憲法上の国民の義務
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/01 03:17 UTC 版)
「戦う民主主義」も参照 近代憲法は国家権力を制限し憲法の枠にはめ込むことによって権力の濫用を防ぎ人権(特に自由権)を保証することを目的としている。そのため国民の義務に関する規程は憲法の中に重要な地位を与えられていない。近代憲法として最初期に成立したアメリカ合衆国憲法やフランス共和国憲法には国民あるいは人民一般に対する明確な義務規定は置かれなかった。一方で武力を維持するため、あるいは行政の諸費用を支弁するための租税を維持するための規程は存在しており(フランス人権宣言13条、アメリカ合衆国連邦憲法1条8節1項)、宮沢によれば「当時の人間は、義務は十二分にしょわされていたのであり、あらためてそれを宣言する必要は少しもなかった」 ためである。 アメリカやフランスに遅れて成文憲法を制定した国々の憲法には、義務に関する規定が見られるようになる。フランクフルト憲法やプロイセン憲法、大日本帝国憲法などである。 20世紀以降は所有権は義務をともなうという考えが採用された。「所有権は義務をともなう」という条文があるヴァイマル憲法は従来の憲法に比べて極めて多くの義務を規定しており、兵役の義務(133条2項)、納税の義務(134条)、教育の義務(120条)、就学の義務(145条)、名誉職の仕事を引き受ける義務(132条)、公の役務に服する義務(133条1項)、土地所有者の耕作・利用の義務(155条3項)などが規定された。 1948年イタリア憲法でも教育の義務(30条・34条)、祖国防衛と兵役の義務(52条)、納税の義務(53条)、憲法法律遵守義務(54条)が定められた。またドイツ連邦共和国基本法においても子供の保護・教育の義務(6条二項)、兵役および良心的兵役拒否者に対する代役の義務、国民の憲法擁護義務(5条3項、33条4項)が規定されており、人権と民主主義を絶対保障した憲法体制を破壊しようとする者は処罰される。ながらく義務規定を置かなかったフランス憲法にも現在では憲法的効力を認められた文書のなかに義務規定が存在する(1958年第五共和制憲法前文)。日本国憲法や中華人民共和国憲法、大韓民国憲法、1993年ロシア連邦憲法、1949年インド憲法などにおいても憲法における義務規定は存在している。19世紀的義務が変わらず科せられている一方で、勤労の義務や環境に関する義務など20世紀になって新たに導入された義務規定が登場するなど、多様化している。 権利と義務との関係から憲法に人民の義務について記述すべきだとの主張があり、「教育を受けさせる義務」や納税の義務、あるいはその対等物として参政権を保障すべきだとの主張がある。
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