M-346_(航空機)とは? わかりやすく解説

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M-346 (航空機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/02 21:10 UTC 版)

M-346

2017年、ロイヤル・インターナショナル・エアタトゥーにて。

M-346は、イタリアアレーニア・アエルマッキ社のジェット練習機。軽攻撃機としての利用も考慮されている。

開発

1997年MAKSでのYak-130。垂直尾翼にヤコヴレフと共にアエルマッキ社が記されている

1990年代にA・S・ヤコヴレフ記念試作設計局とのジョイント・ベンチャーで行われた練習機開発計画が、市場の変化に伴いロシア西側向けに分離した[2]。ロシア側に分離したものがYak-130であり、イタリアで設計されたものが本機である。

Yak-130との分離後、2004年に初飛行、2008年1月24日には試作2号機により、トーネード IDSからのプローブ式の空中給油に成功した。同年4月10日には、生産型1号機がロールアウトした[2]。生産型は降着装置AMXと同様のものとし、縦通材を省き機体構造の見直しとチタニウム及び複合素材の使用で380kg以上の軽量化を果たし、これに加えてテスト用の機材や標準化システムが占める物を含めて700kg程の余裕が持たされた。空力設計に基づき、燃料タンクは前方に80cm移動、航法システムはアレーニアSIAとSelexコミュニケーションズの機材をアレーニア・アエルマッキのソフトウェアで制御するものに強化された。

2008年11月19日、ハネウェルとの間に520億ドル分のエンジン供給契約が締結された。2009年には公式試験が終了し、アレーニア・アエルマッキは「マスター」(Master) と命名した[3]。2009年6月、パリ航空ショーの後、イタリア空軍と初期6機、オプション9機の契約を締結し、航空軍備総局よりT-346の型式が与えられた[2]。2010年12月21日、最初の2機がロールアウト[4]、2011年3月31日に初飛行[5]、6月20日に型式認証された[6]。11月には受領が正式に決定している[7]。2020年7月13日には、軽攻撃機型のM-346FAが初飛行した[1]

特徴

曲技飛行を披露するM-346
M-346FA

高等練習機と軽攻撃機を兼ねる機体として設計されており、アフターバーナー非搭載ながら練習機としては高い推力を備えている。双発エンジンによる安全性の確保、システム冗長性の獲得、兵装搭載量の増大を実現している。デジタルコントロールは四重化され、これによって実用機の特性を模することが可能とされている。コクピットには、ヘッドアップディスプレイとカラー液晶ディスプレイ3面の合わせて4面のディスプレイが設けられ、ヘッドマウントディスプレイ暗視ゴーグルの運用にも対応している[8][9]射出座席には、イギリス製のMk16を採用している[9]

高アングル・高G(+8から-3まで)の機動、遷音速までの速度域に対応している[10]。対空、対地の訓練内容を地上から随時変更可能とし、合成素材の多用や機体構造の標準化、TFE731エンジンをベースに開発されたF124エンジンの採用などによって訓練費用や維持費用の低減にも配慮している[8]

軽攻撃機型M-346FAグリフォ英語版レーダー(機械走査式[1])、データリンク、自衛用のECM装置を装備[1]し、近接航空支援 (CAS)・ヘリコプター等の低速目標迎撃(SMI:Slow Mover Interceptor)・対艦攻撃に用いられる。主翼下に各2ヶ所、翼端の短距離対空ミサイル用を含む[1]、計7か所の搭載ステーションを持ち、兵装の最大搭載量は2,000kg[11]、LITENING 5レーザー照準器やRecceLite偵察ポッドに加え[1]FLIRなどの携行も可能である。練習機型との差異は、乗員1名で全ての機能を制御可能であることと、機材の即時適応性であり、実運用に際しては練習機型との混成でも支障は無いとされている[8]

派生型

M-346
基本型。
M-346FT
FTはファイター・トレイナーの略。LIFT機と戦闘訓練に使用可能。訓練を主とした機体。
M-346LCA
LCAは軽戦闘機の略。簡素な戦闘・攻撃機。ポーランドにSu-22の後継として提案されていた。
M-346LFFA
前はM-346FA(戦闘攻撃機)と呼ばれていた。多用途作戦型。

運用

採用国

イタリア
空軍の18機と、レオナルド社所有4機の計22機が国際飛行訓練学校(IFTS)に配備された[12][13]。IFTSではイタリア空軍のほか、ドイツ空軍[14]航空自衛隊[15]のパイロット訓練を行っており、この訓練にもM-346が用いられる。M-345が予定されていた曲技飛行隊「フレッチェ・トリコローリ」の機体も2024年M-346で更新することとなり[16]、同飛行隊用の15機を含めた20機の発注が追加された。
ポーランド
2006年、ポーランド空軍に提案を行ったが[17]、2011年に練習機導入計画自体が中止された[18]。改めてその後2014年2月27日に8機を正式に発注した[19]。2018年に4機が追加され、2021年にはさらに4機が追加された。2022年末までに計16機が納入される予定である[20]。ポーランド空軍では"ビエリク"(オジロワシ)のニックネームが与えられている。
シンガポール
2010年9月、シンガポール空軍に練習機として12機の導入が決定した[21][22]。2023年時点で、12機のM-346を保有している[23]
イスラエル
イスラエル空軍飛行学校に配備されたM-346 "ラビ"
2012年2月16日、イスラエル空軍TA-4更新計画に際し、T-50との受注争いに勝利して約30機の導入が決定した[24][25]。2016年3月24日に最初の9機が就役した。イスラエル空軍ではM-346に"ラビ" (Lavi、「若獅子」の意味だが、1980年代にイスラエルが試作した国産軽戦闘爆撃機の名でもある。また、ユダヤ教の導師を意味するRabbiとも似た発音である) のニックネームを付け、ハツェリム空軍基地の空軍飛行学校および第102飛行隊に配備して運用を行っている[26]
アゼルバイジャン
2020年2月にM-346購入の予備契約を交わした[27]。その後15機の取得が計画された[28]
ギリシャ
イスラエルのエルビット・システムズ社に訓練学校運営を委託する形で10機のM-346を取得する契約を結んだ[29]。2024年時点で2機を保有[30]
トルクメニスタン
2021年に6機のM-346を発注した[31]。2024年時点で、トルクメニスタン空軍が5機のM-346FAを保有[32]
カタール
6機のM-346を発注しており、うち3機が2022年1月に納入された[33]
ナイジェリア
約12億ドルにて24機のM-346FAを購入し、2021年第3四半期までに最初の6機の納入を予定している[34]
 オーストリア
2024年12月28日、退役したサーブ105の後継として12機のM-346FAを空軍に導入する意向書に署名した[35]。2027年より納入予定とされる[35]

不採用国

アメリカ合衆国
アメリカ空軍T-38の後継となるT-X計画にT-100の名称で提案されていたが、ボーイング T-X(現T-7)が採用された。
アラブ首長国連邦
2009年、アラブ首長国連邦空軍ノックダウン生産を含む48機(軽攻撃機型20機を含む)の導入を決定したが[36]、その後の契約交渉が進まず2011年の段階では停止状態となっている[37][38][39]。その後2022年にはL-15練習機48機の導入を予定し12機を発注した[40]

事故

2011年11月18日、ドバイ航空ショーに出展の後、アラブ首長国連邦からサウジアラビア経由でイタリアへの帰国の途についた試作機がドバイ近郊で墜落、搭乗者は脱出に成功し死者・重傷者はなかった[41][42][43]

要目

出典:Alenia Aermacchi Brochures 2011 M-346[リンク切れ]P16、アレーニア・アエルマッキ[44]、レオナルド[45]からのデータ

  • 乗員:2名
  • 全長:11.49 m
  • 全幅:9.72 m
  • 全高:4.91 m
  • 翼面積:23.52 m2
  • 空虚重量[2]:4,625 kg
  • 運用時重量:7,400 kg
  • 最大離陸重量:10,200 kg
  • ペイロード:3,000 kg
  • エンジン:ハネウェル/ITEC F124-GA-200 2基
  • 最大出力:2,850 kg x 2 (合計推力: 約55.9 kN)
  • 機内燃料搭載量:2,000 kg(2,500 リットル
  • 増槽:1,515kg(630リットルタンク3本)
  • 最高制限速度:590 ノット (1,092 km/h)
  • 最高速度:572 ノット (1,059 km/h)
  • 失速速度:95 ノット (166.6 km/h)
  • 上昇率:22,000 フィート/分
  • 上昇限度:45,000 フィート
  • 航続距離:1,070 nm (1,981.6 km)
  • フェリーレンジ:増槽3本使用時、1,470 nm (2,722.4km)
  • 行動半径[2]:185 km(AIM-9L2発と、訓練用ポッド搭載時)
  • 離陸滑走路長:400 m
  • 着陸滑走路長:550 m(残燃料20%時)
  • ハードポイント:9ヶ所(翼端各1、翼下各3、胴体1)[8][9]

出典

  1. ^ a b c d e f 井上孝司「航空最新ニュース・海外軍事航空 マスター練習機の軽攻撃機型M-346FAが初飛行」『航空ファン』通巻814号(2020年10月号)文林堂 P.114
  2. ^ a b c d e イタリア空軍
  3. ^ 但しこの名称は、アレーニア・アエルマッキのパンフレットや公式サイトでは2010年12月以降は使用されていない。
  4. ^ Alenia Aermacchi: roll-out of first two Italian Air Force T-346A trainers[リンク切れ]
  5. ^ Alenia Aermacchi Announces the First Flight of the Italian Air Force T-346A[リンク切れ]
  6. ^ The Alenia Aermacchi M-346 trainer aircraft receives its Type Certificate from the Italian Defence Ministry[リンク切れ]
  7. ^ Acceptance of the first T-346A for the Italian Air Force completed[リンク切れ]
  8. ^ a b c d Alenia Aermacchi Brochures 2012 M-346[リンク切れ]
  9. ^ a b c M-346 Master, Italyairforce-technology.com
  10. ^ アフターバーナーを持たないため水平飛行での音速突破は不可能だが、急降下による音速突破は可能。これによってイタリア製実用航空機(ただしエンジンはアメリカと中華民国(台湾)を中心とした国際共同開発)として初めて音速突破を達成した機体となった。
  11. ^ 青木, 謙知 (2019-03-31). 戦闘機年鑑2019-2020. イカロス出版. pp. 108-109 
  12. ^ “Leonardo delivers first M-346 aircraft for Italian Air Force’s IFTS”. Air Force Technology. (2019年2月19日). https://www.airforce-technology.com/news/leonardo-m-346-italian-ifts/ 
  13. ^ IFTS- Addestramento dei piloti militari” (イタリア語). aircraft.leonardo.com. 2025年5月5日閲覧。
  14. ^ ガブリエル・ベネヴィデス (2022年6月19日). “レオナルド国際飛行訓練学校がパイロットの最初のグループを訓練”. Aeroflap. 2025年6月7日閲覧。
  15. ^ 乗りものニュース編集部 (2022年1月21日). “航空自衛隊パイロット イタリア空軍で訓練スタート 基地入口には日の丸も”. 乗りものニュース. 2025年6月7日閲覧。
  16. ^ Felstead, Peter (2024年9月13日). “Italian Air Force presents M-346 as Frecce Tricolori’s future aircraft - European Security & Defence” (英語). euro-sd.com. 2025年4月28日閲覧。
  17. ^ Alenia Aermacchi (Finmeccanica): the new advanced trainer aircraft M-346 presented to the Polish Air Force[リンク切れ]
  18. ^ “Polish Defence Ministry Cancels Training Aircraft Tender”. http://www.defencetalk.com/polish-defence-ministry-cancels-training-aircraft-tender-37995/ 
  19. ^ “ポーランド、M-346ジェット練習機8機を発注”. FlyTeam ニュース. http://flyteam.jp/news/article/32509 
  20. ^ Herk, Hans van. “Polish Air Force orders four more M346s” (英語). www.scramble.nl. 2022年5月4日閲覧。
  21. ^ Alenia Aermacchi Alenia Aermacchi: finalised contracts with ST Aerospace worth about EUR 170 million for the logistic support of the fleet of 12 M-346s for the Republic of Singapore Air Force[リンク切れ]
  22. ^ New Generation Advanced Fighter Trainer for the RSAF[リンク切れ]シンガポール国防省
  23. ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 288. ISBN 978-1-032-50895-5 
  24. ^ Alenia Aermacchi: Israel selects the Italian M-346 trainer aircraft[リンク切れ]
  25. ^ <EMeye>イスラエル次期ジェット練習機、イタリアが韓国に勝利[リンク切れ]モーニングスター
  26. ^ Master stroke” (2014年7月9日). 2016年3月24日閲覧。
  27. ^ “Azerbaijan Buys the M-346 as Caucasus Stand-off Continues”. AINonline. (2020年2月27日). https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2020-02-27/azerbaijan-buys-m-346-caucasus-stand-continues 
  28. ^ GDC (2021年7月7日). “Azerbaijan acquires Leonardo M-346 advanced training aircraft” (英語). Global Defense Corp. 2021年11月21日閲覧。
  29. ^ Greece okays $1.68 billion defense deal with Israel” (2021年1月5日). 2021年11月21日閲覧。
  30. ^ IISS 2024, p. 102.
  31. ^ GDC (2021年8月29日). “Italian Leonardo Scored Major M-346 Trainer Deal From Egypt, Greece, Poland and Turkmenistan” (英語). Global Defense Corp. 2024年5月2日閲覧。
  32. ^ IISS 2024, p. 209.
  33. ^ Qatar receives M-346 jet trainers”. Jane's (2022年1月26日). 2024年5月2日閲覧。
  34. ^ Nigeria Ordered 24 M-346FA Aircraft Worth $1.2 Billion” (2021年5月7日). 2024年5月5日閲覧。
  35. ^ a b Georg Mader (2024年12月30日). “Austria approves M-346FA light strike fighter and trainer buy”. janes.com. 2024年12月31日閲覧。
  36. ^ The United Arab Emirates Government selects Finmeccanica for 48 M-346 advanced lead-in fighter trainer aircraft[リンク切れ]
  37. ^ “UAE Gives M346 a LIFT”. http://www.defenseindustrydaily.com/UAE-Gives-M346-a-LIFT-05303/  {{cite news}}: 不明な引数|pulisher=は無視されます。(もしかして:|publisher=) (説明)
  38. ^ UAE stops talks with Alenia Aermacchi on M-346 contractFlightglobal(記事は、Flight Internationalからの提供)
  39. ^ なお、2011年の交渉でアレーニア・アエルマッキとの間に成立した契約は、MB-339の導入に関するものである。
  40. ^ UAE poised to order up to 48 Chinese L-15 jet trainers”. Flight Global (2022年2月23日). 2025年4月7日閲覧。
  41. ^ Press Note[リンク切れ]
  42. ^ “Italian air-show plane headed to Saudi Arabia crashes in Dubai”. Al Arabiya News. http://english.alarabiya.net/articles/2011/11/18/177868.html 
  43. ^ Aviation Safety Network[リンク切れ]
  44. ^ M-346”. アレーニア・アエルマッキ. 2014年5月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月閲覧。 エラー: 閲覧日は年・月・日のすべてを記入してください。
  45. ^ M-346 MASTER ADVANCED JET TRAINER, AGGRESSOR, FIGHTER”. レオナルド S.p.A. 2020年10月6日閲覧。

参考文献

  • The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2024) (英語). The Military Balance 2024. Routledge. ISBN 978-1-032-78004-7 
  • 『航空ファン』第61巻第4号、文林堂、2012年4月、24-31頁、 NCID AN10026008 

関連項目

外部リンク




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