中毒における役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/08/13 22:53 UTC 版)
島皮質は飢餓や渇望といった身体状態を作り、食べ物や薬物への衝動を生み出す。多くの脳機能イメージング研究によって、島皮質は薬物乱用者が薬物の渇望を引き起こすような刺激を受けたときに活動することが分かっている。この現象はコカイン、アルコール、アヘン、ニコチンを含む様々な種類の薬物中毒で見つかっている。これらの発見に関わらず、薬物中毒に関わる文献では、島皮質の関与が無視されてきた。このことは現在の中毒のドーパミン報酬説の中心を占める、中脳ドーパミン系の直接の標的がよく分かっていないためと考えられる。最近の研究では、例えば脳卒中などによって、島皮質にダメージを受けた喫煙者は、煙草に対する中毒症状が事実上消失することが示されている。しかし、この研究は脳卒中から平均して8年後に行われたため、著者らは結果に対し、想起バイアスによる影響があることを認めている。 他の領域で脳卒中が起きた喫煙者に比べて、彼らは最大136倍以上の中毒症状が失われる傾向が見られた。中毒症状の消失は自己申告による行動の変化、例えば脳損傷から1日以内に煙草を吸わなくなったかや、禁煙で安心感を得たか、禁煙後に煙草を吸わなかったか、禁煙後に煙草を再開する衝動に駆られなかったかを調査することによって行われた。このことにより、ニコチンや他の薬物の中毒の神経科学的機構に関して島皮質が重要な役割を持ち、この領域が中毒症状の新しい治療法の標的となりうることが示唆された。加えて、この発見により島皮質を介した機能、特に意識的な感情が薬物中毒の治療に重要であることが示された。このような考えはそれまでの研究や文献では示されていなかったものである。 コントレラス (Contreras)らによるラットを用いた最近の研究では、これらの発見を裏付けるものとして、島皮質の不活性化により、薬物渇望の動物モデルである、アンフェタミンによって条件付けられた場所選好が消失することが示された。この研究において、島皮質の不活性化により、塩化リチウムの注射による不安反応も消失することから、島皮質によるネガティブな内受容性状態が、中毒に一定の役割を持つことが示された。しかし、この研究において、条件付けされた場所選好がアンフェタミン注射の直後に起きることから、この場所選好は、島皮質によって引き起こされる、アンフェタミンの離脱症状による遅い嫌悪効果というよりは、アンフェタミン導入による素早い誘因性の内受容性効果によるものと考えられる。 ナクヴィ (Naqvi) らにより提唱されたモデルでは、上で見るような薬物使用による誘因性の内受容性効果 (例えばニコチンの気道感受性への効果やアンフェタミンの心臓血管への効果) が島皮質において保存され、薬物使用と関連付けられた刺激に曝されることで、その効果が活性化するとされている。多くの機能イメージング研究において、島皮質が中毒者の薬物使用の際に活性化することが示されている。また、いくつかの研究では、薬物使用者の島皮質が、薬物に関連する刺激を呈示された際に活動し、その活動は被験者の薬物に対する主観的な渇望に比例するとしている。このような研究では、実際に体内の薬物レベルを変化させていないにも関わらず島皮質の活動が起きる。したがって、単に薬物使用による内受容性効果のみではなく、島皮質は過去の薬物使用に関する誘因性の内受容性効果の記憶や、未来におけるそれらの効果の予期にも関連していると考えられる。これらは、まるで身体の内側から湧き上がるような自覚的な渇望を生む。それにより、中毒症状が薬物の使用を身体が望んでいるように感じられるものになるので、この研究によると、島皮質を切除された人は身体が薬物使用に対する衝動を忘れてしまったようであると報告している。
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