自毛植毛
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 04:23 UTC 版)
自分自身の毛髪を脱毛箇所に移植する美容外科手術である。自分自身の組織を移植するため、免疫拒絶反応が起こらない安全性の高い手術である。また、本物の生きた毛髪であるため、日々成長し続け、抜けてもまた生えかわり、一度手術をした後はメンテナンスは不要である。 男性型脱毛症では、脱毛を起こすのは頭頂部と前頭部であり、後頭部の毛髪は生涯脱毛を起こすことは少ない。この毛根の性質は遺伝子的に決まっているものであるため、人体の他の場所に移植しても変わることがなく、毛を生やし続ける。このような皮膚の特性は奥田庄二医師が1939年に発見した。この性質を利用して、後頭部の毛髪を、毛根と周囲の皮膚ごと脱毛箇所に移植すると、移植した毛髪は生涯毛を生やし続ける。これが自毛移植手術である。 このような手術は米国では1970年代から広く実施されてきた。しかし初期の移植技術では、髪と皮膚の色の違いが大きい黄色人種に施術すると移植した毛が不自然に見えてしまったため、自毛移植手術の原理を発見したのが日本人であるにもかかわらず、日本ではほとんど実施されることがなかった。 しかし近年、移植元となる毛髪がある皮膚(ドナー)を毛髪2~3本ごとの小片(グラフト)に株分けして、禿げている箇所に分散配置するマイクログラフト法が開発された。この方法では、ドナーの皮膚で脱毛箇所を置き換えるというよりも、グラフトの毛髪を成長させて脱毛箇所を覆い隠すという考え方になる。さらに数千本の毛髪を一度の手術で移植するメガセッションが可能になったことで十分な密度を得ることができるようになり、黄色人種への施術ができるようになった。現在の医学では、自毛移植手術が脱毛症の最終的解決手段と考えられるが、以下のような問題点がある。 費用が高額 移植毛の株分けや、移植箇所への植え込みには、特別な訓練を積んだ医師と看護師のチームが必要であり、人件費からして高額にならざるを得ない。また、病気の治療ではないため健康保険は適用されず、全額自己負担の自由診療になる。しかし、一旦手術をすればそれ以降の出費は一切ないため、長期的に見るとかつらや増毛よりも割安であると言われている。 頭皮に傷がつく 移植元の頭皮はドナーを切除した後に縫合し、移植先の頭皮には器具で穴をあけてグラフトを挿入する。つまり刃物で頭皮を傷つけるので、ドナーを切除した箇所は線状痕に、グラフトを挿入した箇所は凸凹になる。手術技術が向上したため、見た目にもわかるほどの傷や凸凹ができることはなくなったが、触れば判る程度の凸凹ができることは避けられない。このため、頭垢がたまりやすくなる、スキンヘッドにはできなくなる、といった問題がある。 手術可能な毛髪量が限られる ドナーを切除した箇所は縫合するため、ドナーを取りすぎると頭皮が突っ張ってしまう。ドナーにできる毛髪量は体質によって異なるが、生涯で約1万2千本と言われている。 ショックロスが起こる可能性がある 植毛手術後に、もともと生えている毛が抜け落ちる場合がある。明確な原因は解明されていないが、術後の炎症反応や麻酔による副作用、人為的なミス、移植したことで髪全体に栄養が行き届かなくなったなど、さまざまな説がある。基本的にショックロスは一時的なものであり、早ければ3ヶ月、遅くとも1年ほどで元の状態に戻るケースがほとんどである。 全禿げ(丸禿げ)や、禿が非常に広い場合には適用できない なお、費用以外の問題は、幹細胞培養による毛髪のクローニングが実用化されれば解決されると言われている。 男性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)でも推奨度B(おこなうよう勧められる:少なくとも1つ以上の有効性を示す質の劣るレベルIIか良質のレベルIIIあるいは非常に良質のIVのエビデンスがあること)になっている。つまり、自毛植毛は勧められる薄毛治療であるが、技術の熟達した医師のもとで行うべきであるとしている。 自毛植毛をしてもフィナステリドやデュタステリドの内服を一生涯続ける必要がある。植毛で定着した毛は生涯AGAに侵される事は無い。しかし、前頭部から頭頂部にもともと生えている毛はフィナステリドやデュタステリドを内服しなければAGAの進行とともに弱毛化しやがて抜けて生えなくなる。植毛をして5α-リダクターゼ阻害薬を内服しなければ、将来植毛した毛だけが残っているという状態になりかねない。しかし、フィナステリドの内服等だけで薄毛を完全に治療する事は現時点では困難であり、どうしても自毛植毛に頼らざるを得ない事も確かである。内服薬、外用薬、注射、レーザーと自毛植毛を組み合わせて多角的に薄毛を治療するクリニックも出現している。
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