留学と神経誘導因子研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 18:11 UTC 版)
1993年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) 医学部客員研究員の機会を得る。渡米時にはパスポートを盗まれて苦境に立つが、無事に再発行を受けることができ、エドワード・デロバティス(英語版)の元で1996年まで研究を行う。笹井はハンス・シュペーマンが発見した形成体(オーガナイザー、シュペーマン形成体とも言う)から分泌される「神経誘導因子」の分子実体とその作用機構の研究に取り組む。 笹井はわずか一月程でコーディン遺伝子を作るクローンを発見し、さらにこのコーディンがシュペーマン形成体から分泌される発生シグナル物質であること、神経以外の他の細胞へ分化するのを抑制するシグナルを出すことを発見した。シュペーマン形成体は1924年に発見されて以降、その作用の仕組みが明らかになっていなかったが、笹井によって解決された。このコーディンの発見は、神経発生学の入門書でも取り上げられている。 ショウジョウバエやマウスにおいて、形を決定する遺伝子の働きに類似したものが見られる。笹井とデロバティスはこの類似が進化的保存であると考え、昆虫と脊椎動物で共通の祖先を持つとする「ウルバイラテリア仮説」を1996年に提唱、この分野に大きな影響を与えた。帰国後の1996年には京都大学医学部助教授(生体情報科学講座)に就任し、神経分化を決定するスイッチ因子のカスケードの研究に従事。1998年には京都大学再生医科学研究所教授に36歳の若さで就任、ES細胞から選択的に神経細胞を分化させる系を確立した。 また、理化学研究所時代にはアフリカツメガエルの初期胚を使って指令因子と相似形について研究を実施。2013年には、シズルドの濃度でコーディンが阻害され、コーディンの濃度勾配が調整されること、胚の大きさとシズルドの濃度が比例することによって相似形(生物の大きさが変わっても形状が同じこと)が維持されることを発表している。
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