猟の実態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/13 07:50 UTC 版)
鉄砲を使った猟の形態としては主に三種類ある。大人数で山中に展開してクマを包囲して仕留める巻狩り、単独もしくは少人数で足跡などの痕跡を辿って獲物を追跡するシノビ猟、冬に越冬穴内で冬ごもり中のクマを仕留める穴熊猟である。現代においてマタギの猟法としてイメージされるのは巻狩りであるが、その他にも鉄砲を用いず、山中で圧殺式の罠を仕掛けるヒラオトシと呼ばれる罠猟等も行っていた。 マタギ組の各人はそれぞれ仕事を分担する。巻狩りの場合、通常は、合図役のムカイマッテの指示に従い、勢子(追い出し役)がクマを谷から尾根に追いたて、鉄砲打ち(ブッパ、ブチッパ)のいるところまで追い上げる。一つの集団の人数は通常8~10名程度だが、狩猟の対象によっては数十人編成となることもある。マタギ組の頭領はシカリないしスカリ、親方と呼ばれ、大抵は猟の技術や山の知恵に長けた老練な猟師が任じられた。山中におけるシカリの権限は絶対であり、猟そのものだけでなく、宗教的儀式や炊事など、山中で行われるあらゆることの一切を取り仕切る立場にあった。 また、クマの冬眠期である冬~初春にかけては「穴熊猟」と呼ばれる猟も行われた。これは雪が降る前にクマが越冬しそうな穴(越冬穴)を探しておき、いざ冬となったら中に眠るクマを強制的に追い出して仕留める猟である。この場合、クマは冬眠中であるために毛皮の状態が良く、また何よりも消化に必要な胆汁が使われておらず目方のある熊胆が穫れるため、第二次世界大戦前までは盛んに行われた。 穴熊猟の場合、まずは越冬穴の中に腹ばいで入り、中にクマがいるかどうか確認する。その後、穴に直接衝撃を与えたりして強制的にクマを起こす。冬眠中であったクマは起こされてもすぐには襲いかかってこないため、そこを仕留めた。また、「穴留め」などと称して越冬穴の入り口に手近な柴を立てることも行われた。クマは越冬穴の入り口に障害物があると決して押し出すことはせず、越冬穴の中に引き込もうとする習性があり、穴から半身を出したところを仕留めるのだという。また、クマはこの柴に組みついている間はいきなり飛び出したりはしてこないので、「穴留め」には安全対策の意味もあったという。 無事獲物を仕留めると、獲物の御霊を慰める儀式、皮絶ちの儀式、獲物を授けてくれた山の神に感謝する儀式等が執り行われた。修験道に由来するというこれらの儀式はシカリが主催者となって執り行う。この際に唱えられる呪文はシカリを継ぐ者に対し、先代のシカリから師資相承で受け継がれた。これら各種の儀式や呪文については各マタギ郷毎に微妙な違いがあるものの、真言を唱えるなど、全体的には修験道や真言宗(密教)の影響が色濃いとされる。
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