労災保険給付と第三者行為
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 04:27 UTC 版)
「労働者災害補償保険」の記事における「労災保険給付と第三者行為」の解説
労働災害の発生が第三者の行為を原因とする場合には、いったん政府から労働者に保険給付が支払われた後で、政府から、その原因を生じさせた第三者に対して価額の限度で求償権の行使(請求)が行われる(ただし、特別支給金は「保険給付」ではないので、求償は行われない)。当該第三者から同一の事由について先に損害賠償を受けたときは、その価額の限度で政府は保険給付をしないことができる。損害賠償との調整は、災害発生後3年間に支給事由が生じたものについてのみ行うこととされる(平成25年3月29日基発032911号)。示談が真正に成立し、かつその内容が損害全部の填補を目的としているときには、保険給付(災害発生後7年を経過した場合の年金給付を除く)は行われない。示談によりその限度において損害賠償請求権を喪失した後においては、たとい政府が保険給付を行ったとしても、喪失した損害賠償請求権の法定代位権の発生する余地はない(小野運送事件、最判昭和38年6月4日)。調整の対象となる損害賠償は、保険給付によって填補される損害を填補する部分に限られるので、精神的損害や物的損害に対する損害賠償(慰謝料、見舞金、香典等名目は問わない)は損害賠償を受けても調整の対象とはならない(平成8年3月5日基発99号)。なお第三者行為による場合、その旨(第三者が不明である場合は、不明である旨)を届け出ることとされ、この届出をしないときは、政府は保険給付の支払いを一時差し止めることができる(第47条の3)。二次健康診断等給付については、第三者に対する損害賠請求権の取得の問題は生じない(平成13年3月30日基発第233号)。 使用者が有責者である場合において、労災保険から保険給付がなされれば、使用者は労働基準法上の災害補償責任を免れ、その価額の限度で民事上の損害賠償責任も免れる(労働基準法第84条)。しかし保険給付が年金である場合、最高裁判所は「いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求にあたりこのような将来の給付額を損害賠償債権が控除することを要しない」(最判昭和52年10月25日)として、使用者に対して損害賠償請求できるとの立場をとっている。この問題を調整するため、障害(補償)年金または遺族(補償)年金の受給権者(受給権発生時に前払一時金を請求することができる者に限る)が、同一の事由について事業主からこれらの年金給付に相当する民事損害賠償を受けることができるときは、事業主は、年金給付の受給権が消滅するまでの間は前払一時金の最高限度額の範囲内で、履行を請求されたとしても損害賠償の履行をしないことができる(履行猶予)。そして履行猶予がなされている期間中において受給権者に労災保険から年金または一時金が支給されたときは、事業主はその支給額の範囲内で損害賠償の責めを免れる(免責)(附則第64条)。この部分については、通常支払う事業主はいないが、もし事業主が支払った場合は、被災労働者は事業主からと労災保険からと二重に填補を受けることになる。また、対応する保険給付がない精神的損害や物的損害に対する損害賠償、労災保険給付に上積みして支給される企業内の補償金、受給権者本人以外の遺族が受けた損害賠償については調整の対象とはしない。支給調整は、9年か、就労可能年齢を超えるに至った時までの期間のうちいずれか短い期間を限度として行う(停止期間が終われば、給付は再開する)。なお同僚労働者が加害者であって事業主に使用者責任が成立する場合、政府は求償を控える扱いとなっている(昭和61年6月30日基発383号)。有責者が元請ほか営業上の得意先である場合の問題点については、労働災害#労災隠しの項を参照。
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