1968年の2つの論文
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 16:45 UTC 版)
「膜電位感受性色素」の記事における「1968年の2つの論文」の解説
Schmittらの実験から28年経った1968年になって、光学的測定にとって新しい時代の幕開けともなった重要な2つの論文が発表された。1つは Cohen, Keynes, Hille (1968)による論文、もう1つは TasakiとWatanabeら (1968) の論文である。 Cohen LB, Keynes RD, Hille B : Light scattering and birefringence changes during nerve activity. Nature 218 : 438-441, 1968 Tasaki I, Watanabe A, Sandlin R, et al : Changes in fluorescence, turbidity, and bireflingence associated with nerve excitation. Proc Natl Acad Sci. 61 : 883-888, 1968 ・Cohenらはカニの歩行脚神経とヤリイカ (Loligo forbesi) 巨大神経線維で、単一の活動電位に伴う光散乱 (light scattering) および複屈折 (birefringence) の変化を記録することに初めて成功した。その変化は、Schmittらが予想したように非常に小さく背景光に対して10-6~10-5 のオーダーで、CAT (computer of average transcient) を用いて25~200回の掃引を加算することによって記録された。・一方、TasakiとWatanabeらもまた、ヤリイカ (Loligo pealei) の巨大神経線維で、活動電位に伴う複屈折変化と神経線維に吸着させたANS (8-anilinonaphthalene-1-sulfonate) の螢光変化を記録した。この2論文が現在のニューロン活動の光学的測定の発火点ともなった。ところで、これら2つの研究は、当初、HodgkinとHuxley (1952) による神経興奮についてのナトリウム説とその現象論的定式化の後をうけて、神経興奮の膜分子レベルでのメカニズムを探る目的で始められたものであった。実際、Tasakiらが用いたANSは、それまでにWeberとLaurence (1954) により、蛋白質の高次構造変化の研究に導入された疎水性プローブである。したがって、得られた光学的シグナルは、興奮に直接関係した膜分子のconformationalな変化を反映したものであることが期待され、その面から興味をもたれたのである。特に、日本ではこの傾向が強く支配した(例えば、Tasaki, 1970 ; Kobatake, et al, 1971)。しかしながら、Cohenらは、その論文の中で、「膜電位固定の実験で複屈折変化の時間経過が膜電位変化と同じであり、電流の時間経過とは対応性が見いだされない」ことを示し、「複屈折変化が、ほとんど膜電位変化に依存したものである」ことを指摘している。ここには、すでに「膜電位の光学的測定」の伏腺が見え隠れしている。なお、Cohenら (1969) はシビレエイの発電器官のシナプス前線維を電気刺激して、発電器官の90°方向の光散乱に2相性の変化が現れることを見いだし、これはシナプス伝達を反映した光学的変化であることを示唆している。シナプス機能の光学的測定のはしりである。
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