綿ふき病への疑問
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/01 16:51 UTC 版)
前述の1964年(昭和39年)に4例目として国立福知山病院で27歳女性患者の対応を行い、患者本人による作為的なものとの判断を行った健田恭一は、類似するN農婦の事例に興味を抱いた。健田は田尻と何度か連絡を取り、綿ふき病について互いに書簡を送り合う間柄になった。その後京都府立医科大学小児科に勤務するようになった健田は、田尻に宛てた書面で次のような疑念を伝えた。 …自分で治療代を負担する責任のない患者が傷の治療を遅らせるために、綿や布切れなどの異物を、医師の気付かない間に傷口に押しこむことは決して珍しくない。……金属の管を使用すれば綿の挿入が可能では…、これを防ぐために、葛口の部分を石膏包帯(ギプス包帯)で巻いてしまうのが手っ取り早い方法なのである。… 『健田恭一より田尻保へ宛てた書状』より一部抜粋引用 このように健田はN農婦に石膏包帯(ギプス)を使用するよう要求し、さらに「患者は多数の膿瘍のため衰弱しているにもかかわらず、作為的な綿の挿入防止に全力を尽くさないのは医師としての良心に反すると言わざるを得ない。」と付け加えた。それに対する田尻からの返信はしばらくなく、1か月ほど経過したころ田尻から健田へ宛て次のような趣旨の返信が届いた。 …従来の自然科学の常識で判断できないものは凡てインチキと断定してはばからない偏見はお捨てなさい。…(返信が遅れた理由として)…あの綿塊の通る程の太い内腔の金属管を皮膚切開を行わないで健常な皮膚へ挿入可能だ等と非常識な言の出る貴兄の医学知識に見切りをつけて回答を止めた訳です。……患者が精神異常者と云うかも知れませんが、患者の精神状態は健常です。…、…百聞は一見にしかず、一度、土、日とでもかけて一泊予定でこちらへおいでになりませんか、そうして私と一緒にギプスを捲いて5.6時間もすれば充分綿は出来ますから、……私が「良心のない医師」かどうかわかっていただけると存じます。 『田尻保より健田恭一へ宛てた書状』より一部抜粋引用 これまで往復した書簡の丁寧な書きぶりと異なり、喧嘩腰に近い激しい口調の返信を受け取った健田は、1965年(昭和40年)2月19日、京都府立大学眼科の足立興一と国立福知山病院外科の中川幸英の2人(健田を含め3人とも勤務医)を誘い、計3名で京都から鉄路山陽線を西へ向かい、姫路駅で姫新線の津山行きの列車に乗り換え3時間ほど乗車し、ようやく田尻医院最寄りの林野駅に到着した。
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