遡上と産卵
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/07 07:38 UTC 版)
シロザケを始めとする多くの種の降海個体は成熟してから川を上って産卵するまで絶食状態にあり、筋肉のタンパク質を分解してエネルギーを得ている。この時期のサケの体内では糖新生を促進するホルモンであるコルチゾルを盛んに分泌して、タンパク質や脂肪からエネルギー源になるグリコーゲンをつくっている。そのためシロザケやベニザケなど大半の種は産卵に残りの全エネルギーを使い果たして息絶えてしまう。ただし、同じサケ科でも大西洋サケ属のタイセイヨウサケ S.salar や、外来魚のブラウントラウトなどは何回も川登りと海降りを繰り返せる。同様にシロマス属では、ホワイトフィッシュ(釣り対象として有名)、シスコ(Cisco 北米原産)、シナノユキマス(北欧原産だが、日本導入時に独自命名)。イワナ属では、アメマス。イトウ属のイトウも、複数回の降海・遡上を行う例である。タイヘイヨウサケ属でも、ニジマスの降海型のスチールヘッド(テツ)にこうした生態が知られている。 サケ科サケ属 : 河川と海洋間を1回行き来し、短命で産卵後はほぼ100%死亡、遡上後はエサを食わないと考えられている。 サケ科イワナ属 : 河川と海洋を複数回往来し、産卵後も生存、長命、遡上後も餌を食う。 サケ科イトウ属 : 河川と海洋を複数回往来し、産卵後も生存、長命、遡上後も餌を食う。 サケ科タイセイヨウサケ属 : 河川と海洋を複数回往来し、産卵後も生存、長命、遡上後も餌を食う。 鮭児(ケイジ)やトキシラズとして知られる個体は、性的に未成熟であるにもかかわらず間違って遡上をしてしまった個体とされている。産卵床を形成する場所も種によって異なり、流れが弱い場所で湧水性を求めるものと、流れが速い場所で水通しを求めるものがある。 川に上る途中のサケや、産卵後の息絶えた魚体は、熊や狐など野生動物が冬を越すための貴重な栄養源となる。また川や湖、周囲の森に栄養分をもたらし、最終的には孵化後の稚魚が育つ助けとなる。このようにサケの定期的な遡上と死は、川周辺の生態系と一体化し、そのサイクルが成り立つための前提となっており、親個体の死は無駄になるわけではない(人間も、一部地方では死骸を肥料として利用することがあった。年によっては産卵後の死骸が多すぎて異臭を放ち、川浚いする必要があるためである)。 一部の河川では、ダム建設や近代の工業汚染によりサケが遡上しなくなったことから「カムバック・サーモン」キャンペーンが展開されたことがあった(豊平川などが有名)。
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