土壌汚染発生の特殊性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/10 16:53 UTC 版)
大気汚染や水質汚濁と異なる土壌汚染独自の特徴がある。 この項目は、地下水汚染の記述と重複する。 公害を体感しにくいこと土壌汚染は、体感しにくい公害である。有害物質であるにもかかわらず、それが地下に浸透することにより、目視・においを体感しにくくなり、有害性を感じにくくなってしまう。有害物質を地下に浸透させるという行為は、体感できないがゆえ、公害を発生させているという認識が甘くなり、結果として公害の防止対策として低く扱われてしまう。各種法令等の公害防止施策が制定される以前は、屋外ヤードに野積みによる漏出や、行政指導による工場敷地内への廃水の地下浸透など、土壌に有害物質が染みこみやすい状況にあった。 長期にわたり滞留・蓄積する(拡散が非常に遅い)こと土壌に浸透した有害物質は、吸着などの現象により、土壌のみの汚染は地域的に限定されやすい。また地下水に汚染が拡散したとしても、地下水自体の流速が極端に遅いことも、滞留・蓄積性の高い汚染現象といわれる所以である。 地盤の環境機能は公共財的性格が強いが、土地は所有者の私的財産であること地盤の持っている環境機能は、大気や陸水と同様、ほぼ公共財として機能している。ところが地盤そのものは土地として私有財産となっており、この環境機能も土地の構成要素として含まれている。土壌汚染の対策では、憲法で保障された私有財産に様々な制限を加えることが考えられ、この点について、まだ定まった考え方がない。同様の議論は昭和40年頃から続く地下水についての「私水論'/公水論」の歴史があるが、地盤の環境機能として土壌や地層を含む地盤環境全体の考察はほとんどない。 汚染原因者負担の法則(汚染者負担原則)の厳格な適用が困難であること蓄積性の高い汚染であるため汚染発生時期を捉えにくいこと、物質の有害性の認識が後になって変わること、の2点により、汚染の発生時期や汚染原因者を厳密に特定することが困難である。 土壌汚染の発生は、その時代の社会的状況に強く依存する。まず第一に物質の化学的知見の不足から来る影響評価が未熟なこと、次に公害としての社会的認識不足、以上の2点である。 物質の化学的知見の不足取り扱っている物質が、後の化学的知見の発展により、有害ではない物質から、有害である物質と判明することがある。例えば、現在有害と考えられているテトラクロロエチレン(略称にPCEと表示されることが多い)はドライクリーニングの洗浄剤として広く使われていた。当時、洗浄力の高さ・非引火性などの特徴から「夢の溶剤」として、使用が奨励されていた。また有害ではないと考えられていたため、その廃液を地下浸透や大気拡散させていた。このような物質は、他にも「クロム鉱滓」があり、これは地盤強化剤として江東区(東京都)などの沖積低地の地域(軟弱地盤)に埋め立てられ、現在まで続く広域の六価クロム汚染を発生させている。 汚染を体感しにくいがゆえの公害としての社会的認識不足有害物質の使用者にとって、土壌への地下浸透は目の前から無くなってしまうため、公害としての認識が低くなってしまう。なお日本の水質汚濁防止法では無過失責任主義が規定されており、地下浸透した場合、故意・過失に関係なく、法的な責任を有する。 使用地域周辺においても、異常性を認識しにくいため、ごく近傍に有害物質があったとしても、公害としての認識が低くなってしまう。 体感しにくい対象を未然に防止するためには、認識を高めることが最も重要である。このためには基礎教育が重要であるにもかかわらず、理科教育の中で扱われることは少なく、また理科離れの社会現象も、問題を顕在化させにくくしている。
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