解放思想
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 02:33 UTC 版)
啓蒙思想の理性主義は人種問題や人間の未開状態に対する問題といったような差別的な問題を育んだ一方、平等主義的な解放思想を生んだ。 レッシングは戯曲『賢者ナータン』において、ユダヤ人のナータンを主人公としてその美徳を強調し、偏見からの脱却を説いた。レッシングと親交のあったユダヤ人の哲学者メンデルスゾーンはユダヤ教とキリスト教の信仰の違いが人間的価値に差異をもたらすものではないとしてユダヤ人の法的解放を訴える一方、閉鎖的なユダヤ教の側にも改革の必要性を感じ、ユダヤ教内部での啓蒙活動である「ハスカラー」を展開した。 フランス革命においては1791年、ユダヤ人に即時無条件で市民権が認められ、その法的解放がおこなわれた。しかし、のちにナポレオンによりユダヤ人の権利は制限されている。 このことに関連して宗教あるいは道徳における解放思想としてはヴォルフの演説「シナ人の実践的哲学について」をあげることができる。当時の中国人の道徳を理性主義的な立場から十分倫理的価値が認められるものとし、キリスト教思想なくしても倫理思想を成立させることは可能だとした。この講演は当時の敬虔的な神学者から激しく非難され、彼はハレ大学の教職を辞さねばならなかった。 しかし同じく啓蒙主義に立脚するカントの『単なる理性の限界内の宗教』においてはやや異なった見解が述べられている。彼は内面的な「見えざる教会」こそが真に道徳的価値のある宗教であり、外面的な律法を重視するユダヤ教は「見える教会」であるとして道徳的価値において劣っているとした。彼においては啓蒙主義的な道徳はキリスト教的な道徳と同質なものであった。 イギリスのウィルストンクラフトは『女性の権利の擁護』を著した。彼女はこの著作の中で教育制度の改革によって女性の地位向上が図られるべきだと述べた。フランスの劇作家グージュはフランス人権宣言が男性の権利のみを擁護したにすぎないとして批判した。 黒人奴隷の問題も啓蒙思想の批判に晒された。ウィルストンクラフトやグージュは黒人奴隷と女性問題を関連のあるものとして扱っているし、ヨーロッパやアメリカでも反奴隷制協会といったような組織がつくられた。とはいえ、黒人奴隷問題や女性解放運動は啓蒙思想において主流を占めることはなかった。
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