細胞接着・伸展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/03 17:04 UTC 版)
フィブロネクチンのいろいろな機能は、細胞接着・細胞伸展を促進することが根源である。 まず、in vitroでの細胞接着・細胞伸展のようすを述べよう。 前述したように、1970年代後半、欧米のいくつかの研究室が、フィブロネクチンの細胞接着活性を、独立に同時に発見した。代表例をあげると、1976年、米国・NIH・国立がん研究所のケネス・ヤマダがフィブロネクチンの細胞接着活性を発見した。 細胞接着活性を簡便・容易で定量的に測定する方法も確立した。フィブロネクチン溶液を培養皿や6穴〜96穴マイクロプレートに入れ、1時間ほど室温放置すると、微量のフィブロネクチンが容器(培養皿やマイクロプレート)の底面に吸着する。その上に、生きた培養細胞をまくと、60〜90分で、細胞は容器底面に接着し、丸い球形の細胞が伸展し、三角形-五角形の形状になる(細胞伸展)(図5)。フィブロネクチンをまかない容器(対照実験)では細胞は丸い形状のままである。必要なら細胞を固定・染色し、顕微鏡下で、全細胞中の伸展した細胞数を数え、細胞接着活性を数値化する。 細胞接着・伸展に必要な条件は、溶液中の二価カチオン(Ca++ 、Mg++)、中性pH、30-37 ℃という生体内の通常の条件である。タンパク質合成阻害剤や核酸合成阻害剤を加えても接着・伸展する。フィブロネクチンの糖鎖および細胞表面の糖鎖は接着に関与していない。 この定量的な測定法で、フィブロネクチンは1 μg/mLの低濃度で細胞接着活性を示す。この数値は血漿中のフィブロネクチン濃度の数百分の1なので、血漿中のフィブロネクチンのごく一部が組織に接着するだけで、細胞接着が引き起こされると推定された。このことも、血流中のフィブロネクチンは不活性なフィブロネクチンの貯蔵庫で、必要な時に、必要な組織にホンの少し沈着し活性化されるという考え方に合致する。 プラスチック上のフィブロネクチンに接着・伸展するメカニズムは、細胞膜貫通タンパク質でフィブロネクチン・レセプター・タンパク質であるインテグリンがフィブロネクチンのRGD配列に結合するのが最初のステップである。その後、細胞膜上にインテグリン分子が多数会合し、斑点を形成する。これが、接着構造の1つである焦点接着 (focal adhesion) である。焦点接着にはビンキュリンなどたくさんの細胞内タンパク質(細部膜裏打ちタンパク質)が関与・会合し、細胞内で細胞骨格のアクチン線維が配向し、細胞が伸展する(図6)。 詳細は「細胞伸展」および「焦点接着」を参照 細胞接着・伸展のin vivoの役割は、単純な「接着」である。つまり、細胞の細胞外マトリックスへの接着で、そのことで、結合組織の形成・保持、胚発生での組織や器官の形態・区画の形成・維持に機能している。
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