旧法と現行法の違い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/06 03:12 UTC 版)
「パロディ・モンタージュ写真事件」の記事における「旧法と現行法の違い」の解説
2要件説の問題2つ目は、旧著作権法下で下された判決が、現行著作権法にもそのまま適用できるのかという問題である。 適法引用を規定した著作権法の条文新旧比較(再掲・一部文字を強調) 旧30条〔著作権の制限〕 既に発行したる著作物を左の方法に依り複製するは偽作と看做さず 第二 自己の著作物中に正当の範囲内に於て節録引用すること 本条の場合に於ては其の出所を明示することを要す現32条〔引用〕 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。 “ ” パロディ・モンタージュ写真事件の判決調査官を務めた小酒禮が「現行の著作権法の解釈についてもそのまま参考になる」と述べたことから、その後も長らく判例上・学説上ともに受け入れられてきた。2要件説が最高裁判決だったことから、その重みを受け入れる学説が多かったとも言われている。 しかし、旧30条の「節録引用」という文言は、現行著作権法では一切用いられておらず「引用」に置き換わっている。したがって、適法引用の要件についても、現32条が定めた「公正な慣行」や「正当な範囲内」という文言に立ち返るべきではないか、という動きが強まってきた。このような引用の目的や様態、また利用される著作物の性質や、引用によって原著作権者におよぼす影響などを総合的に考慮する考え方を「総合考慮説」と呼ぶ。 時期的には2要件説が唱えられたのは、1980年 (昭和55年) 最高裁判決であるが、その5年後には「藤田嗣治事件」控訴審 (東京高裁 昭和60年10月17日判決、判時1176号34頁、無体裁集17巻3号462頁) が2要件説をベースにしながらも、「主従関係」を一部拡張している。主従関係とは単純な分量だけでは測ることができないと指摘され、引用の目的、著作物の性質、引用の様態といった複合的な視点を取り込んだ判決となった。 さらに総合考慮説へと傾かせたのが、2010年の「絵画鑑定証書事件」控訴審 (知財高裁 平成22年10月13日判決、判時2092号135頁) である。これは、絵画をカラーコピーして絵画の鑑定証書の裏面に貼り付けたことから、著作財産権の複製権侵害が問われた事件であるが、絵画のカラーコピーを鑑定証書から引き剥がして単独で利用されるおそれのないことや、むしろ鑑定によって贋作を排除し、絵画の価値維持に寄与することなどを総合考慮し、複製権侵害の訴えは退けられた。「公正な慣行」を柔軟に解釈した判決と言え、2要件には直接的に触れずに引用を認めた日本の高等裁判所の初判決である。 ただし総合考慮説にも限界がある。「公正な慣行」や「正当な範囲内」は一般的な基準でしかなく、こうなると米国著作権法のフェアユースの法理に実質的に近い。米国では多数の判例を通じて基準が具体化しているが、日本も同様の蓄積が必要であるとされている。また、典型的な「批判・研究型」(論評型) の引用であれば、「正当な範囲内」の具体的な基準がまさに2要件説と親和性が高い。したがって2要件説を完全に捨て去って総合考慮説に乗り換えれば良いというものではない。 さらに上述の田村らの指摘のように、必然性や必要最低限の引用量といった観点を加えるかについては学説が分かれている。弁護士・福井健策は必然性の観点を「現実的」とみなしているのに対し、法学者・中山信弘はあまりに引用量を重視しすぎると表現の自由が萎縮したり、当事者間の無用の軋轢につながりかねないとして慎重な姿勢である。中山は汎用性の高い「公正な慣行」や「正当な範囲内」の一般基準だけで十分カバーできるとの立場である。
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