女性の描写
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 17:53 UTC 版)
「アルフレッド・ヒッチコック」の記事における「女性の描写」の解説
ヒッチコックの女性の描写は、さまざまな学術的議論の対象となってきた。フェミニスト映画理論家のローラ・マルヴィ(英語版)は1975年に発表した論文「視覚的快楽と物語映画」で「男性のまなざし」という概念を紹介し、ヒッチコック作品における観客の視線は、異性愛者の男性主人公の視線と同じであるとし、そこから男性観客が女性の登場人物をのぞき見るという視覚的快楽が提供されていると述べている。菅野はヒッチコックの女性の描き方について、「単に美的対象とするだけでなく、その不安、苦痛、恐怖を女性観客が後味の悪さをもって感知するように仕向けた」と述べている。 ヒッチコック作品のヒロインには、多くの作品で何度も繰り返して描かれる特徴的なタイプが存在する。それは「クール・ブロンド」と呼ばれる、洗練された金髪のクールな美女である。クール・ブロンドの女性たちは知的な雰囲気を持ち、表面は冷たそうで慎ましやかに装っているが、内面には燃えたぎるような情熱や欲情を秘めている。映画評論家の山田宏一は、彼女たちがセックスを好み、結婚相手をつかまえることにかけては本能的に天才的であると指摘しているが、ヒッチコック自身はこうしたヒロインたちの行動原理を「マンハント(亭主狩り)」と定義し、多くの作品にヒロインが結婚に向けて男性を誘惑するプロットを採り入れている。 ヒッチコックはヒロイン役に、クール・ブロンドのイメージに合致する金髪の女優を好んで起用した。例えば、『三十九夜』『間諜最後の日』のマデリーン・キャロル、『レベッカ』『断崖』のジョーン・フォンテイン、『白い恐怖』『汚名』『山羊座のもとに』のイングリッド・バーグマン、『ダイヤルMを廻せ!』『裏窓』『泥棒成金』のグレース・ケリー、『知りすぎていた男』のドリス・デイ、『めまい』のキム・ノヴァク、『北北西に進路を取れ』のエヴァ・マリー・セイント、『サイコ』のジャネット・リー、『鳥』『マーニー』のティッピ・ヘドレンである。とくにグレース・ケリーは、ヒッチコックが求める理想的な女性のイメージに最も合致する女優であり、ヒッチコックは彼女のイメージを「雪をかぶった活火山(外側は冷たいが、内面は燃えたぎっている女という意味)」と表現した。 ヒッチコック作品に登場する女性たちは、しばしば危険な状況や恐怖のどん底に陥ったり、事件に巻き込まれたり、時には死に追いやられるなどして酷い目に遭うことが多い。その描写のために一部識者からは女性の価値を見下していると批判されたが、これに対してスポトーは、むしろヒッチコックは女性を『汚名』や『裏窓』のヒロインのように、愛のために進んで多くの危険を冒す勇敢な人物として描いていると主張している。山田も、女性たちは事件に巻き込まれると逃げるのではなく、事件の核心に迫り、犯人を刺激して犯罪を誘発させ、その結果事件を解決へと導いていると指摘している。 このような女性の描き方には、ヒッチコックの女性の好みが反映されている。ヒッチコックは「私自身に関して言えば、自分の性的魅力をいっぺんに晒け出してしまわない女性が好きだ。つまり、人を惹きつける特徴があまり表に出ないような人が好き」と述べている。トリュフォーのインタビューでは、「わたしたちの求めている女のイメージというのは、上流階級の洗練された女、真の淑女でありながら、寝室に入ったとたんに娼婦に変貌してしまうような、そんな女だ」と述べているが、トリュフォーはその好みが「かなり特殊」で「個性的な発想」であると述べている。ヒッチコック作品の女性に金髪が多いのも、ヒッチコックが金髪女性を好んだからであるが、スポトーによると、『快楽の園』のヴァージニア・ヴァリや『下宿人』のジューン・トリップ(英語版)などのブルネットの女優は、ヒッチコックの意向で金髪に変えられたという。その一方で、ヒッチコックはマリリン・モンローやブリジット・バルドーのようなセックスをむき出しにしたグラマー女優を「繊細さを欠いていて、まるでニュアンスがない」と言って好まなかった。
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