三草山の保護とゼフィルス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/09 14:18 UTC 版)
ところで、かつてはこの山は薪や炭の材料をとる目的の入会地として利用されていた農用林が存在していた。そのように三草山も、他の多くの里山と同様、人々の生活と深い関わりを持ち、それでいて、局所的にしか生息していない希少種のヒロオビミドリシジミや、ウラミスジシジミなど、日本に生息するミドリシジミ類のチョウ(これをゼフィルスと呼ぶ)のうち25種のうち10種が生息し、学術上貴重な落葉広葉樹を主とした雑木林を有していた。とりわけ、その幼虫がナラガシワしか食べることができないヒロオビミドリシジミに関して言えば、日本の分布の東限にあたるのがこの三草山であり、その点でも非常に重要な意味を持つ雑木林がここには存在している事となる。しかしながら、戦後の高度成長以降、人々の生活様相が大きく変化したため、その様な雑木林は経済的価値を失ってしまった。現在行われている自然の保全活動がスタートする前は、地元に対して、ゴルフ場造成などの土地開発の話もあったという。更に、土地開発等のみならず、経済的価値を失ったことによって林野に人の手が入ることがなくなったために、雑木林は荒れるようになっていき、その結果として、ミドリシジミの生育に適した環境(開放的な林層の存在など)は失われていく一方、人の目が届かないことからマニアや業者による違法な捕獲が進んでいた。 そのような中で、地元能勢に住むこの山付近の雑木林の地権者が先祖代々から引き継いだ雑木林の形式を残す意向を示したことで保全事業を開始する事となった。1992年6月には、その同意を基として、三草山の南東側のナラガシワが多く繁茂する約14.48ヘクタールのエリアについて、財団法人大阪府みどりトラスト協会が地権者である稲地生産森林組合(約5.15ヘクタール)、平野共有林(約4.93ヘクタール)、神山共有林(約2.39ヘクタール)、上杉共有林(約2.00ヘクタール)の所有者と、30年間の地上権設定契約を交わし、生えている木を買い取ることとした。1992年9月には、大阪府内では、見慣れないナラガシワを含む里山的景観を残しており、更に、チョウ類の仲間で非常に限られたエリアにのみ分布することが確認されているされているヒロオビミドリシジミをはじめとするミドリシジミ類の貴重な生息地となっていることを理由に、その雑木林が三草山ゼフィルスの森という名前でそれらの保全を図る事を目的に大阪府緑地環境保全地域の指定を受けた。このような三草山の自然環境が積極的に保護されてきた事が好感され、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが、毎年公表している「都市部で緑が豊かで生物多様性が保たれている自治体ランキング」の2016年分において能勢町及び三草山ゼフィルスの森に隣接しており三草山の山体の一部が及んでいる猪名川町が、栃木県茂木町及び那須町、岐阜県恵那市、奈良県宇陀市及び広島県竹原市とともに全国の自治体でトップとなった。 このように、三草山の雑木林のゴルフ場化などの土地転用は自然保護への動きがあったおかげで防ぐことができたものの、まだまだ多くの課題が残っていた。例えば、以前は行楽やハイキングとして利用されていた登山コースや、旧街道も、以前とは趣も異なり荒れ果て、ネザサが生い茂っているため山頂に至る主たる登山道も使えないような状態で放置されたままであるばかりか、その状態が数十年間続いたために、常緑樹が本来は道であった所にまでも生えている等々、植生の遷移も進行していた。そのため、「三草山ゼフィルスの森」における保護活動にあっては、まず、放置されていた森林を整備することからはじめる必要があり、更にそれと並行して、ゼフィルス類を中心としたモニタリング調査の実施によるチョウ類の生態やその個体数などの把握をすることも求められた。この活動は、「城好会」の人々の巡視活動をはじめとする、地域住民の理解と協力を背景に成功をおさめ、結果として、1992年6月の保護開始時点で確認されていたチョウ類の種数を減らすことなく生息環境を維持することができたという。なお、現在、三草山では70種近くのチョウ類が確認されているという。
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