自ら売主制限
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/16 19:54 UTC 版)
売主が宅地建物取引業者で、買主が宅地建物取引業者でない者(業者間取引での除外規定は78条2項)の場合、買主の保護を図るために、売主たる宅地建物取引業者に対し、民法等の原則よりも厳しい制限を課している。仮に買主に不利な特約を結んで制限を排除しようとしても、その特約は無効となる。以下の8項目を総称して「8種制限」ともいう。 自己の所有に属しない物件の売買契約締結制限(33条の2) 「自己の所有に属しない」とは、具体的には「他人物」(民法560条)と「未完成物件」である。原則として宅建業者は自ら売主としてこれらの売買契約を締結してはならない。以下の場合は例外として契約を締結できる。 「他人物」の場合、宅建業者がその物件を確実に取得できる契約を締結している場合(予約を含むが、効力の発生が停止条件に係るものは除く) 「未完成物件」の場合、宅建業者が手付金等の保全措置を講じた場合(保全措置が不要の場合は未完成物件でも契約できる) 申し込みの撤回(クーリングオフ)(37条の2) 買主は、売主たる宅建業者に対し申し込みの撤回(クーリングオフ)ができる旨及びその方法を書面で告げられた日から8日以内なら、何らの理由を必要とせずに一方的に申し込みの撤回または契約の解約をできる。買主がクーリングオフを行使するにはその旨を書面で宅建業者に通知しなければならない。クーリングオフの効力は書面を発したときに生じる。クーリングオフがなされると、宅建業者は受領した手付金等の金銭を速やかに返還しなければならす、また撤回、解約に伴う損害賠償・違約金の支払いを請求することはできない。なお、以下の場合には、クーリングオフは行使できない。 申込または契約締結の場所が、宅建業者の事務所の場合(代理・媒介した宅建業者の事務所を含む) 申込または契約締結の場所が、宅建業者の、事務所以外の場所で土地に定着していて、専任の宅地建物取引士の設置義務のある、継続的に業務可能な場所の場合 申込または契約締結の場所が、買主から申し出た場合の、買主の自宅・勤務先の場合 宅地建物の引渡しを受け、かつ代金全額を支払った場合 宅建業者から書面で告げられた日から、8日を経過した場合 損害賠償額の予定等の制限(38条) 契約解除に伴う損害賠償額の予定(民法420条)や違約金(名目は問わない)を定めるときは、合計して代金額の20%を超えてはならない。超える特約は、20%を超える部分について無効となる。 手付額の制限(39条) 宅建業者が買主から受け取る手付金は、代金額の20%を超えてはいけない。超えた部分は無効となる。また、手付金は常に「解約手付」となる。 瑕疵担保責任特約の制限(40条) 瑕疵担保責任について、民法の原則(買主が瑕疵の存在を知ったときから1年間責任を負う。民法570条)よりも買主に不利となる特約は無効となる。ただし例外として、瑕疵担保責任の期間を引渡しの日から2年以上とする特約は認められる。実際にも「引渡しの日から2年間」とする特約が多い。なお、新築住宅の売買契約については、住宅の品質確保の促進等に関する法律が優先される。 手付金等の保全措置(41条、41条の2) 物件の引渡し前に買主が宅建業者に支払う金銭(手付金、内金、中間金等、名目は問わない)について、宅建業者は保全措置を講じた後でなければ、受領してはいけない。後述の例外にあたらないのに保全措置を講じない場合は、買主は支払義務を負わない。保全措置とは「銀行等による保証」「保険事業者による保証保険」「指定保管機関による保管」のいずれかである。ただし未完成物件の場合は「指定保管機関による保管」は利用できない。保全は受領した金銭の全額について保全をしなければならず、一部のみの保全は認められない。なお以下の場合には保全措置は不要である。 手付金等の額が1000万円以下かつ、未完成物件の場合は代金の5%以下、完成物件の場合は代金の10%以下の場合 買主がその宅地建物について所有権の登記をした場合 割賦販売契約の解除等の制限(42条) 宅建業者は自ら売主となる割賦販売契約について、買主から賦払金の支払いがない場合でも、30日以上の相当期間を定めて買主に支払いを催告し、期間内の支払いがない場合でなければ、賦払金の不払いを理由とした契約の解除や残金全額の支払い請求はできない。 所有権留保等の禁止(43条) 所有権留保や譲渡担保による売買契約は、原則として禁止される。以下の場合には所有権留保が認められる。 宅建業者が受け取った額が、代金額の30%以下の場合 買主が残代金担保のための抵当権や先取特権の登記申請に協力せず、残代金を保証する保証人を立てることもしない場合
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