棒による通信
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/29 16:44 UTC 版)
どんなに力を加えても一切変形しない、極めて長い棒を星と星の間にわたして、その棒を押したり引いたりすることでモールス信号などの形で情報を送る。これは直感的には、たとえば一光年の長さの棒があれば、この棒を押すことで一光年先でも瞬時に情報を送ることができるように見える。 しかし、実際には固体物質の一端を押した場合でも、結局はある一端の原子・分子の運動が、原子・分子同士の固体結合力により波動として隣り合う原子・分子に伝達され、最終的に他の一端まで到達するのである。その波動の伝達速度は流体などを考慮すれば、どんなに硬度の高い固体であっても明らかに光の速度より遅いことは、物理学的には直感的に理解できるだろう(地震も波動として地殻表面の地面を伝わるのである)。 また、仮に一光年の長さの棒を作り、宇宙空間(真空)に設置できたとする。しかし、そのようなスケールの棒が、他のさまざまな星などから受ける重力の影響はゼロではないことから、その棒がその全長に渡って数学的に直線であることは保証されない。すなわち、天文学的に長い棒においては、他の物質からの重力による極めて僅かな棒の歪みも、前述の固体移動による波動の伝達に対して波動の拡散、すなわち棒の屈曲や破壊を生じさせえるのである。この結果、天体的スケールで見ると、ゴムや糸などの一端を押しているのと同等になり、他の一端には固体移動の波動は伝達されないことになる。 結局、現在の物理学において、現実的な固体により製造された棒によっては、超光速通信はできない。 追記すると、ほぼ無質量で完全に理想的な剛体であれば実現できるわけでもない。第一には理想的な剛体の棒ならば完璧な直線となるはずだが、その直線の定義が明確にされていない。概念的には決して曲がらず歪まなければ直線と思われがちだが、物理空間における直線とは光の直進によって決められる。重力レンズなどに代表されるように光は恒星等の大質量によって曲げられるが、これは正確には光が曲がったのではなく空間自体が歪んでいるのである。従って、物理的に直線の棒であれば重力の影響をうけ曲がっており、重力の影響を受けず変形しない棒であるならば、空間から見て歪んで見える。すなわち、広範囲重力の影響と相対論のスケールで考える時点で剛体の概念自体が矛盾している。 第二により重要なことだが、いずれにせよそのような棒の片側が押されたという情報(一つの出来事の物理的影響の伝播)自体が、全て光速を超えることがないというのが相対論の結論であるということである。仮に無限に近い負荷をかけても、破壊も弾性変形もしない理想的な棒であっても、"時空自体の実際的な歪み"の影響で伸縮してしまい、ちょうど光速にしかならない。 仮に、空気中の音速に比べて水中の音速が速いようにして真空中の光速に比べて棒の片側が押されたという事実が棒のもう片側に光速より速く伝わるのだとしたら、その棒自体が理想的物体ですらなく、SF的な空想の産物であり、また、超光速の媒質で構成されていることとなり、他の架空の超光速通信の手段と何ら変わる所がない。 よって、いかなる非現実的な剛体の棒でも超光速通信はできない。概念上のまっすぐな棒とは、物理的に見ると超光速で湾曲と伸縮を繰り返す棒のことである。
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