発見とその役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/19 23:18 UTC 版)
Mdm2タンパク質をコードするマウス二重微小染色体(murine double minute)がん遺伝子(mdm2)は、形質転換したマウス細胞株3T3-DMから他の2つの遺伝子(mdm1とmdm3)とともにクローニングされた。Mdm2の過剰発現は発がん性のあるRasと協同的に齧歯類初代線維芽細胞の形質転換を促進し、mdm2の発現はヌードマウスで腫瘍形成をもたらす。このタンパク質のヒトホモログが後に同定され、それはHdm2と呼ばれることもある。mdm2のがん遺伝子としての役割を支持するものとして、軟部肉腫や骨肉腫、乳腺腫瘍などヒトの腫瘍のタイプのいくつかではMDM2のレベルが上昇していることが示されている。MDM2がんタンパク質はp53に対しユビキチン化による拮抗を行うするが、p53非依存的な機能も持っている可能性がある。MDM2はPolycombを介した細胞系譜特異的な遺伝子抑制を補助し、この過程ははp53非依存的である。p53非存在下でのMDM2の欠失は、ヒトの間葉系幹細胞の分化を促進し、がん細胞のコロニー形成能を喪失させる。MDM2によって制御される遺伝子の大部分は、PRC2(polycomb repressor complex 2)やその触媒コンポーネントEZH2の不活性化にも応答する。MDM2はクロマチン上でEZH2と物理的に結合し、標的遺伝子のヒストン3のリジン27番残基(H3K27)のトリメチル化とヒストン2Aのリジン119番残基(H2AK119)のユビキチン化を向上させる。H2AK119に対するE3リガーゼRing1B/RNF2とMDM2を同時に除去すると遺伝子発現の誘導はさらに強化され、合成的に細胞増殖を停止させる。 Mdm2ファミリーの別のメンバーMdm4(MdmXとも呼ばれる)が発見されており、これもまたp53の重要な負の調節因子である。 またMDM2は器官発生や組織の恒常性にも必要とされるが、それはp53の活性化が抑制されなければpodoptosisと呼ばれるp53の過剰活性化による細胞死が引き起こされるためである。podoptosisはカスパーゼ非依存的であり、そのためアポトーシスとは異なる過程である。MDM2の細胞分裂促進機能は組織傷害後の創傷治癒にも必要であり、MDM2の阻害によって上皮の損傷後の再生が損なわれる。加えて、核内でのNF-κBの活性化においてMDM2はp53非依存的な転写因子様の働きをする。そのため、組織傷害においてMDM2は組織の炎症を促進し、その阻害は強力な抗炎症効果をもたらす。MDM2の阻害は抗炎症、抗細胞分裂効果があり、がんのような炎症や過剰増殖を伴う疾患や、全身性エリテマトーデスや急速進行性糸球体腎炎といったリンパ増殖性自己免疫疾患に対し、相加的な治療効果がある可能性がある。 またMdm2の過剰発現は、Mdm2とNbs1の間の直接的な相互作用によってp53非依存的にDNAの二本鎖切断修復を阻害することが示されている。p53の状態に関わらず、Mdm2レベルの上昇はDNA二本鎖切断修復の遅れ、染色体異常、ゲノムの不安定性を引き起こすが、Nbs1結合ドメインを欠くMdm2ではこれらの現象はみられない。これらのデータはMdm2によって誘導されるゲノム不安定性はMdm2-Nbs1間の相互作用によって媒介され、p53との結合とは独立したものである可能性を示している。
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