肖像画としての解釈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/21 15:19 UTC 版)
今日までに、女性像に関する研究からいくつかの要素が浮かび上がっている。まず第一に非常にリアルで表現力豊かな人物は、それが実際のモデルから作られたという結論を導いた。そしてこのパターンはティツィアーノが同時期の『フローラ』や『ヴァニティ』などの作品で用いたものと同じであり、ほぼ同じ髪型とポーズで強調されている。彼女の社会的地位ははっきりしないままだが、モデナ=レッジョ公爵アルフォンソ1世・デステの3番目の妻あるいは愛人のラウラ・ディアンティ(イタリア語版)、またはフェデリコ2世・ゴンザーガの愛人イザベラ・ボスケッティ(英語版)とする仮説が示すように、若い女性は社会的に位置づけることができる可能性がある。そうでなければ、彼女は高級娼婦であったと思われる。 同じモデルを使って描かれた一連の絵画 『鏡の前の女』 1514年-1515年頃 ルーヴル美術館所蔵 『フローラ』1515年頃 ウフィツィ美術館所蔵 『ヴァニティ』1515年-1516年頃 アルテ・ピナコテーク所蔵 絵画に描かれている人物に関する伝統的な説では、本作品は愛人の1人を伴うティツィアーノの自画像とされていた。そこでフランソワ=ベルナール・レピシエ(フランス語版)は1752年のカタログの中で、この作品に『ティツィアーノの肖像と彼の愛人の肖像』という名前を付けた。この説は19世紀初頭でも続いており、英国の画家ウィリアム・ターナーも1802年にルーヴル美術館を訪れて『鏡の前の女』を模写した際に、「ティツィアーノと彼の愛人」と記している。この仮説はティツィアーノがすでに自分の作品に自画像を組み込んでいるという事実に基づいている。すなわち、フランスの美術史家ルイ・ウールチック(フランス語版)によれば、画家は『鏡の前の女』と同時代の『サロメ』において切断された洗礼者ヨハネの首を自身の顔の特徴をもとに描いたと思われる。それにもかかわらず、『鏡の前の女』の男性の顔と自画像のティツィアーノの顔はまったく同じではないため、現代の研究者はこの説を却下している。 絵画に描かれた男性像の比較 『鏡の前の女』の男性像 自画像とされる『サロメ』の洗礼者ヨハネの首 1515年頃 ドーリア・パンフィーリ美術館所蔵 晩年の『自画像』1562年 プラド美術館所蔵 別の古い説によれば、男性はアルフォンソ1世・デステであり、女性はその愛人ラウラ・ディアンティである。ジョルジョ・ヴァザーリは1568年の『画家・彫刻家・建築家列伝』の中でティツィアーノがアルフォンソ1世・デステの愛人のために肖像画の発注を受けたと述べており、後者との女性モデルの同定はヴァザーリの研究の混乱に由来しているようである。しかし、19世紀の終わりまでに多くの研究者はこの肖像画を『鏡の前の女』と見なし、この人物と公爵の表現との間に一定の類似点を見つけている。加えてこの作品はゴンザーガ家のコレクションに含まれていた頃から、しばしば「アルフォンソ1世・デ・フェラーラとラウラ・ディアンティ」と呼ばれている。しかし、エルヴィン・パノフスキーはこの説を否定し、絵画の男性像と特に鉤鼻を持つアルフォンソ1世とは互いに似ていないと指摘している。そして何よりティツィアーノがフェラーラの宮廷と頻繁に関係を持つのは1516年以降、つまり絵画が制作された後のことである。女性に関しては、研究者たちは公爵が1519年の第2の妻の死後に結婚したローラ・ディアンティは、公爵夫人としての地位と矛盾する服を着て表現されることを決して望んでいなかったと主張している。 最終的な説によれば、男性像と女性像はマントヴァ公爵フェデリコ2世・ゴンザーガと、彼の愛人イザベラ・ボスケッティである。この説は最も一般的ではないが、フェデリコ2世はゴンザーガ家のメンバーであるため、作品がマントヴァのゴンザーガ家のコレクションに所属したことを説明できるという利点がある。しかし、パノフスキーと現代の研究者はティツィアーノは特に1515年頃に本作品を制作しており、このときからほぼ8年後までマントヴァの宮廷に出入りしていないため、この説明を拒否している。したがって、肖像画とする説には説得力のある要素がなく、イアン・ケネディの主張のように単純なモデルを使用した風俗画または寓意画であると思われる。 『ラウラ・ディアンティの肖像』1523年頃 ハインツ・キスターズ・コレクション(Heinz Kisters Collection) 『アルフォンソ1世・デステの肖像』1525年-1528年 頃メトロポリタン美術館所蔵 コレッジョ『ダナエ』1530年頃 ボルゲーゼ美術館所蔵。イザベラ・ボスケッティはこの作品でコレッジョのモデルを務めたと考えられている。 ティツィアーノ『フェデリコ2世・ゴンザーガの肖像』1525年頃 プラド美術館所蔵
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