無麻酔歯石除去に対する獣医療業界からの見解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 07:43 UTC 版)
「無麻酔歯石除去」の記事における「無麻酔歯石除去に対する獣医療業界からの見解」の解説
日本小動物歯科研究会では無麻酔歯石除去の危険性について見解を掲載している。また、アメリカ獣医歯科学会のホームページでもトレーニングを受けていない人たちによる無麻酔でのスケーリング(Non-ProfessionalDentalScalingonanunanesthetizedpet)がいかに危険で不適切な行為であるかが説明されている。日本小動物歯科研究会に日本語訳が掲載されているため、下記に掲載する。 1)歯石は歯周炎の直接的な原因ではないので、歯石をとったからといって歯周炎を予防たことにも、治療したことにもなりません。歯周炎の原因は、歯垢(プラーク、バイオフィルムの一種)です。歯石中細菌の活性はほとんどなく、歯石の表面がデコボコしているために、歯垢がつきやすい環境を作る、すなわち二次的に歯周炎を引き起こしやすいと言えます。歯石をとっても、訓練を受けていないヒトが歯石を除去し、歯面のポリッシングや歯磨き指導をしない、鉗子などで歯面の歯石だけをとるといった行為により歯垢のつきやすい歯面を作ってしまいます。 2)ハンドスケーラーや鉗子で歯石を取るのは、危険な行為です。これらの器具は、先端に刃物が付いていて、歯面ではよく滑ります。イヌやネコは動く、スケーラーは滑るので、歯肉や舌、口腔粘膜を容易に傷つけます。器具の使い方の訓練を受けていないヒトは、器具のコントロールができませんので、よりリスクが高くなります。鉗子で歯石を割って除去するときに、歯を一緒に折って露髄させてしまった例もあります。とれた歯石がのどに詰まったらこれも大変です。歯がぐらぐらしている状態で歯石をとろうとすれば、歯根を残したまま歯が折れる、あるいは顎の骨を折る危険もあります。 3)歯周炎が発症していれば、歯肉の下(縁下と呼びます)にポケットを作っていたり、歯肉が後退して一部歯根が見えていたりします。ポケット内の歯垢や歯石を取ろうとして、炎症を起こしている歯肉にスケーラーがあたっただけで出血が起き、痛みを伴います。歯肉より上に使うスケーラーでは、歯肉が傷だらけになり状態はさらに悪化します。歯肉が後退して一歯根が見えているところをスケーラーでいじっても痛みが生じます。痛みを感じた犬や猫は、術者を傷つけることさえあるはずです。このような危険な行為は動物に痛みばかりでなく恐怖感を与えることになります。ポケットができているところは、歯周炎の進行の最前線です。ここを清浄化して治療できなければ、歯周炎を放置したことと同じで、動物に恐怖や痛みを与えるばかりで、治療になりません。歯周炎を悪化させる原因を作ることにもなりかねません。 4)上顎第1~2後臼歯歯、上顎の奥のほうにあって、口をあけてじっとしていないとここの歯石を除去することはできません。乱暴にすれば、唾液線(耳下腺と頬骨腺)の導管の開口部を傷つけ、周囲の粘膜を傷つけるので、危険です。大きな血管を切ってしまいかねません。また、上顎歯の内側は、特に犬では、深いポケットを作りやすく、鼻腔への瘻孔が容易に形成される個所でもあります。この領域への無麻酔でのアプローチも危険です。さらに、下顎歯は、特に内側に歯垢がつきやすく、ここへのアプローチは舌があって、舌下部には大きな血管や唾液線の導管も走っているので、無麻酔では、この領域へのアプローチは不可能でしょう。 5)無麻酔で、上記のような行為を病院で行うと、家でのケアをしにくくなることが多くなるようです。病院ではじっとしていても、家庭では言うことを聞いてくれないし、口も触れないという声をよく聞きます。歯周炎の原因は歯垢中の細菌です。歯垢は数時間で歯の表面を覆います。定期的に歯垢を除去することが歯周炎の予防であり、それが一番の治療となります。家庭でもはみがきができるように指導すべきで、病院での痛みを伴う口腔内への行為はできる限り避けるべきでしょう。 このように、無麻酔歯石除去は施術者及び動物に危害が及ぶ危険な行為であるだけでなく、歯科処置としての意味もないどころかむしろ悪化を引き起こす行為であるというのが獣医療における共通見解である。現状、この共通見解に異を唱え、無麻酔歯石除去を行っている獣医師は標準治療を行っていない獣医師であると判断ができる。また、SNS等では獣医療関係者から、無麻酔歯石除去の危険性を訴える発信がなされている。
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