作品の成立事情
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/14 03:46 UTC 版)
脚本家出身のビリー・ワイルダーによる監督第3作で、彼と作家レイモンド・チャンドラーとの共同脚本である。 ワイルダーは、1943年に北アフリカでの戦車戦を題材にしたサスペンス映画『熱砂の秘密』(フランチョット・トーン、アン・バクスター、エリッヒ・フォン・シュトロハイムらが出演)を製作してヒットさせ、次の作品の想を練っていた。 ジェームズ・ケインの小説『倍額保険』を読んで、その内容を気に入ったワイルダーは、長くコンビを組んできた脚本家チャールズ・ブラケットに「これを映画化したい、シナリオにできるだろうか」と差し出した。 しかし、スクリューボール・コメディの優れた書き手ながら根は旧式な道徳主義者のブラケットは、この当時としては極めてインモラルな小説を一読するや「糞だな」と評し、脚本化をにべもなく拒否したという。 そこで映画会社と契約を結んだばかりのチャンドラーがワイルダーと組むことになった。しかし初老で気難しく、映画脚本は初挑戦のチャンドラーと、まだ30代で洒脱な性格、脚本家としては既に一流だったワイルダーは、およそ正反対のタイプで非常に折り合いが悪かった。「軽薄に見える」ワイルダーの言動に何かと機嫌を損ねるチャンドラーと、映画シナリオ執筆の流儀に通じていないチャンドラーの扱いに閉口するワイルダーとの軋轢は深刻で、執筆は難航したという。 しかもチャンドラーは、ジェームズ・ケインの作品が大嫌いであった(それでも仕事を受けたのは、カネ目当てで、映画会社と高額の報酬で脚本家契約を結んでいたからである)。とかく我の強いチャンドラーは、原作者のケインが同席した製作会議の席でも容赦なく原作を罵倒したというが、ケインは賢明にも沈黙を守った。 ともあれ、この映画にはチャンドラー得意の鮮やかな修辞と、ワイルダー流の辛辣な人物造形(および、隠し味のユーモア)が随所に見られる。 そのストーリーは、フィルム・ノワールの体現と言っても良く、破滅に直面する主人公の回想によって物語を描く、というスタイルは、フィルム・ノワールの基本手法の一つとさえなった。 ワイルダー演出、ジョン・サイツ撮影による、重苦しく不安を誘う映像には、フィルム・ノワールの典型として、ドイツ表現主義の影響が如実に見られる。夜間撮影のシーンは本作の白眉であり、特に実際のロサンゼルス駅周辺で、この地域の治安の悪さをおして夜間ロケーションを敢行した偽装工作シーン前後のサスペンスは、極めて秀逸なものとなった。 抑制されながらも不安に満ちた伴奏音楽はミクロス・ローザによるもので、後のサスペンス映画音楽の範となっている。
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