現代の赤外線天文学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/04 09:01 UTC 版)
今日、赤外線天文学は生成初期の宇宙の状態を知るための遠方の銀河系の観測において重要な役割を果たしている。100億光年を越える様な遠方の天体から届く光は赤方偏移により赤外線領域まで波長が引き延ばされてしまうためである。 近赤外線(赤外線のうち可視光に波長が近いもの)は可視光線と非常に似た振る舞いをするため、可視光と同様の電子デバイスを用いて検出することができる。このため、近赤外域のスペクトルは近紫外線と同様に「可視光スペクトル」の一部としてまとめて扱われる(光学望遠鏡など、可視光線を扱うほとんどの科学実験装置は可視光だけでなく近赤外線もカバーしている)。遠赤外線はサブミリ波の波長に続いていて、マウナケア天文台群のジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)などで観測されている。 他の電磁波と同様に、赤外線は天文学者によって宇宙をより深く理解する手段として用いられている。赤外線は本質的に熱線であるため、赤外線望遠鏡(これにはいくつかの赤外線専用望遠鏡だけでなく主な光学望遠鏡のほとんども含まれる)の検出器は、実際に像を得るために外部の熱から遮蔽して液体窒素、場合によっては液体ヘリウムで冷却する必要がある。これは中間赤外や遠赤外域での観測では特に重要である。地上の望遠鏡では、赤外線の感度に原理的な限界を与える要因として地球大気に含まれる水蒸気がある。水蒸気は宇宙から届く赤外線放射の多くを吸収する。このため、多くの赤外線望遠鏡は(大気中の水蒸気の大部分が存在する高度よりも高い)高地の非常に乾燥した場所に造られている。地球上で赤外線の観測に適した場所としては、標高4205mのマウナケアやチリの標高5000mにある ALMA の建設場所、南極のドームCのような高地の氷原などがある。 しかし、最も理想的な観測場所は可視光望遠鏡と同様に宇宙空間であり、(ハッブル宇宙望遠鏡のような)宇宙に打ち上げられている光学望遠鏡のほとんどは赤外線観測も行うことができる。2003年に打ち上げられたスピッツァー宇宙望遠鏡や2006年に打ち上げられたあかりなどは赤外線観測専用の望遠鏡である。 赤外線天文学の別の観測手段としては、成層圏赤外線天文台(SOFIA)やカイパー空中天文台のような航空機に搭載した望遠鏡を用いる方法がある。成層圏のような高高度を飛ぶことで、望遠鏡と観測する宇宙の間に存在する水蒸気の量が少なくなるため、大気による赤外線の吸収の影響を減らすことができる。空中観測での赤外線のバックグラウンドノイズは、観測する領域と天体のない領域とを交互に観測するチョッピングと呼ばれる方法によって減算することができる。 最も解像度の高い赤外線観測は地上の干渉計を使うことで行なわれている。
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