クリスパー‐キャスナイン【CRISPR/Cas9】
読み方:くりすぱーきゃすないん
《clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated protein 9》DNAの任意の塩基配列を認識し、その部分の切断・置換・結合を行うゲノム編集の中核技術の一。標的となる塩基配列に導いて特異的に結合するRNAをもつCRISPR(クリスパー)、および特定の塩基配列でDNAを切断する制限酵素CAS9(キャスナイン)からなるたんぱく質複合体を用いる。もとは原核生物がもつ獲得免疫機構であり、2012年頃から、高精度かつ簡便な遺伝子改変を可能とし、広く利用されている。クリスパーキャスナインシステム。
Cas9
(CRISPRCas9 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/16 06:46 UTC 版)

CRISPR-Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats / CRISPR associated proteins)とはゲノム編集技術。DNA鎖の特定の塩基配列を認識したCas9によりゲノム配列が編集される。
概要
CRISPR-Cas9はDNA二本鎖を切断してゲノム配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができるゲノム編集技術でCRISPR-Casシステムは、遺伝的内容と構造の違いに基づいて、3つの主要なタイプ(タイプI、タイプII、およびタイプIII)と12のサブタイプに分けられる。駆使することにより遺伝子を編集できる。現在では他にも複数のゲノム編集技術が開発されている。
経緯
CRISPR配列は1987年に石野良純によって大腸菌のゲノム上に発見され[1][2][3]、1989年以降、フランシスコ・モヒカによって、この配列が微生物の免疫機能と結びついていることが解明され、「CRISPR」と命名された。また、2000年代にフランス出身でデンマークの微生物学者ロドルフ・バラングー(Rodolphe Barrangou)によりCas9酵素の機能が発見された。
この研究を基礎として、2012年にゲノム編集技術がジェニファー・ダウドナとエマニュエル・シャルパンティエの2人によって開発され、この業績に対して2020年ノーベル化学賞が授与される。
脚注
- ^ “【ノーベル賞解説】「クリスパー・キャス9」って何?新型コロナにも有効?”. ニュースイッチ. (2020年10月9日) 2020年10月28日閲覧。
- ^ “ゲノム編集「原点」に日本人「無駄ではなかった」”. 産経ニュース (産経新聞社). (2020年10月7日) 2020年10月28日閲覧。
- ^ “ゲノム編集の女性2氏にノーベル化学賞 難病治療などへの応用に道”. 産経新聞 (産経新聞社). (2020年10月7日) 2020年10月28日閲覧。
参考文献
- Ran, F. Ann, et al. "Genome engineering using the CRISPR-Cas9 system." Nature protocols 8.11 (2013): 2281-2308.
- Doudna, Jennifer A., and Emmanuelle Charpentier. "The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9." Science 346.6213 (2014).
- Hsu, Patrick D., Eric S. Lander, and Feng Zhang. "Development and applications of CRISPR-Cas9 for genome engineering." Cell 157.6 (2014): 1262-1278.
- Kleinstiver, Benjamin P., et al. "Engineered CRISPR-Cas9 nucleases with altered PAM specificities." Nature 523.7561 (2015): 481-485.
- 山本 卓(協力)「ねらった遺伝子を書きかえる「ゲノム編集」とは?」『Newton』、株式会社ニュートンプレス、2015年7月、124-131頁、ISSN 02860651。
- Jiang, Fuguo, and Jennifer A. Doudna. "CRISPR–Cas9 structures and mechanisms." Annual review of biophysics 46 (2017): 505-529.
関連項目
- CRISPR - 原核生物で発見された免疫機構としてのクリスパーについて。
- ジンクフィンガーヌクレアーゼ
- 遺伝子治療
- 遺伝子工学
- 遺伝子ターゲティング
- 生物の多様性に関する条約
- アシロマ会議
- 遺伝子ドライブ
外部リンク
CRISPR-Cas9
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 03:55 UTC 版)
「エマニュエル・シャルパンティエ」の記事における「CRISPR-Cas9」の解説
シャルパンティエは、「CRISPR-Cas9」と呼ばれる細菌性免疫システムの分子メカニズムを解読し、それをゲノム編集用のツールに転用するというノーベル賞を受賞した研究で最もよく知られている。特に、彼女はCRISPR-Cas9の機能において極めて重要な非コードRNAの成熟のための新しいメカニズムを発見した。具体的には、tracrRNA(英語版)と呼ばれる低分子RNAがcrRNA(英語版)の成熟に不可欠であることを示した。 ウイーン大学でRNA分子の調整機能を研究していたシャルパンティエはCRISPRに関心を持ち、2009年に「化膿連鎖球菌のゲノム内のCas9という酵素タンパク質と2つのRNA酵素がこの細菌の免疫システムで重要な役割を果たしている」という仮説を立てた。そして2011年、微生物に関する国際会議が開かれたプエルトリコのカフェで、ジェニファー・ダウドナに研究仲間を介して偶然出会った。石畳の旧市街を散策しながらゲノム編集の話をしているうちに、シャルパンティエが共同研究を提案したことで研究が開始された。 シャルパンティエの研究室は、Cas9を使用して任意のDNA配列を切断できることを示した。彼女達が開発した方法は、Cas9と簡単に作成できる合成「ガイドRNA」分子の組み合わせを含んでいた。合成ガイドRNAがcrRNAとtracrRNAのキメラであるがゆえに、この発見はCRISPR-Cas9テクノロジーを使用してゲノム編集を比較的容易にできることを示した。現在では世界中の研究者がこの方法を利用し、植物、動物、細胞株のDNA配列を編集している。CRISPRは、科学者が遺伝子を編集して健康や病気におけるそれら役割を探り、第一世代の遺伝子治療よりも安全で効果的であることが証明されることを期待して遺伝子治療を開発することを可能にすることで、遺伝学に革命をもたらした。 2013年、Shaun FoyおよびRodger Novakとともに、ベンチャー企業CRISPR TherapeuticsおよびERS Genomicsを共同設立した。
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