12平均律のグランドピアノへのアプローチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/04 17:07 UTC 版)
「ホラチウ・ラドゥレスク」の記事における「12平均律のグランドピアノへのアプローチ」の解説
ラドゥレスクの行ってきた実験は管楽器や弦楽器には適しているが、ピアノなどの鍵盤楽器には適用が難しかった。だが、「クリステ・エレイゾン 作品69」などのオルガン曲での試行を経ている過程で、生涯の片腕となるオルトウィン・シュトゥーマーと出会った。彼の音色を最深まで聞き届ける演奏に感激したラドゥレスクは1990年代に微視的一辺倒であった創作を転向して、はるかに平易なイディオムの積み重ねによる3曲のピアノソナタを「老子ソナタ」として完成させた。 ここでのラドゥレスクについては「ついに彼も調性の軍門に下った」という厳しい評価もなされているが、美学上は以前の作品となんら変わりはなく5拍子の連続、延々と連打される低音、複雑な共鳴構成などは依然健在である。ラドゥレスクもラ・モンテ・ヤングと同じくスタインウェイを嫌い、可能な限りベーゼンドルファーを使用するように要求している。執拗な連打音はなにもラドゥレスクだけではなく、フランギス・ミロリオやコスチン・ミレアヌなどの東欧の作曲家と変わらないが、かつてのヴィオラ作品と同じようにフィボナッチ比のみで連打音を数え続ける芸風は維持していた。ルーマニアの民謡が採譜された旋律を生のままで使うという態度も初めて聞かれるようになったが、最初に提示した10-20くらいの民謡を細かくグループ化してクライマックスで同時に重ねるなどの緻密な操作からは、叙情や耽美はそれほど感じられない。この時期から題名に直に引用するほど東洋思想への傾倒が顕著となり、ビザンツからインド、そして中国へ興味の対象が移り変わるのを正しい歩みと信じて疑わなかった。 「ピアノ協奏曲 作品90」はラドゥレスクが最も影響を受けた作品と併演する形で、ドイツで初演された。アルノルト・シェーンベルクの「5つの管弦楽曲」、敬愛したオリヴィエ・メシアンの「クロノクロミー」で前半をしめ、後半に自作のピアノ協奏曲をソリストにシュトゥーマーを配して聞かせた。これは音色とリズムを追求した彼の自叙伝のようなコンサート構成となった。ピアノパートはテクニック的には平易で名人芸が与えられておらず、もっぱら音色と和音を聞かせることに終始する。この作品もルーマニアの民謡をそのまま随所で用いているために聴覚的には解りやすい。しかし、第3楽章でPPPでファゴットがポリテンポを聞かせたり、ピアノソロの単音の上に聞きなれない弦楽器の倍音が霧のように浮かび上がる様は、ラドゥレスクのこれまでの創作姿勢そのものである。楽器法は常にフィボナッチ比で統括されるためにTUTTIは第4楽章の1回しかない。L.V.(音を響かせたまま)という指示が次のセクションの音響と絶妙に交じり合うのも確実に擬似基音上の部分音が計算された上で用いている。 なお、ピアノソナタとピアノ協奏曲は、全曲の録音がNEOSからリリース及び再リリースされている。
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