労災隠し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 08:34 UTC 版)
事業者は、労働災害が発生し労働者が死亡し、又は4日以上の休業したときは、遅滞なく、労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない(労働安全衛生規則第97条)。報告をもとに労基署が職場や治療を担った病院を調査し、労災を認定するかどうかを判断する。報告を怠ったり、事実と異なる報告をすると労働安全衛生法違反となり、違反した事業主等は50万円以下の罰金に処せられる(労働安全衛生法第120条)。なお、休業がなかった場合、又は通勤災害の場合は報告の必要はない。休業が3日未満の場合は四半期ごと(各期の最後の月の翌月末日までに)の提出で足りる。 労働者自らが労災申請することも可能である。 厚生労働省の調査では、労災死傷者数が多いのは、労働者数そのものが多い飲食・小売などの第三次産業や、人手不足・工場の老朽化などが指摘されている製造業となっている。しかしながら、労働者死傷病報告を提出しない、あるいは虚偽の報告をする、いわゆる「労災隠し」によって書類送検された業種で多いのは、圧倒的に建設業となっている。建設業で労災隠しが多い原因として、以下の点が指摘されている。 業務災害発生によるイメージ低下、入札の指名停止被処分などの実害を嫌悪中小規模の建設業者の多くは公共工事に依存するため、指名停止は死活問題となる。 元請へ迷惑をかける、逆に元請が押し付ける 元請ほか営業上の得意先が第三者行為による加害者である労働者が元請や得意先を第三者行為の対象として申請すると、政府から元請や得意先に求償請求が回る(労働者災害補償保険法第12条の4)。そのため、事業主と被災労働者との話し合い(労災給付分を事業主が肩代わりするなど)により、労災保険の各種給付の請求を行わない場合もある。下請け業者は、元請けから出入り禁止にされれば食べられなくなるので事故を隠そうとする。 メリット制による将来の保険料負担が増加するメリット制の適用は継続事業の場合、労働者20人以上の事業場が対象であり、零細事業所ではメリット制による保険料の増加を心配する必要は本来はない。 所轄官庁への報告届出を面倒がる(社会保険労務士資格相当者がいないとスムーズな申請が難しい)事故の多い事業場は名指しでマークされ、もれなく労働基準監督官の臨検が入り、監視の目が厳しくなる。同じ違反が繰り返されれば送検されることになる。 労働者災害補償保険法上は、労働災害があった場合でも労災保険を使わずに、労働者が自費で支払ったり、事業者が補償したり、また代表者のポケットマネーで治療を行うことは違法ではない。労働災害の場合であっても労災の治療費、休業補償を請求しないことも違法ではない。しかしながら、当初は事業主が被災労働者に費用を出して黙らせていたものの、長引いた不況等の影響で出し渋った結果、次第に労災隠しが表に出てくるようになった。労災隠しは、労働災害防止対策の確立や再発防止・予防を妨げるものであり、発覚時には事業者が厳しく罰せられることになっている。 日本における2019年コロナウイルス感染症の流行状況下では、業務で感染した可能性が高いにも関わらず、医療機関以外の雇用主が労災としての対応を拒む事例が多いと報道されている。 命令により労働に従事したことにより発生した労災に関して、管理者に業務上過失致死傷罪など刑事罰を適用すべきか議論がある。
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