遺伝子多型と人体への影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/20 17:10 UTC 版)
「ALDH2」の記事における「遺伝子多型と人体への影響」の解説
「モンゴロイド#下戸遺伝子」も参照 ALDH2遺伝子の一塩基多型はこれまでに多数報告されているが、このうちヒト集団において一定頻度報告されており、かつ顕著な表現系の変化が見られるものは「rs671」と呼ばれる多型である。rs671変異はエクソン12にある42,421番目のグアニンがアデニンに置換されたものを指しており、これによって成熟ALDH2タンパク質の487番目のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)からリジン(Lys)に置き換わっている。一般的に、この変異型アリルはALDH2*2、野生型アリルはALDH2*1と呼ばれる。 上記の通り、Glu487は同じタンパク質内のArg264、およびパートナー単量体のArg475と水素結合する。ALDH2*2型アリルに由来する変異型ALDH2*2タンパク質では、このグルタミン酸がリジンに置き換わることによって、二量体の形成および単量体の立体構造の形成が阻害される。それによって、NAD+結合部位が失われ、活性中心のシステインの求核性を障害することで酵素活性が失われる。また、NAD+が必要な脱水素反応だけでなく、それ以外の酵素活性も低下する。さらにはタンパク質の安定性も阻害され、四量体のうち1つ以上Glu487Lys変異型タンパク質が含まれている場合、半減期が50%程度短縮されることも報告されている。それ故ALDH2*2はALDH2*1に対して優性であり、この2つのアリルをヘテロで保有している場合(ALDH2*1/*2)のALDH2活性は20%以下であり、ALDH2*2をホモで保有する場合(ALDH2*2/*2)は0%に近い。その結果、さほど多くない量のエタノールを摂取した場合、ALDH2*2を保有していない場合は肝臓内で速やかにアセトアルデヒドが酢酸に分解されるが、ALDH2*2保有者の場合は肝臓中にアセトアルデヒドが蓄積する。アセトアルデヒドは非常に拡散性が高く、生体膜を通過するため、血流に乗って全身へ広がっていく。これによってALDH2*2保有者はアルコール飲料を摂取後、特徴的な顔面の紅潮、吐き気、目まいや動悸などのフラッシング反応(英語版)を呈す。 ALDH2*2は2.5万から3万年ほど前の中国南東部に由来すると考えられており、モンゴロイド以外の人種では極めて稀にしか見られないが、モンゴロイドでは保有率が高く、中国、日本、朝鮮、モンゴル、インドシナ半島で多い。 地域別ALDH2遺伝子型(%)地域ALDH2*1/*1ALDH2*1/*2ALDH2*2/*2アフリカ99.7 0.3 0 南北アメリカ99.4 0.6 0 東アジア69.2 26.8 4 ヨーロッパ100 0 0 南アジア100 0 0 全世界93.7 5.6 0.8 東アジア地域別ALDH2遺伝子型(%)地域国民族ALDH2*1/*1ALDH2*1/*2ALDH2*2/*2シーサンパンナ・タイ族自治州中国タイ族91.4 8.6 0 北京中国漢民族71.8 24.3 3.9 中国南方中国漢民族54.3 37.1 8.6 東京日本日本人56.7 38.5 4.8 ホーチミンベトナムキン族74.7 23.2 2
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