方の側(検事、原告)は証拠を提出する必要がありながら、("被告"となるのはサイト運営者ではなくドメインネームそのものであるため)侵害行為をおこなっているとされたサイトの運営者側は裁判に出廷したり、もっと言えば、自分のサイトにおいてある行為が係争中であることを認識する必要すらない。これは、意見を聞く公正な機会を与えることなくその人(運営者)の所有物(サイト)を奪うことであり、単に法手続きの原則に違反するだけでなく、憲法修正第1条で保障された言論の自由の権利を剥奪する違憲な法律を制定することに他ならない。」としている[43]。
2011年3月に公開されたFirefoxのアドオン MAFIAAFire はドメインを差し押さえられたサイトにアクセスする際代理のドメインにリダイレクトする機能をもつ。Mozilla Foundationは米国土安全保障省(DHS)からこのアドオンを削除する様に要請をうけたが、Mozillaはこれに対応していない。逆にMozillaの法律顧問は同要請の正当性を示す法的根拠など、情報の開示を国土安全保障省側に求めている[57]。
情報技術・イノベーション財団(ITIF)は、この法案におけるドメインネーム救済措置は現状行われているスパムやマルウェア対策によって効果がないものになるとの懸念を示している[58]。ITIFのアナリストであるダニエル・カストロによると、DNSブロッキングは、オランダ、オーストリア、ベルギー、フィンランド、韓国などいくつかの民主主義国家で"インターネットを破壊"することなく行われている[29]。ITIFのCEOは、DNS条項を自動車のドアロックに例え、確かに完全に信頼をおけるというものではないが、それでもやはり便利ではあると述べている[56][59]。
2012年1月12日、上院司法委員会委員長のパトリック・リーヒ議員は、論争を呼んだDNSフィルタリング条項をPIPA法案から削除する意向であると発言した。リーヒ議員は「うちのスタッフには他の上院議員に『法案の最後の1ピースは取り止めた』と言っていいと伝えてある」、続けて「そうすることで今ある反対意見の多くがなくなるだろう」と述べた[60][61]。関連法案SOPAの起草者であるラマー・スミス下院議員もSOPAからDNS条項を削除する考えであることを明らかにした[62]。
市民的自由の問題
憲法修正第1条研究の専門家であるハーバード・ロー・スクール教授ローレンス・トライブと弁護士マーヴィン・アモーリは、法案がターゲットにしているのは海外の不正サイトだけではなく、「単に侵害を‘助長’したり‘可能に’したりした国内のサイト」にまで拡大して適用されうるとして、「したがって、法案の文言によると、YouTubeやTwitter、Facbookなど合法的なサイトにおける非常に多くの言論が法の対象ということになる」と、PIPA法案が言論の自由に与える影響についての懸念を提起した[63]。またアモーリはPIPA・SOPA両法案は「狙いを外し、著作権侵害していない言論を沈黙させてしまう結果になるだろう」と述べている[64]。
電子フロンティア財団のアビゲイル・フィリップス(Abigail Phillips)も、どういった要件で著作権侵害サイトと特定されるのかが不明確であるとして法案を批判している。例えば、もしウィキリークスが著作権で保護されたコンテンツを配布したとして訴えられ、米国の検索エンジンがウィキリークスを示す検索結果を裁判所命令によってブロックしたとした場合、検索エンジンにウィキリークスそのものへのリンクをまるごと除去するよう要請する ことは、サイトに掲載されている合法的コンテンツに関する言論の自由の問題(ウィキリークスに掲載された合法的な他のコンテンツを閲覧する権利侵害の問題)が浮上することになる[36]。
Google会長エリック・シュミットは、PIPA法案で求められている手法は複雑な問題をあまりにも簡単に解決しようとしていると指摘し、DNSエントリを削除するやり方は言論の自由の観点から問題があり、中国の様な、より寛容さに欠けるインターネット環境への一歩となりうると述べた。世界最大の検索エンジンを運営する企業の会長として、シュミットは「もしDNSにX(何か)をしろと要求する法案が上院・下院を通過し、大統領がそれに署名したとしても、私たちはその法案に同意せず闘い続ける」と述べている[65]。
憲法学専門の弁護士フロイド・エイブラムスは「知的財産保護法案は言論やコミュニケーションの自由を強要したり禁じたりするものではない。…そのウェブサイトまたはドメインが、司法長官が行動を起こすのに適当かを決めるハードルは高く設定されている」と述べている[27]。
ユーザー投稿型サイトに対する懸念
反対派は、PIPA法案はインターネットコミュニティに悪影響を及ぼしかねないと警告している。例えば、ジャーナリストのレベッカ・マッキノンはニューヨークタイムズの論説欄で、企業に利用者の行動の責任を取らせることはYouTubeのようなユーザー投稿型サイトを萎縮させる効果をもつと論じ、「中国のネット検閲システムであるグレート・ファイアウォールと、その目的は違っても、実際的な効果は同じようなものになる」と述べている[66]。
新米国研究機構の政策アナリストは、この法律は、たった一つのブログの投稿を理由としてドメインすべてを削除するような法の行使を可能にし得るもので、「全体としてほぼ問題のないインターネットコミュニティでも、極僅かな人々のとった行動によってコミュニティ全体が罰せられる可能性がある」と主張している[67]。
企業・経済面での問題
米国議会調査局(CRS)による法的分析では、アメリカン・エキスプレスやGoogleといった反対派の懸念、つまり法案で民事上の訴訟権が認められた場合、コンテンツ製作者からの無数の訴訟が起こされ、時代遅れのビジネスモデルを保護し、その結果インターネットの革新を抑圧することになる、と言及している[68]。Google副社長・法務責任者のケント・ウォーカー(Kent Walker)は「法案で民事上の訴訟権を認めるべきではない。もし認めたら、”荒らし”が訴訟を起こして、法を遵守しようと誠実に努力している中間業者やサイトから金を巻き上げようとするような事態になるだろう」と議会公聴会で証言した[69]。
米映画協会(MPAA)は「不正サイトは映画・TV業界の雇用を危機にさらす」として、政府系および独立系調査機関(調査会社Envisional Ltd.を含む[70])の調査結果をまとめ、ネット上のコンテンツの4分の1は著作権を侵害していると結論づけた[71][72][73]。アメリカレコード協会(RIAA)は、オンライン海賊行為による損失額は125億ドルにおよび、70,000人以上の雇用が失われたとする2007年のInstitute for Policy Innovation(IPI)による調査結果をあげている[74][75][76]。
「もしデジタルミレニアム著作権法を修正する必要があるのなら、関連団体で話し合って決めればよい。コンテンツ産業のロビイストがつくった法案を拙速に議会を通過させるやり方ではなく。」ベンチャーキャピタリストでビジネス・インサイダー誌のコラムニストフレッド・ウィルソンは、同誌10月29日版で上院・下院のPIPA/SOPA法案がデジタルミレニアム著作権法のセーフハーバー条項に及ぼす変化についてこのように主張し、「今の時代、主要な輸出企業であり雇用創出の元となっているのは、Apple、Google、Facebookといった大企業、またDropbox、Kickstarter、Twilioなどの新興企業だ。こうした会社は金の卵を産む"金のガチョウ"であって、斜陽産業を保護するために金のガチョウを殺すことはできない。」と述べた[77]。法案を遵守するためには法律関係、技術面、管理面で高額なコストがかかるため、小規模ビジネスや新規企業には過度の負担となりえる[78]。
法案に対するネット上での抗議活動と採決延期
2012年1月18日、SOPA・PIPA法案への抗議として英語版ウィキペディアがサービスを一時停止するなど、ネット上で抗議の輪が広がった。これを受けて議員の中には法案支持を再考するものも現れ、1月20日上院院内総務であるハリー・リード議員はPIPA法案採決を無期限に延期すると発表した[8]。起草者であるリーヒ上院議員も声明を発表し、リード議員の決断に理解を示しつつも、次の様に述べている。「だが、こうした流れを作り出した上院議員たちはいつの日か、きわめて重要な問題に脊髄反射的な反応を取ってしまったことを振り返り、その意味を思い知るだろう[79]。今も中国やロシアのどこかで、また米国の知的財産に敬意を払わない他の多くの国のどこかでコピー商品や盗んだアメリカ製コンテンツを売ることに明け暮れている犯罪者たちは、米国上院が『どうやって海外の犯罪者が我々の経済に損失をもたらすのを止めさせるかについては議論する価値もない』とした決断をほくそ笑んでみている[80]。」
脚注
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関連項目
- オンラインにおける権利侵害および偽造防止法 (略称: COICA) - 2010年に議会に提案され、上院のみ通過した後に廃案。修正案がPIPAに継承された。
- 商業ストリーミング重犯罪取締法案 - 2011年に議会に提案されたが廃案。
- オンライン海賊行為防止法案 (SOPA) - 2011年に議会に提案されたが廃案。
- デジタル取引オンライン保護取締法案 (略称: OPEN Act) - SOPAの対案として2011年12月に議会に提案されたが廃案。
- DSM著作権指令 - 欧州連合で2019年に成立した大型改正でデジタル著作権侵害にも対応
- 2010年デジタル経済法 - 英国で制定。
- 模倣品・海賊版拡散防止条約 (ACTA) - 2011年に起草されたが未発効。
- 環太平洋戦略的経済連携協定
外部リンク
ピーパ
(pipa から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/08 07:54 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動ピーパ(中国語: 琵琶)は、中国の琵琶。広義には阮咸(げんかん)や月琴などのリュート属弦楽器もこれにに含めることがある。
歴史
「琵琶」という言葉は後漢の応劭『風俗通』声音篇に見え、また『釈名』釈楽器によれば胡の楽器で、馬上で演奏するものであるとする。琵琶がいつ中国に伝わったかは明らかでないが、西晋の傅玄「琵琶賦」(『初学記』および『通典』が引く)の伝える伝説によると、秦のときに万里の長城を築く労働者が演奏したとも、前漢の烏孫公主が馬上で演奏できるように作ったともいう。しかし、その記述からすると当時「琵琶」と呼んだものは今の琵琶と異なり、阮咸にあたる楽器だったらしい[1]。北魏時代の敦煌莫高窟壁画に5弦の琵琶が描かれており、現在につながる琵琶はこのころ中国に伝わったもののようである。
唐時代の琵琶は現在の日本の楽琵琶とほぼ同じ形をしており、音楽理論が整備される中で、調弦法も多数定められ、様々な合奏にも用いられ、記譜法も確立し、宮廷音楽から民間音楽まで、合奏、独奏、歌唱の伴奏と広く愛好された。白居易の詩「琵琶行」は有名であり、楊貴妃もよく琵琶を演奏したと言われる。清代に使用された琵琶は唐代までのものとは異なり、日本の盲僧琵琶にやや近い形をしており、弦数は変わらないがフレットはずっと増えて14個を備えていた。撥ではなく、へら状の義甲(ピック)で弾奏する。江戸時代の文政頃、月琴や胡琴等と共に日本に伝来、明治初年頃まで明清楽として流行した。現在も長崎に伝承され、「唐琵琶」と呼ばれている。以後も中国ではこの形のものを使用しており、民間歌謡の伴奏を主にしていたが、20世紀に入り、劉天華(二胡、琵琶演奏家、作曲家・1895年〜1932年)らにより独奏曲が作られ始めた。更に1950年代にこの琵琶を改良して現在の琵琶が作られた。現代の琵琶は4本の金属弦を持ち、31個のフレットで半音階を演奏できる。ギターの奏法が取り入れられ、弾奏には右手の全部の指を使用し、爪か義爪によって音を出す。
古い時代の琵琶の楽譜としては敦煌文書 P.3808 の裏面に記された10世紀以前の楽譜(25曲)と、日本に残された楽譜がある[2]。その琵琶譜の譜字は現在のところUnicodeには未収録だが、追加多言語面への追加が提案されている[3]。
脚注
- ^ 杨荫浏『中国古代音乐史稿』上册、人民音乐出版社、1980年、129-131頁。
- ^ 林謙三「琵琶譜新考 特にその記譜法・奏法の変遷について」『奈良学芸大学紀要 人文・社会科学』第12巻、1964年、 70–85。
- ^ “Proposal to encode old Chinese lute notation (PDF)”. unicode.org (2017年9月7日). 2019年5月17日閲覧。
関連項目
琵琶
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琵琶 | ||
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各言語での名称 | ||
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![]() 中国明代の琵琶 (16世紀後期-17世紀初期) | ||
分類 | ||
関連楽器 | ||

琵琶(びわ、英語: pipa, 特に日本のものは biwa)は、東アジアの有棹(リュート属)弦楽器の一つ。弓を使わず、もっぱら弦(絃)をはじいて音を出す撥弦楽器である。古代において四弦系(曲頚琵琶)と五弦系(直頚琵琶)があり、後者は伝承が廃絶し使われなくなったが、前者は後に中国及び日本においていくつもの種類が生じて発展し、多くは現代も演奏されている。ベトナムにはおそらく明代に伝播した四弦十数柱のものが伝承され、ダン・ティ・バと呼ばれる。なお、広義には阮咸(げんかん)や月琴などのリュート属弦楽器も琵琶に含めることもある。
四弦系(曲頚)琵琶は、西アジアのウード、ヨーロッパのリュートと共通の起源を持ち、形もよく似ている。すなわち卵を縦に半分に割ったような形の共鳴胴に棹を付け、糸倉(ヘッド)がほぼ直角に後ろに曲がった特徴的な形である。五弦系(直頚)琵琶はインド起源とされ、糸倉は曲がらず真っすぐに伸びている。正倉院に唯一の現物である「螺鈿紫檀五弦の琵琶」(らでんしたんごげんのびわ、図参照)が保存されている。
四弦系(曲頚)琵琶が改良されて五弦となった琵琶も、日本の筑前琵琶などで見られる。
起源
実物は現存しないが、サーサーン朝ペルシア遺跡から出土する工芸品の浮彫り装飾などに、琵琶に似た楽器がしばしば見られる。糸倉が後ろに曲がり、多くはばちをもって弾奏されており、この「バルバット」と呼ばれる楽器が四弦系琵琶やウード、リュートの祖先とされる。これが中国に伝わったのは前漢の頃である。現存する世界最古の四弦琵琶は、今のところ正倉院に保存されている数面の琵琶であると思われる。いずれも奈良時代のものである。また楽譜も正倉院および敦煌から発見されている。
インドの琵琶

漢訳仏典には「琵琶」という楽器がよく出てくる。
例えば鳩摩羅什訳『法華経』方便品第二にも「・・・若使人作樂、撃鼓吹角貝、簫笛琴箜篌、琵琶鐃銅鈸、如是衆妙音、盡持以供養・・・」云々の「妙音成仏」の思想が説かれており、日本の仏僧が琵琶を弾く根拠となっている[1]。『法華経』のこのくだりの「琵琶」の原語は「ヴィーナ」[注釈 1] である。
同じヴィーナという名称の楽器でも、時代や地域ごとに形状はさまざまであり、琵琶のようなリュート型のものもあれば、竪琴のようなハープ型のものもあった。近現代のインドのヴィーナは、古代のヴィーナとかなり違うので、要注意である。
中国大陸の琵琶

現代中国語ではピーパ pípá と発音する。
「琵琶」という言葉は後漢の応劭『風俗通』声音篇に見え、また『釈名』釈楽器によれば胡の楽器で、馬上で演奏するものであるとする。琵琶がいつ中国大陸に伝わったかは明らかでないが、西晋の傅玄「琵琶賦」(『初学記』および『通典』が引く)の伝える伝説によると、秦のときに万里の長城を築く労働者が演奏したとも、前漢の烏孫公主が馬上で演奏できるように作ったともいう。しかし、その記述からすると当時「琵琶」と呼んだものは今の琵琶と異なり、阮咸にあたる楽器だったらしい[2]。北魏時代の敦煌莫高窟壁画に5弦の琵琶が描かれており、現在につながる琵琶はこのころ中国大陸に伝わったもののようである。
唐時代の琵琶は現在の日本の楽琵琶とほぼ同じ形をしており、音楽理論が整備される中で、調弦法も多数定められ、様々な合奏にも用いられ、記譜法も確立し、宮廷音楽から民間音楽まで、合奏、独奏、歌唱の伴奏と広く愛好された。白居易の詩「琵琶行」は有名であり、楊貴妃もよく琵琶を演奏したと言われる。清代に使用された琵琶は唐代までのものとは異なり、日本の盲僧琵琶にやや近い形をしており、弦数は変わらないがフレットはずっと増えて14個を備えていた。撥ではなく、へら状の義甲(ピック)で弾奏する。江戸時代の文政頃、月琴や胡琴等と共に日本に伝来、明治初年頃まで明清楽として流行した。現在も長崎に伝承され、「唐琵琶」と呼ばれている。以後も中国ではこの形のものを使用しており、民間歌謡の伴奏を主にしていたが、20世紀に入り、劉天華(二胡、琵琶演奏家、作曲家・1895年〜1932年)らにより独奏曲が作られ始めた。更に1950年代にこの琵琶を改良して現在の琵琶が作られた。現代の琵琶は4本の金属弦を持ち、31個のフレットで半音階を演奏できる。ギターの奏法が取り入れられ、弾奏には右手の全部の指を使用し、爪か義爪によって音を出す。
古い時代の琵琶の楽譜としては敦煌文書 P.3808 の裏面に記された10世紀以前の楽譜(25曲)と、日本に残された楽譜がある[3]。その琵琶譜の譜字は現在のところUnicodeには未収録だが、追加多言語面への追加が提案されている[4]。
ベトナムの琵琶
ベトナムの琵琶であるダン・ティ・バ(ベトナム語:Đàn tỳ bà / 彈琵琶”、“Đàn”(彈)は弦楽器であることを表す)は、木製で梨型、四本のナイロン弦(以前は絹糸)を持つ。演奏する際にはほぼ垂直に構え、左手の指で頻繁に音色の変化をつける。かつては宮廷で演奏され、現在もフエの皇宮のベトナムの雅楽において演奏される。Tỳ bà hành (漢字: 琵琶行)はカーチューen:Ca trù(漢字:歌籌)という合奏の代表曲である。
日本の琵琶

琵琶は7、8世紀頃、中国大陸から日本に入った。正倉院の宝物として伝来当時の琵琶が遺されている。半開の扇もしくはイチョウの葉の形に似た撥(棙)で弦を弾奏するのが特徴。 五弦琵琶、楽琵琶、平家琵琶、盲僧琵琶、唐琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶などの種類がある。それぞれの楽器は特有の音楽を持ち、その世界の中では単に「琵琶」と称される。またこれら異種の琵琶同士が合奏されることはまずない。また、琵琶を主体とした音楽を「琵琶楽」と総称する。
五弦琵琶
五弦琵琶は奈良時代より中国大陸から伝来した。聖武天皇に献上され、その後、正倉院に収められた螺鈿紫檀五絃琵琶は、世界に残る唯一の古代の五弦琵琶である。この五弦琵琶は、南インド産の紫檀に螺鈿細工をほどこしたもので、インドから中央アジアの亀茲国経由で唐に入り、日本にもたらされたとされる。五弦琵琶が他に見当たらない理由として、音域が四弦琵琶よりも狭く、演奏法も難しかったからだといわれる。[5]
陽明文庫には、五弦琵琶の楽譜が残されている。その譜字は次の通り。
絃\柱 | 開放弦 | 第一柱 | 第二柱 | 第三柱 | 第四柱 |
---|---|---|---|---|---|
第一絃 | 一 | ユ | 几 | フ | 丩[注釈 2] |
第二絃 | L[注釈 3] | ス | 十 | 乙[注釈 4] | レ |
第三絃 | リ[注釈 2] | 七 | ヒ[注釈 4] | 〻 | ミ[注釈 2] |
第四絃 | 丄 | 八 | 丨 | ム | ヤ |
第五絃 | 子 | 九 | 中/口[注釈 5] | 四 | 五 |
この他に「小」という譜字も現れているが、これは第四絃第二柱「丨」の別体という説、あるいは第四絃開放弦「丄」と第四絃第一柱「八」の間の小さな柱を表す譜字という説がある。
楽琵琶


楽琵琶は雅楽で両絃と呼ばれるもののうちの一つ(もう一つは楽箏)で、管絃、催馬楽(さいばら)に用いる琵琶である(舞楽では通常用いられない)。標準的なものとしては日本の琵琶の中で最も大きく、奈良時代に伝えられた唐代琵琶の形をほとんどそのまま現代に伝えている。撥は逆に最も小さい。現在は合奏の中で分散和音を奏しながらリズム的に支える役目をしている。

かつては独奏曲もあり、琵琶の三大秘曲として「楊真操」、「啄木」、「流泉」などが知られたが、現在に伝えられていない。また様々な技法も存在したようである。しかし、これらの曲の楽譜は現存しており、宮内庁楽部楽長多忠麿によって復曲が試みられ、演奏の録音もおこなわれた。
古くから愛された楽器で、文芸作品にもしばしば登場する。吉備真備、蝉丸、平経正など名人、名手といわれた人も多く、また多くの名器が伝えられている。おおらかで豊かな音色を持ち、後世の諸琵琶との大きな違いは、他の楽器との合奏に用いられること、調ごとに調弦法が変わること、「さわり」(サワリ)の機構がないこと、左手の押弦が、柱(フレット)の間で絃を押さえる張力を変化させて音程を変える奏法がないこと、また小指まで使用すること、などである。
楽琵琶の譜字としては、次のものを用いる。これは笙の譜字と同源とされている。
絃\柱 | 開放弦 | 第一柱 | 第二柱 | 第三柱 | 第四柱 |
---|---|---|---|---|---|
第一絃 | 一(いち) | 工(く) | 凢[注釈 6](ぼ) | フ(しゅ) | 斗(と) |
第二絃 | 乚(おつ) | 下(げ) | 十(じゅう) | 乙(び) | コ(こ) |
第三絃 | ク(ぎょう) | 七(しち) | ヒ(ひ) | 〻(ごん) | 之[注釈 7](し) |
第四絃 | 丄(じょう) | 八(はち) | 丨(ぼく) | ム(せん) | 也(や) |
平家琵琶
平家琵琶は楽琵琶から派生したもので、楽器は楽琵琶とほぼ同じつくりだが、小型の物が好まれる。撥は逆にやや大きく、先端の開きが大きい。平家物語をかたるときの伴奏に用いる。平家琵琶を用いた平家物語の語り物音楽を「平曲」と呼ぶ(薩摩琵琶、筑前琵琶にも平家物語を題材とする曲が多数あるが、これらは近世以降に作られたものであり、音楽的には平曲とはまったく違うものである)。伝承によれば、鎌倉時代のはじめ頃に生仏(しょうぶつ)という盲人音楽家がはじめたとされ、曲節には仏教音楽である声明(しょうみょう)の影響がみられる。のち、南北朝時代の盲人音楽家如一とその弟子明石検校覚一(1299年 - 1371年)が改変、整理し、一方(いちかた)流を創始した。いっぽう城玄が創始した八坂流も生まれる。室町時代には能楽と並び広く愛好され、中世日本音楽の代表的存在として並び称される。江戸時代初期には前田検校により前田流が、波多野検校により波多野流が生まれ、前者は江戸を中心に、後者は京都を中心に行なわれた。演奏は当道座に属する盲人音楽家により占有されていたが、江戸時代には晴眼の奏者もあらわれた。しかし地歌や浄瑠璃などの三味線音楽や箏曲の発展と共に次第に下火となり、波多野流は断絶、前田流は江戸時代中期に名古屋の荻野検校によって中興し、この流派のみがこんにちまで名古屋と仙台に伝えられている。演奏者は非常に少ないが、稀に「鱸」「竹生島詣」「那須与一」などを聴く機会がある。雅楽と平曲は絶対音高の音楽であるため、楽琵琶と平家琵琶は絶対音の楽器であり、相対音高の音楽である近世以降の琵琶楽と異なる。
三味線の祖型が日本に伝来したとき、これを初めて扱い現在に近い楽器に改良したのが平家琵琶の演奏家たちであった。そのため、琵琶と同じように三味線を撥で弾くようになった。ただし琵琶と三味線では撥の形状や持ち方に違いがある。また三味線は楽器のみが伝わり楽曲は伴わなかったため、彼らにより新曲が次々に作り出されたが、その際にも平曲の音楽的要素が色々反映されている。
盲僧琵琶
盲僧琵琶は仏教儀式に用いられたもので、盲人の僧侶が『法華経』方便品第二の偈の「妙音成仏」の思想を根拠に[6]琵琶の伴奏で経文を唱えたとされるが、娯楽的な音楽もある。その起源は奈良時代に求められ、早くから盲僧の組織が作られていた。蝉丸もその一人といわれる。大別して薩摩盲僧と筑前盲僧とがあり、室町時代から江戸時代にかけ、平曲の座頭組織である当道座と対立した。 薩摩盲僧琵琶から薩摩琵琶が派生し、また薩摩琵琶および三味線音楽の影響のもと明治20年代に筑前盲僧琵琶から筑前琵琶が派生した。
盲僧琵琶には一定した制がなく、色々なかたちがみられるが、楽琵琶の系統とはやや異なり、近世中国の琵琶に似ているものが多い。細身のものが多く、特に細いものを笹の葉に見立てて「笹琵琶」と呼ぶ。 筑前琵琶では五弦、薩摩琵琶では四または五弦の琵琶が使われていたが、薩摩系の常楽院流の伝書『琵琶由来記』によれば、盲僧琵琶の柱は古くは六弦六柱だったものを四弦四柱に改めたとあり、常楽院には六柱の琵琶が保存されている。6には六波羅蜜、六観音など仏教の命数としての意味があり、六柱琵琶は仏具として全ての盲僧琵琶に使われていたと見られている[7]。
薩摩琵琶

薩摩琵琶は16世紀に活躍した薩摩の盲僧、淵脇了公が時の領主、島津忠良に召され、命を受けて、武士の士気向上のため、新たに教育的な歌詞の琵琶歌を作曲し、楽器を改良したのが始まりと言われる。これまでの盲僧琵琶を改造し、武士の倫理や戦記・合戦物を歌い上げる勇猛豪壮な演奏に向いた構造にしたものである。盲僧琵琶では柔らかな材を使うことが多かった胴を硬い桑製に戻し、撥で叩き付ける打楽器的奏法を可能にした。撥は大型化し、杓文字型から扇子型へと形態も変化した。これにより、楽器を立てて抱え、横に払う形で撥を扱うことができるようになった。江戸時代には「木崎ヶ原合戦」などの合戦を叙した曲が作られて次第に盛んになり、やがて武士だけでなく町民にも広まった。こうして剛健な「士風琵琶」と優美な「町風琵琶」の2つの流れが成立する。江戸時代末期に池田甚兵衛が両派の美点を一つに合わせ、一流を成し、以降、これが薩摩琵琶として現在まで続いている。
薩摩出身者が力を持っていた明治時代には富国強兵政策とも相まって各地に広まり、吉村岳城、辻靖剛、西幸吉、吉水錦翁などの名手が輩出した。また明治天皇が終生愛好し、明治14年5月に、元薩摩藩主・島津忠義邸にて西幸吉が御前演奏をしたことから、社会的な評価がさらにあがり、やがて「筑前琵琶」とともに「宗家の琵琶節」は皇室向けにしか演奏しない「御止め芸」となった。また、永田錦心が出て、洗練された都会的で艶麗な芸風を特徴とする錦心流を打ち立て、これが評判となり全国に普及した。さらに昭和に入ると水藤錦穣が筑前琵琶の音楽要素を取り入れた「錦琵琶」を創始した。楽器も筑前琵琶を取り入れ五弦五柱を持つよう改良された。その後、水藤錦穣と同じく錦心流から出た鶴田錦史が五弦五柱をさらに改良すると共に、音楽的にも新しい分野へ飛躍させた。それまで語りの伴奏として用いられてきた琵琶に器楽的要素を大きく取り入れ、語りを伴わない琵琶演奏、西洋楽器やこれまで協奏することの無かった他の和楽器との合奏、また錦心流を基礎とした琵琶歌の改良、など斬新なアプローチを行った。鶴田錦史の流れを汲む一派を「鶴田流」あるいは「鶴田派」と呼び、近年発展している。
唐琵琶

唐琵琶は、清代に民間で流行した琵琶で、その楽曲(清楽)や月琴等多数の楽器と共に文政年間頃日本に伝わったものである。唐琵琶とは日本での呼び名で、唐代の琵琶とは大きく異なるので注意が必要である。細身で胴は槽の材が表面にまで出て枠となり、そこに表板をはめ込む形をとっている。これは盲僧琵琶の多くや筑前琵琶と共通している。弦は四本、フレットは14個あり、撥ではなくへら状の義甲を用いて弾奏する。主に清代の民間楽曲(清楽)を他の楽器と合奏する。著名な曲としては「九連環」「茉莉花」「水仙花」などがある。清楽は以前に伝わっていた明楽と合わせて明清楽と呼ばれ、幕末から明治初期にかけて流行したが、日清戦争の頃急速に下火となり、現在ではわずかに長崎に伝えられている。
筑前琵琶

筑前琵琶は明治時代中期に橘智定(たちばなちてい)が薩摩で薩摩琵琶を研究して帰り、筑前盲僧琵琶を改良、新しい琵琶音楽を作り出した。琵琶奏者の鶴崎賢定(つるさきけんじょう)や吉田竹子がこの新しい琵琶音楽を広めるのに一役買った。明治29年、橘智定は東京へ進出し、演奏活動を開始して注目を浴びた。そして雅号を旭翁と号し、筑前琵琶 橘流を創始、明治天皇御前演奏をするなど急速に全国に広まった。橘流は創始者である初代旭翁の没後、「橘会」と「旭会」の二派に分かれ現在に至る。また吉田竹子の門下から高峰筑風(高峰三枝子の父)が出て一世を風靡したが、後継者がなくその芸風は途絶えた。筑前琵琶の音楽は薩摩琵琶に比べ曲風がおだやかであり、楽器、撥ともやや小柄である。胴の表板は桐に変わり、音色は薩摩琵琶に比べ軟らかい。調絃も三味線に準ずるようになった。女性奏者に人気が出、娘琵琶としても流行した。また一時期は花柳界にも「琵琶芸者」なるものが存在した。薩摩琵琶では歌(語り)と楽器は交互に奏されるが、筑前琵琶の音楽には三味線音楽の要素が取り入れられており、歌いながら琵琶の伴奏を入れる部分がある。著名な曲としては「湖水渡」「道灌」「義士の本懐」「敦盛」「本能寺」「石堂丸」などがある。筑前琵琶の種類は四絃と、四絃より音域をより豊かにする為に初代 旭翁とその実子である橘旭宗 一世によって考案された五絃があり、五絃の方が全体にやや大きい。撥も五絃用のものの方がやや開きの幅が広く、いくらか薩摩のものに近い。柱はいずれも五柱(四絃五柱、五絃五柱)。この他、高音用の「小絃」、低音用の「大絃」も作られたが、一般的に普及はしていない。
現代の琵琶
古典的な楽曲だけではなく、独奏、合奏ともに様々な作曲が試みられている。古典のスタイルにのっとった新作もあるが、特に打楽器的効果の強い薩摩琵琶は、しばしば現代音楽にも用いられる。武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」、「エクリプス」などが有名。この他、和楽器オーケストラの中で薩摩琵琶や筑前琵琶が1~2パートを受け持つことも少なくない。また楽琵琶では、新作雅楽曲のパートとしての演奏のほか、奈良時代の楽曲の復元演奏なども試みられている。
日本の琵琶のいくつかに共通の事項
盲僧琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶は高いフレット(「柱」と称する)を持つ。それだけ弦を押し込むことができ、張力を変化させることにより音程を調節できる範囲が広い(柱によっては長三度まで)。中国の琵琶がフレットを増やして、楽器としての機能向上によって表現力を高めたのとは逆に、日本の琵琶はフレットを増やさず(場合によっては減らし)、その分演奏者の技倆をできるだけ活かして微妙な演奏を行うことを好んだ。また中国琵琶が金属弦を取り入れているのに対し、日本琵琶は絹糸の繊細な音色を大切にしている。いっぽうリュートが撥を捨て、指頭で弾くことから多音性を発達させ、弦数も増えていったのに比べ、日本の琵琶は逆に撥を大型化して一音にすべてを込め、また打楽器的効果を持たせた。
脚注
注釈
出典
- ^ 天台宗公式サイト「法話集No.138琵琶の音」( http://www.tendai.or.jp/houwashuu/kiji.php?nid=162 )2021年3月14日閲覧
- ^ 杨荫浏『中国古代音乐史稿』 上册、人民音乐出版社、1980年、129-131頁。
- ^ 林謙三「琵琶譜新考 特にその記譜法・奏法の変遷について」『奈良学芸大学紀要 人文・社会科学』第12巻、1964年、70–85。
- ^ “Proposal to encode old Chinese lute notation” (PDF). unicode.org (2017年9月7日). 2019年5月17日閲覧。
- ^ 河添房江『唐物の文化史 : 舶来品からみた日本』11頁
- ^ 天台宗公式サイト「法話集 No.138琵琶の音」https://www.tendai.or.jp/houwashuu/kiji.php?nid=162 閲覧日2022年2月22日
- ^ 兵藤裕巳『琵琶法師:<異界>を語る人びと』岩波書店〈岩波新書〉、2009年。ISBN 978-4-00-431184-3。 pp.26–30.
関連項目
外部リンク
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