『ダナエ』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/01 02:08 UTC 版)
「ダナエ (ティツィアーノの絵画)」の記事における「『ダナエ』」の解説
中世からルネサンス期にかけて表現された他のダナエと同様、ティツィアーノもダナエを高級娼婦のような豊満な女性として表現しているが、顔はヴェネツィアの淑女のような美しい表情で描かれている。1544年から1546年に描かれた国立カポディモンテ美術館所蔵の『ダナエ』と1553年から1554年に描かれたプラド美術館所蔵の『ダナエ』を比較すると、後年に描かれたプラド美術館のバージョンの方に、よりダナエが堕落している様子が様々な描写で表現されている。それは轟く雷雲、ダナエの完全な裸体、左に描かれた放蕩を象徴する丸まった犬、金貨として描かれた黄金の雨に顔だけ振り向いているエロスの代わりに黄金の雨に向かって身体ごと乗り出す老女が描かれているなどである。 どの作品でもダナエは全裸かそれに近い格好で、膝を立ててカウチに横たわった姿で描かれている。エロスか年老いた侍女が画面右側に配置され、侍女は空から降り注ぐゼウスが化身した金貨を集めようとして布を広げている。画面左側にはインテリアが描かれており、プラド美術館所蔵の『ダナエ』では暖色系で官能的な茶色とピンク色で縁取りされた紫色のベルベットとなっている。一方画面右側は対照的な寒色系の灰色と青色で彩色されている。 国立カポディモンテ美術館所蔵のバージョンでは、画面中央に配された黒雲から降り注ぐ、ダナエが凝視するゼウスの化身である金貨とともに激しい雨が描かれている。プラド美術館所蔵のバージョンでは、国立カポディモンテ美術館のバージョンに描かれていたエロスに代わって、美しいダナエとは対照的な年老いた侍女が描かれている。緑灰色の老女の肌は、青白いダナエの肌とは正反対の配色がなされている。ダナエの口元は享楽的に半ば開き、金貨の雨は国立カポディモンテ美術館の『ダナエ』に比べて量が多く激しい表現がされており、ベッドシーツや枕の皺の表現などがより奔放な筆使いで描かれている。 一連の『ダナエ』は人目を奪う肉感的な官能表現が赤裸々に描かれているが、ティツィアーノは高級娼婦や肉欲といったモチーフを古代ギリシア神話の世界に仮託して表現している。ティツィアーノと同時代のイタリア人文筆家、詩人で、ティツィアーノがその肖像画を描いているピエトロ・アレティーノは対話集で「ダナエの首すじや胸は素晴らしい。あの双胸は処女を堕落させ、殉教者たちですら慎み深い僧服を脱ぎ捨てることだろう」としている。
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