代数的不変式論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 07:21 UTC 版)
ネーターの経歴の第一の時代における研究の多くは不変式論(英語版)、主に代数的不変式論(英語版)、と関係している。不変式論は変換の群の下で変わらないままの(不変な)式に関心がある。日常的な例としては、固いものさしを回転すると、その端点の座標 (x1, y1, z1) と (x2, y2, z2) は変わるが、公式 L2 = Δx2 + Δy2 + Δz2 によって与えられるその長さ L は同じままである。不変式論は19世紀後半の研究の活発な領域であり、1つにはフェリックス・クライン (Felix Klein) のエルランゲン・プログラムによって駆り立てられた。それによると、異なるタイプの幾何学は変換の下での不変量、例えば射影幾何学の複比(英語版)、によって特徴づけられるべきである。不変量のarchetypal(英語版)な例は二変数に次形式 Ax2 + Bxy + Cy2 の判別式 B2 − 4AC である。これが不変量と呼ばれるのは、線型な置き換え x→ax + by, y→cx + dy で行列式 ad − bc が 1 であるものによって変わらないからである。このような変換の全体は特殊線型群 SL2 をなす。(すべての可逆な線型変換からなる一般線型群のもとで不変な量は(0 を除いて)存在しない、なぜならばこれらの変換はスケール因子を掛けることを含むからである。救済策として、古典的な不変式論はスケール因子の違いを除いて不変な形式である相対不変量も考えた。)SL2 の作用によって変わらない A, B, C のすべての多項式を求めることができる。これらは二変数二次形式の不変量と呼ばれ、判別式の多項式であることが分かる。より一般に、高次の斉次多項式 A0xry0 + ... + Arx0yr の不変量を求めることができる。それは A0, ..., Ar を係数とするある多項式である。さらに一般に、2つよりも多い変数の斉次多項式に対して同様の問いをたてることができる。 不変式論の主な目標の1つは "finite basis problem" を解くことだった。任意の2つの不変量の和や積は不変量であり、finite basis problem はすべての不変量は生成元と呼ばれる有限個の不変量のリストから始めて得ることができるかどうかを問うた。例えば、判別式は二元二次形式の不変量の(1つの元からなる) finite basis を与える。ネーターの指導教官パウル・ゴルダン (Paul Gordan) は「不変式論の王」("king of invariant theory") として知られていて、彼の数学への主要な貢献は1870年に2変数の斉次多項式の不変式に対して finite basis problem を解いたことだった。彼はこれをすべての不変式とそれらの生成元を見つける構成的な方法を与えることによって証明したが、3変数あるいはそれより多い変数のときにこの構成的なアプローチを遂行することは出来なかった。1890年、ダフィット・ヒルベルト (David Hilbert) は任意個の変数の斉次多項式の不変式に対する同様の主張を証明した。さらに、彼の手法は、特殊線型群だけでなく、特殊直交群のような部分群のいくつかに対しても有効なものであった。彼の最初の証明はいくらか論争を引き起こした、なぜならば生成元を構成する手法を与えていなかったからである、しかしながら後の研究によって彼は彼の手法を構成的にした。ネーターは学位論文でゴルダンの計算的証明を3変数の斉次多項式に拡張した。ネーターの構成的なアプローチにより不変式の間の関係を研究することができるようになった。後に、彼女がより抽象的な手法に転換した後、ネーターは彼女の論文を Mist (がらくた) and Formelngestrüpp (方程式のジャングル) と呼んだ。
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