複製と生活環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 13:27 UTC 版)
「ポリオーマウイルス科」の記事における「複製と生活環」の解説
ポリオーマウイルスの生活環は、宿主細胞へ進入することで開始される。ポリオーマウイルスの細胞受容体は糖鎖、一般的にはガングリオシドのシアル酸残基である。ポリオーマウイルスの宿主細胞への接着は、細胞表面のシアル化糖鎖へのVP1の結合によって媒介される。一部のウイルスには他の細胞表面との相互作用が存在し、一例としてJCウイルスは5-HT2A受容体(英語版)との相互作用が、メルケル細胞ウイルスはヘパラン硫酸(英語版)との相互作用が必要であると考えられている。しかしながら、一般的にウイルス-細胞間の相互作用は細胞表面に広く存在する分子によって媒介されており、そのため個々のウイルスで観察されるトロピズムに寄与する主要な因子ではないと考えられている。細胞表面の分子への結合後、ビリオンはエンドサイトーシスされて小胞体へ移行し(これは既知の非エンベロープ型ウイルスの中では独特な挙動である)、そこで宿主細胞のジスルフィドイソメラーゼの作用によってウイルスのカプシド構造は破壊される。 核への移行の詳細は明らかではなく、個々のポリオーマウイルスによって異なる可能性がある。完全だが歪んだ形のビリオン粒子が小胞体から細胞質へ放出されることが多く報告されており、そこでゲノムはカプシドから遊離するが、細胞質のカルシウム濃度が低さがおそらくその契機となっている。ウイルス遺伝子の発現とウイルスゲノムの複製はどちらも核内で宿主細胞の装置を用いて行われる。最初に発現する前期遺伝子には少なくともスモールT抗原(ST)とラージT抗原(LT)が含まれ、1種類のmRNA鎖から選択的スプライシングによって発現する。これらのタンパク質は宿主の細胞周期を操作する機能を果たし、G1期からS期への移行の調節の異常を引き起こす。S期は宿主細胞のゲノムが複製される段階であり、ウイルスゲノムの複製には宿主細胞のDNA複製装置が必要である。この調節異常の機構の詳細はウイルスによって異なり、例えばSV40のLTは宿主細胞のp53に直接結合するが、マウスポリオーマウイルスのLTは結合しない。LTはウイルスゲノムの非コード制御領域(non-coding control region, NCCR)からのDNA複製を誘導する。その後、前期mRNAの発現は低下し、ウイルスカプシドタンパク質をコードする後期mRNAの発現が開始される。こうした相互作用が開始されると、メルケル細胞ポリオーマウイルスなどいくつかのポリオーマウイルスのLTは発がん性を示すようになる。前期遺伝子から後期遺伝子への発現の移行を調節する機構としては、前期プロモーターの抑制へのLTの関与、前期mRNAに相補的な配列を持つ非終結型後期mRNAの発現、調節性miRNAの発現など、いくつかの機構が記載されている。後期遺伝子の発現は、宿主細胞の細胞質へのウイルスカプシドの蓄積を引き起こす。カプシドの構成要素は新たに合成されたウイルスゲノムDNAを内包するために核へ移行する。新たなビリオンはvirus factory(「ウイルス工場」)で組み立てられている可能性がある。宿主細胞からのウイルスの放出機構はウイルスによって異なり、一部のウイルスはアグノプロテインやVP4といった、細胞からの脱出を促進するタンパク質を発現する。一部のケースではカプシド化されたウイルスが高レベルに蓄積することで細胞の溶解が引き起こされ、ビリオンが放出される。
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