代表的病態の診断
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:47 UTC 版)
甲状腺ホルモン亢進症(TSH感度以下、FT4高値あるいは正常) 甲状腺ホルモン亢進症の約80%がバセドウ病である。残りの約10%ずつを無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎が占めている。1%以下で機能性結節性甲状腺腫と妊娠性甲状腺機能亢進症がみられる。厳密にはTSH感度以下、FT4高値あるいは正常という病態は必ずしも甲状腺機能亢進症だけではなく、甲状腺に炎症が起こりホルモンが漏出する場合もあり、これを破壊性甲状腺中毒症という。甲状腺機能亢進症と破壊性甲状腺中毒症の区別には放射性ヨード甲状腺摂取率の測定で区別ができる。ヨード甲状腺摂取率が高ければ甲状腺機能亢進症であり低ければ破壊性甲状腺中毒症である。検査には1週間のヨード制限食などが必要となる。他の検査法としてはTSHレセプター抗体やカラードプラー、FT3/FT4比などが参考になる。 甲状腺筋機能低下症(TSH高値、FT4低値あるいは正常) 医原性の甲状腺機能低下症(手術、放射線治療、抗甲状腺薬の服用)を除けばほとんどが橋本病である。甲状腺腫があり抗甲状腺抗体が陽性ならば橋本病である。甲状腺腫があっても抗甲状腺抗体が陰性ならば超音波検査を行う。甲状腺腫が弾性硬から硬、超音波で内部エコーの不均一や低エコーが認められれば橋本病と考える。吸引細胞診を行いリンパ球浸潤があれば橋本病と診断できる。結節がある場合は甲状腺機能低下症の鑑別とは独立に悪性腫瘍の鑑別を行う。ヨードの過剰摂取、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎の回復期、潜在性甲状腺機能低下症、アミロイドーシスなどでも上記検査異常を示すこともある。抗甲状腺抗体の検査にはサイロイドテスト、マイクロゾームテスト、TPOAb、Tg-Abの4種類が知られている。サイロイドテスト、マイクロゾームテストでは予後予測を行うことができる。 甲状腺機能正常の甲状腺腫を見た場合(TSH正常、FT4正常) 甲状腺腫がびまん性の場合は橋本病、結節性甲状腺腫、腺腫様甲状腺腫が鑑別となる。甲状腺腫が結節が見られるときは腺腫様甲状腺腫であることが圧倒的に多いが結節が悪性であるかどうかの判断が最も重要である。結節性甲状腺腫で最も多いのが腺腫様甲状腺腫である。悪性腫瘍で最も多いのは乳頭癌である。悪性疾患の診断は超音波所見と穿刺吸引細胞診できまる。直径1cm以下では超音波で悪性所見がある場合に穿刺吸引細胞診を行う。悪性所見とは形状不整、微細石灰化が主だが、低エコー腫瘤、内部エコー不均一のみの場合などがある。 甲状腺に疼痛がある場合 甲状腺に疼痛をきたす疾患は亜急性甲状腺炎、橋本病の急性増悪、急速に増大する未分化癌、シストや腫瘍内への出血、急性化膿性甲状腺炎がある。最も頻度が高いのは亜急性甲状腺炎、次にみられるのが嚢胞や腺腫様甲状腺腫、腫瘍内への出血である。甲状腺腫が急速に増大し圧迫症状があれば頸部Xpで気管狭窄の有無を調べる。気管狭窄があれば未分化癌の可能性が高い。全身性の発熱、FT4高値、赤沈亢進があれば亜急性甲状腺炎の可能性が高い。 NTI(nonthyroidal illness) 飢餓状態や敗血症、急性心筋梗塞、肝硬変、腎障害などの患者で血清中の甲状腺ホルモンの値がしばしば低下する。軽症者ではFT3のみ低下し、重篤な状態になるとFT3だけでなくFT4が低下したりやTSHも異常をきたすことがある。甲状腺自体には異常がないからこのような状態をeuthyroid sick syndrome(ESS)という。またこのような状態をきたす疾患、すなわち甲状腺ホルモンに異常を生じる可能性のある甲状腺以外の疾患をNTI(nonthyroidal illness)という。入院患者ではNTIの頻度が高くFT3低値は約50%に、FT4低値は15 - 20%に、TSHの異常は約10%にみられる。したがって入院患者の場合、甲状腺腫や明らかな甲状腺機能異常を疑う所見がなければ甲状腺機能異常のスクリーニングを行うべきではない。またESSの患者で甲状腺ホルモンを投与して有用であったという報告はない。
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