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メルセデス・ベンツ・W196

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/06/07 01:22 UTC 版)

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メルセデス・ベンツ・W196
ファン・マヌエル・ファンジオのW196(No.18)
カテゴリー F1
コンストラクター メルセデス
デザイナー ルドルフ・ウーレンハウト
主要諸元
エンジン M196
主要成績
チーム ダイムラー・ベンツ
ドライバー ファン・マヌエル・ファンジオ
スターリング・モス
ハンス・ヘルマン
カール・クリング
出走時期 1954 - 1955年
ドライバーズタイトル 2(1954年、1955年)
表彰台(3位以内)回数 17
初戦 1954年フランスGP
初勝利 1954年フランスGP
最終戦 1955年イタリアGP
出走
回数
優勝
回数
ポール
ポジション
ファステスト
ラップ
12 9 8 9
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メルセデス・ベンツ・W196 (Mercedes-Benz W196) は、メルセデス・ベンツ1954年1955年F1世界選手権で使用したフォーミュラ1カーである。12戦中9勝を記録し、ファン・マヌエル・ファンジオが2年連続ドライバーズチャンピオンを獲得した。

概要

メルセデス・ベンツ・300SLR(W196S)

1951年より活動を再開したメルセデス・ベンツのモータースポーツ部門は、1954年からF1に2.5リッターエンジン規定が導入されることを見据えてF1マシンの設計に着手した。また、基本コンポーネントを共有するスポーツカーを並行開発してスポーツカー世界選手権に投入することも計画した。この2タイプのマシンは社内コードでW196RRennwagen (レーシングカー) )とW196SSport (スポーツカー) )と呼ばれた。一般にW196Rはメルセデス・ベンツ・W196と呼ばれ、W196Sはメルセデス・ベンツ・300SLRの名で知られることになる。

開発が遅れたため、W196の初陣は1954年の第4戦フランスGPとなった。戦前のグランプリレースを席巻したナショナルカラー「シルバーアロー」の復活に注目が集まる中、W196は予選で1-2位を獲得し、決勝でもワンツーフィニッシュを果たした。この勝利はF1デビュー戦優勝として歴史に残り[注釈 1]、F1開幕以来続いたイタリアメーカーの連勝を止める1勝にもなった。この年は6戦出走して4勝4ポールポジション(優勝はいずれもファンジオ)。それでもマシンはまだ開発途上にあり、ファンジオ以外のワークスドライバーが表彰台を獲得したのは2度だけだった。

マシンを熟成して臨んだ1955年はほぼ敵なしの状態だった。不参加のインディ500以外6戦に出走し、全車が同じエンジントラブルに見舞われたモナコGP以外は5勝4ポールポジション。第4戦から最終戦にかけて4戦連続でワン・ツー・フィニッシュを達成した。このうち、イギリスGPでは4台で1-4位を独占し、この年チームに加入したスターリング・モスが地元で初優勝を達成した。

W196は選手権レースでないものも含め2年間に14戦中11勝し、グランプリカーの名車の1台となった。メルセデス・ベンツのレース活動休止後は自動車博物館に展示されている。

2013年7月にオークションに出品され、自動車としては史上最高値となる約3000万ドルで落札された[1]

技術

エンジン

2009年グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにて録音(スターリング・モスが乗車)

この音声や映像がうまく視聴できない場合は、Help:音声・動画の再生をご覧ください。

M196エンジンは直列4気筒を縦に2基並べて中央から駆動力を取り出す方式で、垂直方向から53度寝かせてシャーシに搭載された[注釈 2]ドライブシャフトはコクピットの左側を通り、ドライバーの着座位置を下げることで低重心化と空気抵抗の削減が見込めた。これらは戦前のW154で成功した手法の応用だった[注釈 3]

シリンダーブロックはダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト由来の独特なウェルデッド・シートスチール(鋼板溶接気筒)構造。バルブ制御にはコイルスプリング式に代わり、カムで強制的に開閉するデスモドロミック方式を採用し、給排気の効率化とエンジンの高回転化を図った。ほかにも航空用エンジンの技術を応用したボッシュ燃料直噴装置、ローラーベアリングを使用したクランクシャフトの軸受け(どちらもDB 601で既採用)などの複雑な技術を盛り込んでいた。これらの製造・管理には高い技術力が必要とされるため、F1界では追随者が現われなかった。出力は268馬力からスタートして最終的には290馬力に達し、ライバルマシンを圧倒した。

2種類のボディ

W196ストリームライン
W196オープンホイールに乗るファン・マヌエル・ファンジオ(1986年ニュルブルクリンク
W196オープンホイールのリアビュー

デビュー戦のランス公道コースに登場したW196はシャーシとタイヤをすっぽりと覆う滑らかな流線型ボディ(ストリームライン)をまとっていた。空気抵抗を減らすストリームラインは戦前から存在していたが、架装を前提に設計したのはW196が最初だった。風洞実験やアウトバーンでの走行テストで磨かれたボディは直線路で効果を発し、のちにフェラーリなどの他チームに模倣された[注釈 4]。しかし、2戦目のイギリスグランプリではボディの大きさのためドライバーの周辺視界が悪くなるという弱点が判明する。名手ファンジオでも操縦に苦労し、マシンのフェンダーはコーナーのパイロンにぶつかり破損した。また、傾載エンジンのメンテナンスにも支障があり、前輪を外さなければプラグの交換作業ができなかった。

チームは一般的なオープンホイールボディの製作を急ぎ、次戦ドイツグランプリの予選2日目に何とか間に合わせた。以降はオープンホイールが主戦となり、ストリームラインは高速サーキット専用となった。

1955年型ではボンネット右上に吸気用のバルジが追加され、ウィンドスクリーン前のエアスクープが廃止された。テストでは同年のル・マン24時間レースで300SLRの武器となったハネ上げ式の空力ブレーキを取り付けたストリームラインも試された。この車の活躍した時代とは直接には関連しないが、1960年代に入ってまもなく禁止されたタイヤを覆うボディワークと同様、こちらの空力ブレーキも、後のルール変更で禁止された「走行中に可動な空力要素」に相当するため、ある時代以降には類例が無いものとなっている。

バリエーション

継続的に開発が行われた結果、W196にはレースごとに何らかの変更点がみられたが、大まかに分けて7種類のバリエーションがあった。シャーシはロングホイールベース(2,350mm)、1955年から使用されたミディアムホイールベース(2,210mm)、ツイスティなモナコグランプリ用に開発されたショートホイールベース(2,150mm)の3種類がある。ショートタイプには重量バランスを考慮してエンジン搭載位置を前にずらした仕様のものもある。フロントブレーキは四輪駆動への切り替えを検討していた頃の名残りでインボード型を装備していたが、これもモナコグランプリからアウトボード型が登場した。これらはサーキットの特性やドライバーの好みに応じて使い分けられた。

各グランプリで使用されたバリエーション[2]
グランプリ ファンジオ クリング ヘルマン モス ラング シモン タルッフィ スペアカー
1954 フランスGP 1 1 1   1
イギリスGP 1 1   1
ドイツGP 2 2 2   2   1
スイスGP 2 2 2   不明
イタリアGP 1 1 2   1
スペインGP 2 2 2   2
1955 アルゼンチンGP 3 3 2 2   2
モナコGP 5   3 3   3   シモンが使用
ベルギーGP 2 2   6   3
オランダGP 5 3   6   3
イギリスGP 5 3   4   2 3
イタリアGP 1 不明   1   3 7
  • バリエーション番号
    1. ストリームライン/ロングホイールベース/インボードブレーキ
    2. オープンホイール/ロングホイールベース/インボードブレーキ
    3. オープンホイール/ミディアムホイールベース/インボードブレーキ
    4. オープンホイール/ショートホイールベース/アウトボードブレーキ
    5. オープンホイール/ショートホイールベース/アウトボードブレーキ/エンジン前方移動
    6. オープンホイール/ミディアムホイールベース/アウトボードブレーキ
    7. ストリームライン/ミディアムホイールベース/アウトボードブレーキ

スペック

1954年ドイツGPにてW196をドライブするファンジオ
1954年イタリアGPにて、フェラーリアルベルト・アスカリと競り合うファンジオ

シャーシ

エンジン

  • エンジン名 M196
  • 気筒数・角度 直列8気筒(53度傾斜搭載)
  • 排気量 2,496 cc
  • 最高回転数 8,700 rpm
  • 圧縮比 9.0:1
  • バルブ DOHC 2バルブ(デスモドロミック)
  • ボア・ストローク 76×68.8 mm
  • 最高出力 290 馬力

F1における全成績

(key) (太字ポールポジション

シャシー エンジン タイヤ ドライバー 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ポイント 順位
1954年 W196 Stromlinien
W196
メルセデス・ベンツ M196
L8 2.5リッター
C ARG
500
BEL
FRA
GBR
GER
SUI
ITA
ESP
-* -*
ファン・マヌエル・ファンジオ 1 4 1 1 1 3
カール・クリング 2 7 4 Ret Ret 5
ハンス・ヘルマン Ret Ret 3 4 Ret
ヘルマン・ラング Ret
1955年 W196 Stromlinien
W196
メルセデス・ベンツ M196
L8 2.5リッター
C ARG
MON
500
BEL
NED
GBR
ITA
-* -*
ファン・マヌエル・ファンジオ 1 Ret 1 1 2 1
カール・クリング 4 Ret Ret Ret 3 Ret
ハンス・ヘルマン 4 DNQ
スターリング・モス 4 9 2 2 1 Ret
アンドレ・シモン Ret
ピエロ・タルッフィ 4 2
  • * コンストラクタータイトルは1958年から設定された。このためコンストラクターとしてのポイントやランキングは存在しない。
  • 印は同じ車両を使用したドライバーに順位とポイントが配分された。

注釈

  1. ^ メルセデス・ベンツ以外にデビューウィンを記録したコンストラクターは、1950年のアルファロメオ(選手権開幕戦の優勝につきデビュー扱いとなる)、1977年ウルフ2009年ブラウンGPの3例がある。
  2. ^ エンジンを寝かせる搭載方法は、1986年のブラバム・BT55ゴードン・マレー設計)でも試みられた。
  3. ^ W154はV12エンジンを車体中心線から6.5度斜めにして搭載し、ドライブシャフトを操縦席の脇に通した。
  4. ^ 1961年のルール変更でタイヤを覆うボディワークの使用は禁止された。

出典

[ヘルプ]
  1. ^ Mercedes racing car used by Fangio sells for nearly $30 million
  2. ^ 『メルセデスベンツ グランプリカーズ 1934-1955』、229 - 230頁。

参考文献

  • 菅原留意『メルセデスベンツ グランプリカーズ 1934-1955』、二玄社、1977年。
  • 赤井邦彦『シルバーアロウの軌跡 MERCEDES-BENZ MOTORSPORT』、ソニー・マガジンズ、1999年。



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300SLRの開発詳細は「メルセデス・ベンツ・300SLR」を参照同時期にF1用の車両も準備をする必要があり、フォーミュラ1車両とレース専用スポーツカーを同時に開発することは現実的ではないとダイムラー・ベンツの技術陣は考え、このレース専用スポーツカーは基本的な設計をW196と共有した車両として開発された。そのため、型番も共有して「W196S」となるが、この呼び方はフォーミュラ1車両の「W196R」と混同を招くため、技術陣の間では早くから「300SLR」と呼ばれた。その名称から発表当初から「300SL」の発展形と思われがちだったが、車両としては全く関連がなく、両車の関係を当時のジャーナリストのデニス・ジェンキンソンは「要するに排気量が3リッターであること以外、何の関係もない」と端的に評した。その3リッターのエンジンは排気量こそ異なるが、基本構造はF1用の2.5リッターのM196エンジンそのままで、ボア径とストロークをそれぞれ伸長することで排気量を増大させている。エンジン特性も高回転時の大きなトルクはスポーツカーレースではそれほど必要としないと考え、最高回転数は落とされ、ストローク長が長くなっているにもかかわらず、ピストンスピードもM196エンジンよりも低く抑えられている。エンジン重量の増大に対応するため、レーシングカー用のエンジンとしては初めて、アルミニウム合金製のシリンダーブロックを採用して軽量化が図られた。エンジンとボディ以外はW196Rとほぼ同じである。300SLRはW196Rより200㎏から300㎏ほど重いが、エンジン出力は300SLRのほうが大きく、速さの点で両車両の性能差はほとんどなかった。1954年9月にモンツァで行われた最初のテストでファンジオが記録したタイムは、自身がW196Rで樹立した当時のラップレコードと比べ、走り始めからわずか3秒落ちるのみだった。レースにおける活躍
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