滅菌処理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/11 08:36 UTC 版)
医療や生物学実験の分野においてオートクレーブは、通常、高温高圧の飽和水蒸気による滅菌(オートクレーブ滅菌、高圧蒸気滅菌)処理のための装置(高圧蒸気滅菌器)、あるいはその処理のことを指す。これらの分野では、医療器具や薬剤あるいは実験用の試薬などに対して、空中雑菌などのさまざまな微生物が混入し、院内感染や実験の失敗などのさまざまな問題につながることがある。このため、これらの器具や試薬類には必要に応じて適切な滅菌処理を行う必要がある。滅菌にはいくつかの手法が存在するが、オートクレーブはその中でも最も普遍的かつ用途の広い方法の一つである。 微生物の滅菌を行うとき大きな問題になるものに、一部の細菌が形成する芽胞の存在が挙げられる。芽胞はバシラス属やクロストリジウム属などの一部の細菌が生育環境の悪化に伴って形成する耐久型の構造であり、温度や薬剤などによる殺菌に対して極めて高い抵抗性を示す。通常の生物は100 ℃の湯で煮沸するとごく短時間のうちに完全に死滅するが、芽胞は通常の生活環境に存在する生物の中では最も耐熱性が高く、30分間以上煮沸しても生き残り、完全に死滅させることはできない。芽胞の状態にある細菌まで完全に殺す(=滅菌する)には、より高温での処理が必要となる。 オーブンと同様の原理による乾熱滅菌では、180 ℃·30分以上(または160 ℃·1時間以上)の加熱によって芽胞を完全に殺すことが可能であるが、この方法では水分を含む物体や、培地などのような水溶液そのもの、あるいは高熱に弱いプラスチック類を滅菌することができず、金属やガラス器具だけにしか使えないという欠点がある。これに対して、オートクレーブ滅菌では通常、2気圧の飽和水蒸気によって温度を121 ℃に上昇させ、20分間処理することで、対象物の水分を保持したまま、しかも乾熱滅菌より低い温度、短い時間で滅菌を行うことが可能である。これはオートクレーブが水分存在下での加熱(湿熱)であるため、高温で促進された加水分解反応によって、微生物を構成する生体高分子の分解が促進される分、乾熱よりも効率よく滅菌されるためだと考えられている。 これにより、ほぼ全生物を死滅させることができる。代表的な高耐久生物であるGeobacillus stearothermophilusの芽胞やクマムシも湿熱には弱く、オートクレーブで死滅する。一部の超好熱菌(Methanopyrus kandleriやPyrolobus fumariiなど)は、酸素が十分に入らなければオートクレーブに耐えることができ、条件によっては増殖する可能性もあるが、こちらは常温環境に存在しないため、通常の操作で気にする必要はない。 オートクレーブは水分を保ったまま、比較的低温で滅菌できるという特性を持つため、乾熱滅菌が使えない水分を含む物体や水溶液のほか、ポリプロピレンなど比較的高温に耐える一部のプラスチック製品も含め、極めて広い対象を比較的簡便に滅菌することが可能である。ただし120 ℃以下で変質するような、熱に弱い成分(一部のタンパク質やビタミンなど)を含むものや、熱に弱いプラスチック器具を滅菌することはできない。また、分子生物学分野でのコンタミの原因の一つであるRNaseや、医療上コンタミの原因になる、内毒素であるリポ多糖などは、オートクレーブによって除去することはできず、異常プリオンについても通常のオートクレーブの条件では感染性を失わせることができない。 通常、オートクレーブ滅菌は121 ℃、2気圧(平圧+15ポンド/平方インチ)で20分処理という形で行われるが、一度に大量の培地を滅菌する場合などには、培地内部の温度上昇に時間を要するため、より長時間行う必要がある。また一部の細菌用培地などには115 ℃(約1.7気圧、平圧+10ポンド/平方インチ)で滅菌するものもある。また異常プリオンについては132 ℃1時間によって感染価を1000分の1に減弱させることが可能であり、焼却などの完全な処理が不可能なケースについては、このようなオートクレーブによる減弱化を用いる場合もある。
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