鱗木とは? わかりやすく解説

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うろこ‐ぎ【×鱗木】

読み方:うろこぎ

りんぼく(鱗木)


りん‐ぼく【×鱗木】


リンボク (化石植物)

(鱗木 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/24 08:58 UTC 版)

リンボク
生息年代: Early Carboniferous–後期ペルム紀
Є
O
S
D
C
P
T
J
K
Pg
N
リンボク化石の幹の表面に残された葉痕
リンボクの復元画
地質時代
後期デボン紀 - 石炭紀(359.2 ± 2.5 Ma から299.0 ± 0.8 Ma)
分類DiMichele & Bateman 1996
: 植物界 Plantae
: 維管束植物門 Tracheophyta
亜門 : 小葉植物亜門
: ヒカゲノカズラ綱 Lycopodiopsida
階級なし : 有舌類 Ligulatae
: ミズニラ目 Isoëtales
(リンボク目 Lepidodendrales)
亜目 : Dichostrobiles
上科 : Monomegasporae
: リンボク科 Lepidodendraceae
: リンボク属 Lepidodendron
学名
Lepidodendron Sternb. (1920)
シノニム
和名
鱗木

リンボク鱗木[2]レピドデンドロン[3]学名Lepidodendron)は、石炭紀に栄えた、化石としてのみ知られる一群の木本小葉植物の一である[2]ミズニラ類に類縁のある小葉植物と考えられている[2][4]。現生のバラ科樹木にリンボク(橉木)があるが、無関係である。

名称

本属はカシュパル・マリア・シュテルンベルクによって記載された[5][1]。学名の Lepidodendron は、ギリシア語λεπίς (lepis)(属格 λεπίδος (lepidos)) 「鱗」+ δένδρον (dendron)「木」の合成語である[6]。和名の「鱗木」とともに茎の表面に葉の脱落跡が鱗状に残されることに由来する[2][6]。鱗木は「ウロコギ」と読まれることもある[6]

地下部に発達する器官であるリゾモルフはスティグマリア Stigmaria Brogn.胞子嚢穂はレピドストローブス Lepidostrobus Brogn.、小葉は Lepidophylloides Snigir. という形態属として知られる[5]#形態も参照)。

形態

葉をつけたシュート
葉痕のスケッチ
葉枕とパリクノス

維管束植物の基本器官であるに加え、担根体(リゾモルフ、rhizomorph)と呼ばれる器官を形成した[2][7]。高さ 30–35 mメートル以上、基部での直径は少なくとも1–2 m に達するものが多く見つかっている[8]。大きな個体では樹高は 40 m、幹は直径 2 m に達した[2][5]。これは胚発生時に茎頂分裂組織が二又分枝し、地上方向に地上茎、地下方向にリゾモルフを伸長することで形成された[7]

中心柱

茎およびリゾモルフは、原生中心柱または管状中心柱を持つ[2][注釈 1]。リゾモルフは内原型の環状中心柱であるのに対し、地上部の維管束は外原型の環状中心柱であり、原生木部後生木部の位置が逆転している[10]維管束形成層は単面性で、維管束組織は一次維管束組織と二次木部からなり、二次篩部は形成されなかった[11][2]。篩部は紡錘形始原細胞の巨大化により、容積を大きくしていた[11]。二次木部を持つため真の木本植物(樹木)であるが[4]、現生の種子植物とは異なり、二次木部は数センチメートル(cm)の厚さに過ぎず、コルク形成層から形成された厚い周皮によって茎が肥大していた[2]。周皮は葉の基部付近の皮層外層に付加され、コルク形成層の内側にはコルク組織、外側には皮層が作られた[11]。周皮の発達により、茎の表面に残る葉枕や葉痕は徐々に見えなくなっていった[11]

シュート系

直立する幹は 10–20 m 程度は分枝せず、その上に同等二又分枝または不等二又分枝する傘状のシュート系をもっていた[8]。枝には、螺旋状に配列した線形や、先端が鋭尖形の葉がついていた[8]。ある種では、幹の上部は二つのシュート系に分かれ、それぞれが二又分枝をして成長した[8]。形態空間のシミュレーションの結果、リンボクの立ち姿は、力学的安定度と繁殖成功率とを最大にするような組み合わせの形態であると考えられている[12]

葉は草状で、長さ数 cm から 78 cm に伸びていた[8]。現生のイワヒバ科ミズニラ科と同じように、向軸側には小舌(しょうぜつ、ligule)という器官を形成した[13][9]

葉の基部には、葉枕(ようちん、leaf cushion)と呼ばれる肥厚部を形成した[14][15]。葉枕を茎上に残して葉が脱落し、茎に鱗状に配列したまま化石化している[14][8]。そのため、葉序が明らかとなっている[14]。葉枕は小葉の脱落後、基部が隆起して形成されると考えられている[15]。また葉枕の形や相互の位置と、葉痕の表面の様子はリンボク類の種を区別する分類の標徴形質となっており[14][8]、リンボクの葉枕の横断面は菱形や卵形となる[14]。リンボク類の葉痕には1本の維管束痕(葉跡)があり、その側方にパリクノス(parichnos、通気孔)と呼ばれる対になった小さな痕跡が見られる[8][15]。パリクノスは茎の皮層から葉身に伸びており、ゆるやかに結合した柔細胞によって構成されている[8]。これは通気組織としての働きを持っていたと考えられている[8]

リゾモルフ

ヴィクトリア・パーク英語版グラスゴー)の化石の森英語版で見られるリンボクのリゾモルフ
表面に多数の脱落痕を備えたスティグマリア Stigmaria と、そこから下に伸びる細根の化石

植物体の基部にはリゾモルフrhizomorph担根体[注釈 2])があった[8][16]。これはスティグマリア Stigmaria とよばれる器官属で知られる[18][16][19][11]

リゾモルフは二又分枝し、根を側生する軸状の器官である[2][20][19][7]。二又分枝を行う基部で同時に4個分枝し、それが更に二又分枝を繰り返しながら横走する例も知られる[19]。大きなものでは、太さ 30 cm 程度にまで成長した[7]。リゾモルフには葉は付けず、空隙を持つ[7]

リゾモルフの表面には細根(さいこん、rootlet)が螺旋状に形成される[7][21]。かつては、細根は根毛を持たず分枝しないと考えられ、根ではなく葉に相同だとする説もあったが[5][12]。根毛を持ち、現生のミズニラ属の根のように同等二又分枝を繰り返して細くなっていくことが分かり、真の根であるとされる[12][22]。多くは基部から脱落し、スティグマリア表面にはその脱落痕(rootlet scar)が見られる[21][16][19][11][22]

胞子嚢穂

レピドストローブス・バリアビリス Lepidostrobus variabilis の化石
ヒカゲノカズラの胞子嚢穂(左)とレピドストローブス(右)の比較

胞子嚢穂は普通レピドストローブス Lepidostrobus と呼ばれる器官属として知られている[23][21]。リンボク類の胞子嚢穂は、同一の胞子嚢穂に大胞子嚢と小胞子嚢をもつ両性胞子嚢性であることも、大胞子嚢穂と小胞子嚢穂が独立した単性胞子嚢性であることもあった[21][23]。胞子嚢穂は大型で、長さは 8–20 cm、時に 35 cm になることもあった[21]。胞子嚢穂は小舌を持つ胞子葉が重なりあい、螺旋状に配列する構造であった[21]。両性胞子嚢性の胞子嚢穂では、上部に多くの小胞子を含む小胞子嚢が生じ、下部に少数の大胞子を含む大胞子嚢が存在した[21]。胞子嚢は胞子葉の向軸側に1個存在し、これは現生のヒカゲノカズラ科イワヒバ科と同様である[21]。胞子は胞子嚢からこぼれ、イワヒバ属やミズニラ属によく似た発達をする内生胞子性の配偶体を生じた[21]

生態

近縁な群も含め、石炭紀の森林の主体をなした植物である[6][8]。これは同じリンボク類のフウインボク Sigillariaや、トクサ類ロボク Calamites とともに[4][24]、この時代の化石としてよく知られている[8]イギリスアメリカ合衆国中央部の石炭床には、保存状態のよい幹の化石が普通に見られる[8]。巨大な種は当時の低緯度地域に生息していた[25]。欧米では後期石炭紀中期(約3億700万年前)に最盛期を迎え、リンボク類は石炭バイオマスの70%を占めるようになった[25]。しかし、以降は急速に衰退し、石炭期末の陸上湿地では5%を下回るようになった[25]

系統関係

フウインボク Sigillaria やボスロデンドロン Bothrodendron などのリゾモルフを持つ化石小葉類とともにリンボク類とされる[5]。この一群はリンボク目 Lepidodendrales と目の階級に置かれていたが、DiMichele & Bateman (1996) によって整理され、ミズニラ目 Isoëtales に内包された[26]。ただし、現在でもリンボク目として扱われることも多い[27]

DiMichele & Bateman (1996) の115形質に基づくミズニラ目化石の系統解析から、下記のような系統樹が得られている[28]

ミズニラ目

パウロデンドロン Paurodendron

Oxroadia

Paralycopodites

Chaloneria

フウインボク Sigillaria

Synchysidendron

ディアフォロデンドロン Diaphorodendron

Hizemodendron

リンボク Lepidodendron

レピドフロイオス Lepidophloios

Isoëtales

上位分類

DiMichele & Bateman (1996) による、ミズニラ目の分類体系は次の通りである[29]絶滅した分類群には†を付す。

リンボク属はリンボク科に分類され、この分類群は大胞子嚢が左右に扁平となり、遠位で裂開することにより特徴づけられる[31]。また[31]大胞子葉は翼を持ち、やや直立から直立する[31]。リンボク科は、ディアフォロデンドロンなどを含む Diaphorodendraceae 科とともに、Monomegasporae 上科に分類される[31]。この上科は、1個の大胞子嚢あたり単一の機能的な大胞子を持ち、胞子嚢内で発芽する[31]。ディアフォロデンドロン属は、かつてはリンボク属に分類されていた[4]

有効名とされるは、次の通りである[1]

人間との関わり

石炭紀に森林を作っていた植物化石は地層中に堆積し、石炭層を形成した[32]。石炭紀は世界各地で大規模な石炭層が形成されたために名づけられたものであり、ヨーロッパロシア中国北アメリカなどに大きな石炭層が発達している[32]。これは重要なエネルギー源として利用されている[32]。石炭層を挟む地層は夾炭層英語版coal measures、コール・メジャーズ)と呼ばれ、前後に海成の石灰岩を伴うことが多い[33]。夾炭層から見つかるリンボク化石は圧力のため扁平になり、印象化石として産出することが多い[34]

京都大学理学部の標本室に保管されている大型のリンボク標本は、福岡県鞍手郡古月村(現、鞍手町)の古墳から出土したものとされる[6]。リンボク属は日本には産出しないため、これは古墳時代に中国大陸の山東省博山付近から産出したものが船で運搬され、北九州の豪族の手に渡ったものであると考えられている[6]。日本では大陸起源の植物化石を含む海成層が上部デボン系から見つかり、北上山地岩手県釜石市など[35])から熊本県まで点在している[25]。この地層からは、リンボク類であるレプトフロエウム・ロンビクム Leptophloeum rhombicum の化石が産出しており、日本最古の大型植物化石とされる[25]

脚注

注釈

  1. ^ 基本は外原型の原生中心柱であったが、大型になると髄の発達により環状となった[9]
  2. ^ 「担根体」と呼ばれる小葉類の器官には、イワヒバ科のリゾフォア (rhizophore) とミズニラ類・リンボク類のリゾモルフが含まれる[16]。この器官の相同性は議論されているが、未だ明らかでない[17]

出典

  1. ^ a b c Lepidodendron”. mindat. 2025年9月10日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j 巌佐ほか 2013, p. 1479f.
  3. ^ ベントン 2011, p. 145.
  4. ^ a b c d e 西田 1997, p. 96.
  5. ^ a b c d e 岩槻 1975, p. 169.
  6. ^ a b c d e f 益富 1966, p. 57.
  7. ^ a b c d e f 長谷部 2020, p. 139.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n ギフォード & フォスター 2002, p. 154.
  9. ^ a b 西田 2017, p. 140.
  10. ^ 長谷部 2020, p. 140.
  11. ^ a b c d e f 西田 2017, p. 141.
  12. ^ a b c 西田 2017, p. 142.
  13. ^ 長谷部 2020, pp. 124–142.
  14. ^ a b c d e 巌佐ほか 2013, p. 1426b.
  15. ^ a b c 西田 2017, p. 139.
  16. ^ a b c d 加藤 1999, p. 77.
  17. ^ 加藤 1999, p. 81.
  18. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 158.
  19. ^ a b c d 熊沢 1979, p. 166.
  20. ^ a b 加藤 1999, p. 78.
  21. ^ a b c d e f g h i ギフォード & フォスター 2002, p. 159.
  22. ^ a b Hetherington et al. 2016, pp. 6695–6700.
  23. ^ a b c 西田 2017, p. 144.
  24. ^ 益富 1966, p. 60.
  25. ^ a b c d e 西田 2017, p. 143.
  26. ^ DiMichele & Bateman 1996, p. 545.
  27. ^ 巌佐ほか 2013, p. 1642.
  28. ^ DiMichele & Bateman 1996, p. 538.
  29. ^ DiMichele & Bateman 1996, pp. 545–546.
  30. ^ 加藤 1999, pp. 60–82.
  31. ^ a b c d e DiMichele & Bateman 1996, p. 546.
  32. ^ a b c 益富 1966, p. 55.
  33. ^ 益富 1966, p. 58.
  34. ^ 益富 1966, p. 59.
  35. ^ 岩手県立博物館だより No. 149” (2016年6月). 2025年9月10日閲覧。

参考文献

外部リンク


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