存在条件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/02 02:42 UTC 版)
実直線上の1次元自律系の微分方程式系では、周期解は存在し得ない。2次元自律系あるいは1次元非自律系以上から周期解が現れるようになる。また、リミットサイクルは非線形の系のみで起こる現象である。線形の系ではリミットサイクルは起こらない。 流れに沿って相空間の体積が変化しない系を保存系と呼び、体積が零に漸近する系を散逸系と呼ぶ。散逸系の場合にリミットサイクルが存在する。周期軌道が散逸系で存在する場合、それらの周期軌道の大抵はリミットサイクルであると推定される。系が勾配系である場合も、リミットサイクルは存在しない。 以下、変数の時間微分 d/dt を変数の上部に · を付けて表す(ニュートンの記法)。もし、系を2次元自律系 x ˙ = f ( x , y ) , y ˙ = g ( x , y ) {\displaystyle {\begin{aligned}{\dot {x}}&=f(x,\ y),\\{\dot {y}}&=g(x,\ y)\end{aligned}}} に限定すれば、閉軌道およびリミットサイクルの有無が判別できる定理がいくつかある。ポアンカレ・ベンディクソンの定理により、平衡点を含まない有界な軌道の極限集合は閉軌道である。すなわち、このような軌道は閉軌道そのものか、存在するリミットサイクルに吸引される軌道であるかのどちらかである。さらに、ベンディクソンの否定条件によれば、単連結な領域 Ω 上で ∂ f ( x , y ) ∂ x + ∂ g ( x , y ) ∂ y {\displaystyle {\frac {\partial f(x,\ y)}{\partial x}}+{\frac {\partial g(x,\ y)}{\partial y}}} の値が零ではなく、かつ符号が一定であれば、Ω に完全に含まれる閉軌道は存在しない。また、系がリエナール方程式に相当するのであれば、リエナールの定理により原点を囲む漸近安定なリミットサイクルが存在する。 力学系のパラメータ(定数係数)が変化することによって、解に定性的な変化が起こることを分岐という。リミットサイクルも分岐を経て発生する。2次元系でリミットサイクルが発生する典型的な分岐は、ホップ分岐と呼ばれる分岐である。ホップ分岐では、パラメータ変化によって安定な平衡点が不安定に遷移し、その周囲に安定なリミットサイクルが起こる。あるいは、安定な平衡点と不安定なリミットサイクルが不安定な平衡点に遷移する場合もある。ホップ分岐は局所分岐の1種である。リミットサイクルが関わる大域分岐としては、ホモクリニック分岐やリミットサイクル同士が衝突するサドルノード分岐などがある。 周期軌道の安定性は、ポアンカレ写像の構成や周期軌道周りの線形化方程式(変分方程式)の構成から判別できる。適当な n − 1 次元の局所断面を取り、ポアンカレ写像を設定することで連続力学系の周期解を離散力学系の写像に置き換えることができる。写像が漸近安定な不動点を持つ場合は元の周期軌道が漸近安定である。ポアンカレ写像は、リミットサイクルを見出したポアンカレ自身がリミットサイクルを考察するために生み出した手法である。あるいは、周期軌道からの微小なズレを想定して周期軌道に対する線形化方程式を構成することによって、フロケ理論を適用することができる。線形化方程式のフロケ乗数あるいはフロケ指数から周期軌道の安定性が決定できる。ただし、ポアンカレ写像による方法も線形化方程式による方法も、任意の微分方程式系に適用できる解析的な一般的手法は存在しない。ポアンカレ写像であれば対象の系ごとに個別に工夫して構成する必要があり、フロケ乗数による判定であれば数値計算による手法がある。
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