問題のある配分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 03:47 UTC 版)
食糧の不足が何らかの理由で発生しても、必ずしも飢饉となるわけではない。とりわけ近年の農業技術の発達や食糧生産量の増加、国際的な輸送体制の下では、絶対的に食糧が不足することは稀である。 実際に、飢饉に際してもその地域、国家のすべての人が餓死するわけではなく、むしろ一部の人々が餓死する一方で、一部の人々には食糧が豊富にある場合が多い。また、飢饉が発生している地域から食糧が外部へと運び出される例も見られる。そして、過去の飢饉の記録を見ると、洋の東西や時代を問わず、都市部で餓死者が少ないか、食料が不足していないことが多く、むしろ、都市部へ人が避難して衛生状態が悪化したことによる疫病の例が多い。 このような点から、飢饉の原因は食糧の配分、つまり餓死者が食糧を手に入れられなかった理由にもある。以下では、その主要な理由を挙げる。これらは通常、複合して飢饉を引き起こす。 収入の減少・喪失 自ら自分自身の消費する食糧を生産している農家でない限り、現金収入を得て食糧を購入しなければならない。なお、農業に従事していても、必ずしも消費する食糧を生産しているとは限らない(例えばコーヒー豆やカカオなどの商品作物を栽培している場合)。また、土地所有者などに雇われている場合(プランテーションで働く場合など)には、労働の対価として現金を支払われている場合もある。そこで、経済情勢の変化や、天災・戦災などによる農地や工場の破壊により、収入の減少、失業が発生すると、十分な食糧の購入が困難になり、場合によっては餓死に至る。失業者が増加した場合には、労働力供給量の増加や消費の縮小で労働力の需給関係が悪化し、更なる賃金の低下、失業が起こるという悪循環になりやすい。 食糧価格の高騰 食糧価格の高騰が起こると、十分な食糧の購入が困難になり、場合によっては餓死に至る。食糧価格高騰の理由としては、天災や戦災などによる農産物の不作のほか、農産物の他への転用(飼料や醸造原料としての利用など)、他地域の経済発展・人口増加などによる食糧消費量の増加、価格高騰を見込んだ投機や売惜しみが挙げられる。 また、インフレによって全般的に物価が高騰し、食糧価格も高騰する場合もある。この場合には、物を売った際の収入も増え、賃金も上昇する傾向にあるが、通常賃金の上昇は物価の高騰よりも遅いものである。また、インフレの際には金融システムが崩壊し、多くの企業の倒産、失業を生むことも多い。 救済手段の不備 社会保障制度が十分に機能している場合には、失業の増加や食糧価格高騰が発生したとしても、雇用保険や生活保護などの形で何らかの救済が図られるため、餓死者を多数出すような飢饉には発展しない。また、国内での救済のほか、天災や戦災による大規模な飢饉は国際的な援助によって解消される場合も多い。しかし、江戸時代の日本のように鎖国状態である場合や、戦争や内戦によって交通・輸送システムが麻痺している場合や、独裁政権下などにあって弱者保護に注意が払われない場合には、今日においても国際的な援助も、そしてもちろん国内での援助も難しい状態にある。
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