草の根は本物か?
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 14:26 UTC 版)
「ティーパーティー運動」の記事における「草の根は本物か?」の解説
2009年4月12日付けのニューヨーク・タイムズ紙において、ノーベル経済学賞の受賞歴のある著名なリベラル派の論評コラムニストのポール・クルーグマンは、ティーパーティーは自然発生的な国民感情が発揮された結果ではないとの主張を展開した。彼によれば、ティーパーティー運動はいわば「人工芝運動(草の根を装った政治イベント)」であり、共和党の戦略を担当するいつもの面々によって創られたもので、その中心的役割を担っているのはフリーダムワークスという元下院院内総務のリチャード・アーミーによって運営されている組織であり、いつもの右派の億万長者たちによって経済的に援助されていると指摘。そして運動はFOXニュースによって大々的に宣伝されることで支えられているところが大きいとした。当時の民主党下院議長ナンシー・ペロシなどもこの説に同調し、「これは本物の草の根運動ではなく、富裕層への減税をやめて中間所得者への減税に振り分けようとする(民主党の政策)から目を反らすための”人工芝”」に過ぎないと述べた。 ただしこれには反論もあり、(リバタリアンのコメンテーターおよび著名なブロガー)グレン・レノルズは、翌4月13日付けのニューヨーク・ポスト紙において、草の根は天然芝(本物)であり、参加者はデモに慣れたセミプロの抗議者ではなく、仕事を持つ普通の人々、今まで抗議行動に参加したことがないような人々で、アメリカ政治に最近見かけなくなったエネルギーを吹き込む、新しい活動家であると指摘した。またティーパーティーの全国大会が、クルーグマンが指摘するような共和党保守派有力者がはっきり後援しているティーパーティー・パトリオッツという団体からのスポンサー契約を断ったことなどを受けて、ティーパーティーが必ずしも共和党に従属する存在ではないとも指摘。ワシントン・イグザミナー紙において、ティーパーティー運動は下から上への運動であり上から下へのものではない、自立自尊であると主張して、「アメリカ第三の覚醒」であるとまで言っている。 とはいえ、TPMのリポーターであるブライアン・ビュートラーの4月14日付けの補足記事にもあるように、少なくとも当初は演出された草の根であったと考える根拠がいくつかあった。また同じくTPMのザカリー・ロスは、多くのティーパーティー団体が共和党やフリーダムワークスに会計処理を任せて事実上資金提供を受けていると指摘した。フリーダムワークスについては、このティーパーティー運動以前にも、他の草の根運動をプロデュースしてきた実績があり、共和党のオペレーションが動いていることに疑いの余地はない。しかも今回は非常に効果を上げていたと言えるだろう。ティーパーティー・エクスプレスなどの大規模イベントも明らかに組織化された動員型の政治イベントであった。 しかし団体や参加者が全て組織化されているかといえばそうともいえず、過激なプラカードにも現れるように、雑多で無秩序な集団であるのも事実だ。運動が拡大する課程で、不満をもつアメリカ人(の特に白人)の琴線にふれるものがあったのだろう。運動自体には確かに制御不能の本物の勢いがあった。また参加者の78%は保守派の共和党員で、共和党に投票するが、その75%が共和党主流派と関係のないアウトサイダーの候補を支持すると表明していたことから、運動がこうも盛り上がった後では、後述のように共和党主流派はその対応に苦慮することになった。彼らの怒りの矛先は必ずしもオバマ政権や民主党に留まらず、共和党主流派にも向けられていて、しばしばロス・ペロー支持者のような予想の付かない投票行動をみせることがあり、共和党の戦略担当ヴィン・ウェーバーは、「この草の根運動は本物である。それが利用するのを難しくしている」と認めた。 ニューヨーク・タイムズ紙の別の著名な論評コラムニストのデイヴィッド・ブルックスは、ティーパーティー運動が景気の後退や、既成政治への不満、閉め出された不満分子の受け皿となったと背景を指摘した上で、「今後10年を特徴付ける政治運動となる可能性がある」と主張する。また彼は「ティーパーティーがいずれ共和党を支配するだろう」とも予想した。草の根運動が既成の二大政党制の枠組みを突き崩すのではないかという見解もあった。
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