CRISPR/Cas9について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 22:06 UTC 版)
「ゲノム編集」の記事における「CRISPR/Cas9について」の解説
原核生物において発見された獲得免疫機構をCRISPR/Casシステムという。このシステムのうち、Cas9と呼ばれるヌクレアーゼと、標的となるDNA配列へ導くガイドRNAとを複合化し、これをDNAの改変に応用した技術をCRISPR/Cas9という。 ZNF、TALENが各々一つのタンパク質であるのに対して、CRISPR/Cas9では、ガイドRNAとCas9という2つの別々の分子で構成されるのが特徴的である。DNAの標的部位と相補的な配列をガイドRNAに用意するので、ガイドRNAは標的部位に特異的に結合できる。そうするとガイドRNAとDNAを覆うようにCas9タンパク質が結合して、DNAを切断する。Cas9自体は使い回しができて、狙いに応じてガイドRNAだけを作成すれば済む。 CRISPR/Cas9は、他のヌクレアーゼの中で部位特異性の低さと、それによるオフターゲットが課題である。オフターゲットの多寡は、DNA修復の機構が非相同末端結合 (NHEJ) か、相同組換え修復 (Homology Directed Repair: HDR) であるかによっても異なる。HDRの方がNHEJよりもオフターゲットとして安全だが、手間がかかるうえ、互いに使用条件が限られる。それを克服するために、ニッカーゼ改変型Casを用いて、標的ごとに2種類のガイドRNAを与えるという手法が開発された。また、NHEJとHDRの競合改善の手段として、NHEJの抑制剤となるSCR7が、HDRの促進剤としてL755,507があり、逆のNHEJの促進剤としてはAzidothymidine (AZT) が挙げられる。 ゲノム編集の対象とする核内のDNAにアクセスするために、Cas9とガイドRNAを細胞内、更に核内へと導入しなければならない。そのための導入媒体、つまりベクターとしてプラスミドやウイルスが使用される。プラスミドや、ベクターを介さず直接的にタンパク質の形で導入する方法としては、エレクトロポレーション法がある。2015年現在の技術水準では、どの導入手段が効率が高いかは一概には言えないことが多く、実験的に確認することが多い。また、プラスミドについては、非営利のリポジトリが存在する。 ガイドRNAの設計ツール、またライブラリーと呼ばれる製品が各社から販売されている。国内では、ライフサイエンス統合データベースセンター (DBCLS) がCRISPRdirectというガイドRNAの設計ツールを提供している。 正しく配列が導入され、余分な挿入や欠失がないことを確認するためのプロトコルが提案され、また、検証用の製品が販売されている。
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