国民国家論の現在
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 03:22 UTC 版)
第二次世界大戦以降、旧植民地が相次いで独立し、また、その後の冷戦の崩壊による急速なグローバル化のなかで、「国民国家」の批判的な問い直しが進行している。社会科学や文化研究の領域においては、どのような文化装置ないし政治的装置によって「国民」という均質的な「想像の共同体」が現出したのか、また、「国民」は歴史的につくられてきた存在にほかならないのに、どうして言語や民族によって一定の過去や伝統、文化を保持する機構として自明視されたのか、さらに、「国民」の形成が、レイシズム(人種主義)や性差別、クセノフォビア(外国人嫌悪あるいは外国人恐怖)、階級などといった社会的な差別構造をともなうのは何故なのかなどの問題について分析作業が進められている。 1983年には、アメリカ合衆国の政治学者ベネディクト・アンダーソンによって、このような国民国家論の先がけとなる『想像の共同体』が刊行された。ここでは、近代社会への移行期に興起した「世俗語革命」による近代小説の成立、そして「出版資本主義」によって書籍が流通することによって「国家語」の成立に寄与したことが指摘された。そして、言語と出版文化の共有を通じ、「公定ナショナリズム」の後押しによって「国民」という集団的なアイデンティティが形成されていく仕組みと社会編成が示された。書名の「想像の共同体」とは、共同体のメンバーは「おそらく互いを知ることができない」ところに由来している。 同じ1983年には、イギリスの社会学者でユダヤ系のアーネスト・ゲルナーが『民族とナショナリズム』を著し、産業社会の勃興と国民形成の関連性を指摘した。そこでは、ナショナリズムは「政治的単位と民族的・文化的単位の一致を求める一つの政治的原理」であると論じ、「産業化」および産業社会の要請に応える高度な「識字能力」の一般化、また、巨大な社会的費用をかけた教育システムの整備を実行に移せるのは畢竟、国家でしかありえないとして近代ナショナリズムの起源を説明した。 1983年にはまた、イギリスの歴史家エリック・ホブズボームの編著による『創られた伝統』が刊行されている。これは、「国民国家」を歴史的な観点から考察したもので、「国民」「国家」「民族」の具体的・実定的なイメージを象徴する様々な伝統もまた、実は近代国家形成期に創出されたものにほかならないことが示されている。 1988年には、アメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインとフランスの哲学者エティエンヌ・バリバールが世界システム論などの見地から共著『人種・国民・階級』を著している。
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