専門性と信頼性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 03:43 UTC 版)
コーチングを行う人はコーチを自称しているが、自己啓発セミナー同様、質を保証する公的な資格等は存在しない。ある程度の長さ・内容の訓練を受け経験を積んだコーチもいれば、会社の簡単な研修を受けただけで部下にコーチングを行う人もいる。コーチ養成組織には資格商法としか言えないものも少なくなく、数日の訓練を受けて料金を払えば「認定マスターコーチ」を名乗ることもできる。しかし、コーチングの技術は短時間で身につくほど簡単なものではなく、ティモシー・ガルウェイは、実習を伴わない安易なコーチ育成プログラムは「そのほとんどが多大な時間と金を費やしたあげくに、期待を大きく下回る成果しか確認できず、プログラムは失敗に終わる」と述べ、コーチングの技術は実践を通してのみ身に着けることができるという見解を示している。コーチング産業自体、コーチによるコーチングの実践ではなく、商業的コーチング養成組織による利益が占める部分が大きい。コーチの本間正人は、日本でも英米同様にコーチ養成会社が乱立し、トレーニング内容の質が不十分な団体もかなりあると指摘している。2002年の段階で、日本のコーチで、コーチングによる収入だけで生計を立てている人は少なく、職業としてのコーチが育っているとは言えない状況であった。 ジョン・ウィットモアは、コーチのほとんどは自分たちが行っていることの心理的原則を十分理解しているとはいいがたく、理解していなくてもコーチングの方法を表面的になぞることはできるかもしれないが、期待するような結果は出ないだろうと述べている。コーチング心理学者のアンソニー・グラントは、ほとんどのコーチは心理学や行動科学の素養がなく、2008年時点でコーチングの信頼性は低く、コーチの専門職業意識は希薄であると述べている。 コーチング市場の拡大に伴い、主要な利用者である企業が、エグゼクティブコーチに大学院レベルの行動科学の資格を求めるなど要求水準が高まり、市場では変革が起こりつつあり、実証的なコーチングや心理学に基づくコーチングを学べる大学も増えた(2008年時点)。要求水準の高まりに伴い、コーチングと関係がない・またはほとんど関係がない学位を持つ人が、コーチングの学位を持っていると詐称するなどの問題も生じている。大学と提携した商業コーチング学校が、必ずしも専門性や実証性が保証されているわけでもなく、コーチング学校が自社製品を提携する大学が認めた研究と勝手に偽って展示するなどの協働の失敗事例もある。 医療や心理学の関係者以外のコーチが多いアメリカでは、「誰が心理学的方法を実施できるか」という法的問題が生じている。イギリスでは、コーチング提供者は外部の大学で資格を得て、専門機関から認定を受けている。 コーチングの組織としては、アメリカで自己啓発セミナーから派生した系統の国際コーチ連盟(International Coach Federation)(英語版)、the Association for Coaching(AC)、the Association for Professional Executive Coaching and Supervision (APECS) 、イギリスで科学的根拠に基づいたコーチングを主導するBPS-SGCP(British Psychological Society-Special Group in Coaching Psychology)やISCP(International Society for Coaching Psychology)といった有力団体があり、様々な流派の団体が興亡している。日本では1999年に国際コーチ連盟の倫理規定に基づいて活動する日本コーチ協会が設立され、2000年にNPOの認証を受けている。
※この「専門性と信頼性」の解説は、「コーチング」の解説の一部です。
「専門性と信頼性」を含む「コーチング」の記事については、「コーチング」の概要を参照ください。
- 専門性と信頼性のページへのリンク