扁桃体の活動の神経心理学的関連
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 22:21 UTC 版)
「扁桃体」の記事における「扁桃体の活動の神経心理学的関連」の解説
霊長類の初期の研究により扁桃体の機能の説明がなされ、後の研究の基礎となった。1888年に行われたもので、(扁桃体を含む) 側頭葉を損傷させたアカゲザルが社会的、情動的な障害を顕著に受けたという研究が存在する。ハインリヒ・クリューヴァー (Heinrich Klüver) とポール・ビューシー (Paul Bucy) は後にこの観察された事実を拡張し、側頭葉前方の大きな損傷が、様々な対象に対する過剰反応、情動の低下 (hypoemotionality)、恐怖の喪失、異常性欲、口唇傾向 (hyperorality : 不適切な対象を口に運ぼうとする状態) などを含む目立った変化を引き起こすことを示した。また、あるサルは見慣れた物体を認知することが出来なくなり、生物、無生物に対して無差別に近づくようになったり、実験者への恐怖を示さなくなるなどの現象を示した。このような行動障害は、後に彼らにちなんでクリューヴァー・ビューシー症候群 (Kluver-Bucy syndrome) と名付けられた。側頭葉は多くの脳構造を取り囲むように存在するため、特定の症状に特異的に関係する脳構造を同定することは困難であったが、後の研究は扁桃体に集中した。1970年には、扁桃体に損傷を起こした母ザルはその子供に対する母性的行動が減少し、しばしば物理的な虐待や育児放棄を行うことが示されている。1981年に、電波による全扁桃体の選択的な損傷がクリューヴァー・ビューシー症候群を引き起こすことが発見された。 核磁気共鳴画像法などの脳イメージング手法の発達により、神経科学者はヒトの脳の扁桃体に関する重要な発見を行ってきた。データから得られる一般的な結論として、扁桃体が精神状態に重要な役割を持ち、多くの精神障害に関係していることが示されている。 2003年の研究から、境界性パーソナリティ障害の患者は対照群の参加者に比べて、感情の表情表現に対して左扁桃体の有意な活動の増加が示されている。また、何人かの境界性パーソナリティ障害の患者は (特定の感情を表現していない) 中立の表情を分類することが困難であるか、恐怖表情をしていると回答した。2006年の研究では、患者が恐怖表情や恐ろしい場面に直面した際に扁桃体の過剰な活動が見られることが示された。また、より重症な社交不安障害の患者ほど、扁桃体の反応が大きいことも示されている。同様に、うつ病の患者は全ての顔の表情、特に恐ろしい表情を処理する際に過剰な左扁桃体の活動を示す。興味深いことに、このような過剰な活動は患者が抗うつ薬を服用すると正常化する。これらの結果とは対照的に、双極性障害に対して扁桃体は異なった関連の仕方を示す。2003年の研究では、成人および青年期の双極性障害の患者では、扁桃体と海馬の体積が有意に小さくなっている。また、多くの研究で扁桃体と自閉症との関係に焦点を当てている。 最近の研究から、脳内で嚢胞を形成する寄生生物、特にトキソプラズマは、しばしばその巣を扁桃体に形成することが示唆されている。このことは、どのようにしてある種の寄生生物が宿主の行動に変化を与えたり、パラノイアなどの障害を引き起こすのかを解明する手がかりになる。
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